第12話 杉山光輝

「龍ちゃーん。また一人かよ~。可哀想に友達になってあげようか? 嘘だよん!」


改めて紹介しよう。毎朝俺にちょっかいをかけてくるこの男は杉山光輝すぎやまこうき


俺が一人でいることを毎日のようにいじってくる。


「失せろやカス」


その度に俺はこんな風に言って追い払う。


このような事が毎朝起こっている。


俺自身、少しは慣れたもののやはりまだ癇に障る。


しかしこの頃は朝以外にも俺のことをいじってくるようになった。


理由は恐らく俺が中西と一緒にいたところを見られたからだろう。


その証拠として『あの女龍ちゃんの~?』とか『彼女さんバリバリ可愛いじゃん!』とか俺に言ってくる。付き合ってもないのに勝手にカップルにされたくない。


俺も杉山の対応をすることがめんどくさくなってきたので無視をすることにした。


それでも杉山は俺に関わってくる。


そこまで関わってこられると俺と友達になりたいのかと勘違いしてしまうくらいだ。


けど何故俺にそこまで関わってくるのだろうか。


俺にボコボコにされるとは思わないのか。


まあ杉山が俺より強いか弱いかなんて俺自身が一番分かっているが。


その答えは俺より強い。もしくは互角のどちらかだ。俺の方が強いということは絶対にあり得ない。


あいつはムカつく野郎だが強さのレベルは違う。


俺が一年の時、今と同様にあいつに茶化されたことがある。その時は初対面にもかかわらず癇に障る野郎だと思った。


俺は怒りを抑えきれずそのまま殴りかかった。


しかしその時俺は、初めての経験をした。


一度も止められたことのない俺の拳。その拳を杉山は片手のてのひらで軽々と止めた。


その時感じた。こいつはやべえと。喧嘩の才能に恵まれている、そう思った。


しかし後々耳にした話によると杉山は格闘技全国一位らしい。


何であんなに強いのかという疑問がそれを聞いたことで解決された。


これが俺が杉山に勝てないと思った理由だ。


そしてこの日も俺は茶化され続けたのであった。


そんな災難を乗り越え俺は帰宅するべく校舎から出た。


いつも通り校門に向かう。


正直中西のことなどどうでもよかったが癖でつい校門に着くと中西の姿を確認してしまう。


「今日はいねえのか」


珍しいことのあるもんだ。毎日欠かさずうちの学校の校門に来ていた中西の姿が今日はどこにも見当たらなかった。


俺は少し違和感を抱きながらも駅の方に歩き始めた。


するとまたしてもこの男がやって来た。


「あらら。とうとう彼女さんに逃げられちゃったか~。どんどんまい!」


舌をペロッと出しながらグッドポーズをするこの男。そう杉山だ。


俺は言い返すのがめんどくさくなったので無言を貫いてこの場から去ろうとした。


するといきなりスマホがぶるっと震えた。


滅多に震えない俺のスマホが珍しく震えた。今日は珍しいことがいっぱい起こる。


俺はスマホをポケットから取り出し画面を見た。するとそこには一通のメールが届いている。俺はスマホのロックを解除しメール内容を確認する。


俺がこうして画面を見ている時でさえ杉山は『彼女から~?』とか『ふぅふぅ!』など言って茶化してきた。


しかし俺はそんなことには構わずメールを見る。


するとメールにはこう書かれていた。


『助けて』


たったこれだけの短い文。いつもならいたずらメールと思いスルーするが今回はわけが違う。


このメールの差出人は中西からだった。


俺は額に大量の冷や汗を掻いた。


そして鞄を地面に落として全速力で走り出す。


中西なんてどうでもいいはずなのに何故か見捨てることが出来ねえ。


「どこだよ」


俺はそんな独り言を呟きながら校門を通り過ぎた。


この時の俺はまだ知らない。あんなことになるなんて。








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