第20話 停学終了⁉

「ピーンポーン」


中西、杉山とメールのやり取りをして一時間ほど経った。


インターホンの音を聞いて俺は玄関に足を運ぶ。


「はーい」


そんな声と同時にドアを開ける。


「こんにちは! 龍星さん!」


「龍ちゃーん! お久しぶりぶり!」


ドアを開けると中西と杉山が立っていた。


「はあ」


俺は二人の様子を見て思わず溜め息を吐いてしまう。


「どうしました?」


「どうしたんだいん?」


俺の様子を不審に感じたのか二人はそう訊いてきた。


「何でもねえよ。とりあえず上がってくれ」


俺は二人に上がれと促す。


「おじゃまします!」


「おっじゃまーしまーす!」


そう言って二人は中に入って行った。


俺は二人をリビングに案内し座らせる。


そして一番訊きたかったことを訊くことにした。


「おい杉山」


俺が少し強い口調で言うと杉山は首を傾げた。


「何で俺の家知ってんだよ」


「何でってそれは......先生に聞いたから!」


満面の笑みを浮かべてそう言った杉山。


普通先生に訊いても教えてくれないもんだろ。うちの学校の教師は少し変わってるのか。そんな疑問が頭に浮かぶ。


そんなことを考えていたら杉山が再び口を開いた。


「龍ちゃんが休んでいる間のプリントを届けろって言われたんだよ。だから龍ちゃんの家を教えてくれた」


そう言って杉山は鞄からA4サイズの茶色い封筒を取り出した。


それを俺に渡してくる。


中身を確認すると宿題のプリントや色々な連絡のプリントが入っていた。


停学にさせといて宿題はやらせるのかよ。


俺は少しイラっとした。


俺はイラっとしながらももう一つ気になっていたことを訊いた。


「で、お前らは何で二人でいたんだ?」


俺がそう訊くと二人は後頭部を掻いて『バレてたかぁ~』と言った。


当たり前だ。二人同時に俺の家に来たいなど言うはずもないからな。


俺は鋭い目つきで二人を交互に見る。


すると二人は急に姿勢を正して俺を見た。


「な、何だよ」


俺は動揺しながらもそう言った。


すると杉山が口を開いた。


「龍ちゃんに報告がある。今日はそれを伝えるために来たんだ」


それを聞いた俺は額に冷や汗を掻きながら杉山の言葉を待った。


杉山は一度咳ばらいをして話を始めた。


「俺と中西ちゃんのおかげで龍ちゃんの停学期間が短くなりましたぁ~!」


そう言って二人はパチパチと拍手をした。


俺は目を見開いてそん様子を眺める。


言っている意味が分からないからだ。


困惑している俺の姿を見た中西が口を開く。


「龍星さんの停学は今日までなんですよ!」


満面の笑みを浮かべてそう言った中西。


「どういうことだ?」


俺は思わずそう訊き返した。


すると杉山がポケットからスマホを取り出して何かをし始めた。俺はその様子をただ見つめるだけ。


すると杉山がいきなり俺の方にスマホの画面を向けてきた。


そこには一本の動画がある。


「何だこれ」


俺がそう言うと杉山はニヤッと笑って動画を再生した。


俺はその動画に視線を向ける。最初は何の動画か分からなかったが見ていくうちにその動画が何なのか分かった。


「これって」


「そう! あの事件のやつだよ!」


杉山はグッドポーズをしてそう言った。


あの事件と言うのは血原や杉山が関わった事件のことだ。


その事件の様子がしっかりと動画に収められていた。


「その動画と俺の停学が短くなるのって関係あるの?」


「もちろんだよん!」


一体どんな関係があるのか。


俺が疑問に思っているとそれを見透かしたように中西が口を開いた。


「確かに龍星さんが先に手を出したということには変わりはありません。ちゃんとこの動画にも映ってましたから。けど何故龍星さんの停学が短くなったのか。気になりますよね?」


ニコッと笑って俺に顔を近づけてくる中西。


しかし俺はお互いの顔の距離が近いことなど気にすることなく真剣な眼差しを中西に向けた。


すると中西は話を再開した。


「龍星さんが無防備な私を守ってくれたからです!」


「え?」


俺は理解が追いつかないでいた。


中西の隣では何度も頷く杉山の姿がある。


「私を守るのに必死になっていた龍星さんを見て第3高校の校長も考えが変わったんでしょう。今話したことは私と杉山さんの憶測でしかないですが、校長が龍星さんの停学期間を短くしたのは事実です!」


満面の笑みを浮かべてそう言った中西。


ただの憶測かい。心中でそうつっこんどいた。


まあ、あの動画を見て気が変わったのは確かだろう。けどこんな簡単に停学期間を短くしていいのだろうか。少し甘くない? そんな考えが頭に浮かぶ。


そんなことを考えていると家の固定電話が大きな音を鳴らし始めた。


「びっくりしました」


中西は胸に手を置いて一回息を吐いた。


俺は固定電話の方へ足を運び電話に出る。


すると相手はうちの学校の校長だった。


校長との会話は約10分ほど続いた。


会話が終わり俺は二人のもとに戻る。すると中西が頭の上にはてなマークを浮かべて口を開いた。


「誰からだってんですか?」


「うちの学校の校長だ」


俺がそう言うと中西と杉山は俺をじっと見た。


話した内容を教えろと言っているかのように。


俺は一度溜め息を吐き口を開く。


「明日から学校に行っていいんだと。何回も謝られた」


「そうですか! それは良かったです!」


ニコッと笑う中西。


「良かったじゃん! これも俺と中西ちゃんのおかげかな!」


グッドポーズをしてウインクをする杉山。


俺は呆れながらも口を開く。


「まあ何だ......ありがとな」


俺は少し照れながらそう言った。恐らく今の俺の顔色は真っ赤に染まっているだろう。


俺の言葉を聞いた二人はニコッと笑った。


「じゃあ俺は帰るねぇ~。後はお二人で! じゃあねえ~」


手を振りながらリビングから出て行こうとした杉山。しかし杉山は足を止めてこちらに視線だけ移した。


ニヤッと笑って口を開いた杉山。


「二人きりだからって変なことはしちゃダメダメだからねぇ~」


そう言って杉山は今度こそリビングから出て行った。


そして『お邪魔しました』と言って俺の家からは出て行った。


リビングには俺と中西の二人だけとなった。


「変な事なんてしねえよ......」


俺は誰にも聞こえない声でそう言った。


俺と中西の二人きりの空間が今始まろうとしている。

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