第7話 俺の暇つぶし

学校が終わり俺はある場所に足を運んだ。


帰宅するときに毎日来る場所なのでそこまで苦じゃなかった。


学校から数分経って目的の場所に辿り着いた。目的の場所とはいつも通っている細道だ。


細道に着いてある状況を目にした。


「やっぱりか」


その状況を見てそんな言葉を呟いた俺。


俺はそのまま物陰に隠れる。


実は今日までここを通る度に、あることを確認していた。


そのあることがようやく俺の目の前で起こっている。


俺は思わずにやけてしまう。


やっと暇つぶしが出来るという嬉しさでだ。


そして数分後ある一人の男が動いた。手には金属バッドを持っており、何かを始めようとしている。その男の下には一人の女性がいた。


「まさか......」


俺は嫌な予感がし思わずそのような言葉を口にした。


すると次の瞬間バッドを持った男が思い切り振りかぶった。


「マジかよ」


流石の俺もこれはほっとけないと思い、体が動いた。


「ガンッ」


俺が振り下ろされたバッドを掴んだことでこのような鈍い音が響く。


「何だ」


バッドを持った男が困惑したようにそう言った。


その場にいた女性も俺の方に視線を向けてきた。


「おいおい、女子にバッドはねえだろ」


俺の声を聞いた女性が驚いた様子で口を開く。


「嘘......」


そんな一言を発した。


それに続いたようにバッドを持った男も口を開く。


「何だてめえわ」


「喋んなよ、モブが」


俺はガンを飛ばしながらそう言った。


するとこの場にいたヤンキーの一人が冷や汗を垂らしながら口を開いた。


「健さん、こいつです! 前話した奴!」


「何だと? こいつがお前らの邪魔をしたやつか?」


「間違いないです」


その会話を聞いていた俺はあることに気づく。


「健ってお前か。50人の不良を半殺しにしたモブは」


俺がそう言うと健が不満な表情を浮かべながら口を開いた。


「おいおい、50人半殺しにした奴にモブはねえだろ」


顔を見る限りかなりいかっているのが分かる。


しかし俺はそんな表情を見たからといって逃げたりはしない。


「俺より弱いのは全員モブなんだよ!」


俺が少し挑発するようにそう言うといきなり健が俺に向かってバッドを振り下ろしてきた。


「なめんなよ!!」


しかし俺は避けることもなくその場にずっと立ち尽くしている。


「ゴンッ」


俺の頭にバッドが直撃した。


その様子を見ていた健が口を開いた。


「あほかてめえわ。所詮は口だけか」


そう言って笑い出す健。


地面には俺の血が染み込んでいる。


それを見た一人のヤンキーが慌てたように口を開いた。


「健さん、これ大丈夫でしょうか?」


「馬鹿野郎! てめえらが黙ってればいいんだよ」


「くく」


そんな会話を聞いていた俺は思わず笑ってしまう。


「何だ。まだ生きてたか」


再びバッドを構えた健。


「もう一発お見舞いしてやんよ!」


そう言ってバッドを俺の頭目がけて振り落としてきた。


二回目も素直に喰らってやるほど俺は優しくない。


俺は顔を上げバッドを避けた。


そして一発蹴りを健の横腹目がけて繰り出した。


「ぐかっ」


健の口からそんな情けない声が漏れる。


その声を聞いて俺は口を開く。


「おいおい、弱すぎ。50人を半殺しにした奴の強さはそんなもんかよ。流石モブだな」


俺の言葉を聞いて健がこちらに視線を向けてきたが、口を開くことなく気を失った。


この状況を見ていた他のヤンキー達が怯えたように口を開いた。


「や、やべえぞ。あの健さんが一発でダウンなんて......。健さん連れてずらがるぞ!」


そう言ってヤンキー達は健を連れてこの場から去って行った。


追いかけてぶっ殺してやろうと思ったが、今はそんなことよりこっちが先だ。


俺は女性の前まで歩み寄って口を開く。


「いつまでそんな顔してんだ、雑魚が」


そんなちょっときつい言葉をかけたが、その女性は怒った様子を見せず涙を流し始めた。


そして口を開いた。


「ありがとうございます......」


お礼を言われたが俺はこいつを助けたのではなく、暇つぶしをしただけだ。だからお礼を言われる筋合いなどない。


俺は無言でこの場から去ろうとした。


するとその女性が俺の袖を掴み口を開いた。


「な、名前を教えて欲しいです......」


「何でてめえなん......」


俺は途中で喋るのを辞めてしまった。


その理由は彼女の目がどこか寂しそうにしていたからだ。


いくら俺でもそんな人を無視は出来ない。


「鬼頭龍星だ」


俺は名前を言って袖を掴んでいた彼女の手を無理やり放し歩いた。


すると後ろから声が聞こえた。


「私は中西桃花です! 本当にありがとうございました!」


そんな言葉が聞こえてきたが俺は何も言わずこの場から去った。


いや、何も言わなかったというのは嘘だ。


「頭痛え......」


そんな独り言を呟いたのだから。


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