第11話 女子高生とゲームセンター
今日の朝、駅である出来事が起こった。
電車から降りた時だった。
「龍星さん!」
中西が俺に声をかけてきた。こいつと同じ電車に乗ることはもう当たり前になっていた。
「何だ」
「今日の放課後、デ、デートしませんかっ!」
頭を深く下げてそう言った中西。
しかし俺はそんな彼女を無視して学校に向かって歩き出した。
すると彼女は慌てて俺の前に現れ両手を開いて道を塞いできた。
「待ってください! デートって言ってもただ遊ぶだけで......」
ごにょごにょ言って何を言っているのかが全く分からない。
「嫌」
俺はとりあえずそう伝えこの場から去った。
しかし中西は諦めが悪くまたしても俺の道を塞いだ。
殴り飛ばしてやろうと思ったが流石に女子には手を出せない。
俺は後頭部を掻いて口を開く。
「どこだ?」
「え?」
俺の言った意味が分からなかったのか首を傾げて頭の上にハテナマークを浮かべている。
俺は一度溜め息をついて口を開いた。
「だからどこに行くんだ? そのデートは」
俺がそう訊くと中西は少し嬉しそうにして話を始めた。
「一度も行ったことがないので一度は行ってみたいと思ってた所があるんです!」
「だからそれがどこかって訊いてんだよ!」
少し怒鳴ると中西は、ハッとして慌てたように口を開いた。
「ゲ、ゲームセンターです」
少し恥ずかしそうにそう言った中西。
しかし何故俺とゲームセンターに行きたいのかが謎である。
俺はその疑問を正直に伝えた。
「何で俺を誘ったんだ?」
「龍星さんならゲームセンターみたいな場所に慣れてらっしゃるかなと思いまして。それに......」
「それに?」
俺がそう訊き返すと中西は慌てて首を横に振り『何でもない』と連呼した。
しかし中西の考えは間違いだ。俺は確かにゲームセンターには結構足を運んでいた。けどそれは昔に話。今となっては全く行かない。まず、一緒に行く友達もいない。
俺は今思ったことをそっくりそのまま中西に伝えた。
すると中西は目を見開いて驚きを隠せないでいる。
「龍星さんって何か私と似てますね」
そう言って少しニコッと笑った彼女。
「何だ、馬鹿にしてんのか?」
俺は少し睨みながらそう言った。
けど中西は怖がる様子もなく、落ち着いた様子で口を開いた。
「いいえ。嬉しいんです。仲間が出来たみたいで」
少し顔を赤らめてそう言った。
それを聞いた俺は、何故か中西に協力してやりたいと思った。
「分かった。じゃあ学校が終わったらいつも通りうちの学校に来てくれ」
そう言うと中西は満面の笑みを浮かべて頷いた。
これが朝起こった出来事。
そして今中西と合流した。
「こんにちは! 龍星さん!」
こいつとここで会った時の第一声は必ず『こんにちは! 龍星さん!』だ。
俺はそんな中西を無視して歩いた。
その後を中西は嬉しそうに着いて来る。
ゲームセンターに向かっている途中、中西が口を開いた。
「とても楽しみです!」
ニコニコして俺を見てくる。
そんな彼女を見ていると自然に喋りだしてしまう。
「そうか」
喋りだしてしまうと言っても、こんな一言だけ。それでも中西は嬉しかったのか満面の笑みを浮かべながら俺との距離を縮めてきた。
——くそ。この女勝手なことをしやがって。
俺はそんなことを思いながら気づかれないように怪訝そうな顔をする。
その後も何気ない会話を交わしながらゲームセンターの方へ足を運んだ。
ゲームセンターに着くと中西が目をキラキラ輝かせながら口を開いた。
「私、UFOキャッチャーというのをしてみたいです!」
そう言って俺の返事を聞くことなく俺を引っ張ってUFOキャッチャーの方へ歩いた。
「お前いきなり引っ張んなよ」
俺がそう言うと中西は舌先をちょこんと出して『すみません』と謝った。
謝ってくれたのだ。ここは許してやろう。
「龍星さん龍星さん! これってここにお金を入れるんですよね?」
そう言ってお金の投入口を指さした。
そんなことも知らないのかとちょっと呆れながら俺はお金を入れて手本を見せることにした。
「お前このぬいぐるみストラップ欲しいの?」
「はい! けど難しそうです」
顎に手をやり真剣にアームを見つめる中西。
「しょうがねえ。俺が取ってやる!」
俺は早速ボタンを押しアームを動かす。最初のボタンを押すとアームは横に動いた。
「この変か......」
俺はそんなことを呟いて次に、もう一つのボタンを押す。すると今度は縦に動いた。
丁度いい場所にアームを動かしボタンを離す。
するとアームが自動で真下に降りぬいぐるみストラップを掴んだ。
「すごい!」
「これはいけるぞ!」
俺と中西が同時に声を上げる。
アームはぬいぐるみを掴むとゆっくり真上に上がって行く。
俺と中西は固唾を呑んでこの状況を見守る。
しかしことはそう簡単にはいかず、ぬいぐるみはアームから離れて元の場所とほぼ同じ所に戻った。
「くっそ~」
俺は頭を抱えて悔しそうに唸った。
「惜しかったです! 次は私もやってみていいですか?」
そう言って中西もお金を入れUFOキャッチャーを始めた。
しかし中西も俺と同じような結果で終わった。
その後そのぬいぐるみストラップは諦めて違うゲームを堪能した。
その時間はおよそ一時間ほど。
ゲームを堪能し終えて俺たちはベンチに腰を下ろした。
結構歩いたこともあり足に疲労が溜まった。
俺はベンチに座ると中西を横目で見た。
するとそこには確かに楽しそうにしている中西の姿があった。しかしそれとは別に違う姿の中西が隠れているような気がした。
やっぱあれか......。
「わりい。ちょっとトイレしてくるわ」
そう言って俺は足を動かした。
約30分後
「悪い待たせた」
「全然大丈夫ですよ!」
中西は俺のトイレが長かった理由を聞かずに立ち上がった。
「それでは今日は解散にしましょう!」
ニコッと笑ってそう言った中西。
俺たちはゲームセンターから出て駅に向かった。
程なくして駅に着く。
俺たちはいつもと同じ行先の電車に乗る。そしていつもと変わらず会話を交わさなまま目的に駅に辿り着いた。
電車を降りいつも別れている場所まで一緒に歩く。
その場所に辿り着くと中西が口を開いた。
「今日はありがとうございました!」
「別にいい。それと関係ない話だがお前俺とため?」
こんなに長い期間一緒にいて年齢も知らなかった。いつか訊こうと思っていたが訊くのを忘れていた。
「はい! 高校2年生です!」
「じゃあ、敬語を辞めろ」
今まで中西が敬語を使っていることに不満を感じていた。
「それは出来ないです」
そう言った中西。
その答えに当然俺は驚く。
「私は敬語がいいんです! 何で敬語がいいかは自分でも分かりませんが......」
「わーったよ。勝手にしろ」
俺がそう言うと中西は笑顔で頷いた。
そして中西はもう一度お礼を言って去ろうとした。
「中西」
しかし俺は去ろうとする中西を呼び止める。俺の声を聞いた中西はこちらを振り返り首を傾げた。
「これやる」
俺は鞄に入れていたぬいぐるみストラップを中西の方に投げた。それを中西は見事にキャッチ。
「これって......」
手に持っているぬいぐるみストラップを見てそう言った中西。
「いらねえからやるだけだ。勘違いすんなよ」
俺はそう言ってこの場から去った。
去っている途中後方から何度もお礼の言葉が聞こえた。かなり大声で言っていたので通りすがりの人にも聞かれていただろう。全く恥ずかしい。
俺が中西にあげたぬいぐるみストラップはUFOキャッチャーの時に何度やっても取れなかった物だ。
ベンチに座っていた時あの横顔を見ればすぐに分かった。あのぬいぐるみストラップが欲しかったとな。
それを見た俺はトイレに行くふりをしてぬいぐるみストラップを取りに行ったってわけだ。
かかった費用は3,000円。
決して安くない。けど何故か後悔はしていない。
「いいことしたな」
俺は誰にも聞こえない声でそう言った。
その時の俺は後ろの人影に気づく由もなかった。
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