(小説)日神ジャスティオージ
地方創聖プロジェクト
第1話「創聖せよー!」
その昔、神々の物語があった。
最高の神である女王アマテラスの支配する天上の神を天津神族(あまつしんぞく)。
地上にもといた神を国津神族(くにつしんぞく)とよんだ。
アマテラスにつかえる部下の神々は天使とよばれた。
あるときひとりの天使が天上界に反逆をおこす。
その結果敗北し堕天したその最強の天使は魔王となり、ここに魔界がうまれる。
天上界と魔界、光と闇は果てしない時空のなかで火花を散らせ、
傷付いた神々ははるか宇宙の先、太陽系第三惑星地球の宮崎県へと天孫降臨(てんそんこうりん)した。
そう、ここは太陽のクニ宮崎。
彼ら神々の力は無限の可能性を秘めたライザーポータブルとして技術化され、2020年のいま、よみがえる!
創聖(そうせい)せよ!
-この物語は神話となる。-
(砕けた鏡)
BROKEN MIRROR
はるか古代に滅んだ邪馬台国。その戦火より残った三つの神器。その中核を構成する鏡、日神降臨器アマテライザー。
「敵襲!なんて数だ!同盟を反故にし我々に楯突くとはあああ!」
「落ち着け。既にわかっていたことです。
もうすぐ私の見たすべてが誠になる。
再び出逢う幾千年後の世で、またお前たちにこれを託す日がこよう。」
「この状況で落ち着いていられますか?!ついに本当に狂ったか?!」
「卑弥呼さま!いったいなにをおっしゃるのです?!あなたのいうことはいつも私にはわからない。」
「よく聞け。私からお前にあの鏡を託す。日向の地へとユタカを連れ逃れよ。お前の命を棄ててでもこれをまもりとおせ!」
「日向?!我々の祖先の地にですか?!これは、魏から贈られた鏡、ではない?!」
「鏡を私の形見だと思い手放すな。」
「ああ・・・私が見た夢、すべてが起こる日は近い。」
「・・・さらばだ、懐かしき者たちよ。」
「はっ!」
青年はその瞬間に、白昼夢をみていた。
(めざめる鏡)
AWAKENING MIRROR
刻(とき)は令和2年。西暦、2020年ー。
宮崎県は児湯郡付近のある浜辺に、白いシャツの青年が打ちながされていた。
サーファーたちも人っ子一人として遊びにやってこないその日
ベンチに集まっているのは野良猫だけであった。
青空が無限に広がる此処(宮崎)の日常はそれ以外のどの場所とも違う空気に満ちていた。
そしてその日起こったその奇妙な出来事さえも、
宮崎の太陽は何の疑問もなしに受け入れていた。
「!・・・・・あんた!・・・だ、大丈夫ですか~!
うわあちょっとどうしたのよ!あなたどうしたの?!」
一人のやたら元気のよさそうな50代くらいの女性が、ベタアッと寝ころんでいた青年を発見し
心配そうに駆け寄り砂を払いのけた。
女性の名前は日向夏(ひなたなつ)といった。
彼女は地域における青年部の地方創生プロジェクトというコミニュティを運営している。
見ず知らずではあるが知らぬ人間が倒れている状況を見て見ぬ振りすることにも気が引けたか、
それほどにそそっかしいひなたの性格がさせた行為であった。
きがつくとひなたに連れられ青年は、彼女の遠い親戚という少女ハナと共に暮らす
彼女の自宅のソファにいた。
横たわる自分、見覚えのないおばちゃんのかっと開いた鼻の穴。そそっかしそうな顔。
ここは、田舎なんじゃないかな・・・。なぜか彼はそう思ってた。それに重なるように
にこりと笑う小さな女の子がおばちゃんの顔の横に見える。
いったい自分はどうしてしまったんだろう。
「お、俺は・・・・・・・。」
「気がついた?!って、あっ!ちょっと君!」
ひなたの家を飛び出して、自宅の周辺を見渡すと、さらに彼の知らない景色が
広大に広がっている。
それこそ壮大な田んぼに続く田んぼ。ここは、田舎か・・・・・・・。
そう思い安堵しかけたその瞬間、青年の脳裏に得体のしれぬ女性の声がこだまする。
「創聖せよー!」
時は流れ。
ひなたはある日、小学5年生となる少女ハナと、その友人であるヒロキのもとにいた。
「それでひなたおばちゃん、テルヒコお兄ちゃんの鼻につまようじをさしこんじゃってさ~!もうほんと、顔真っ赤になっちゃって!」
「きったね~な~!なんで兄ちゃんのことになるとそういうはなしばっかりなんだよ!」
ハナがヒロキにそう喋りかけているころ、公園に真っ赤な丸い謎の物体が落ちているのを
みつけてしまった。
「あれ?!これ、なんだろう・・・。」
ヒロキとハナ、そしてひなたが駆け寄った先にあったもの。
「これは・・・・。」
「こ、これは・・・アマテラ・・・・・・・・・・・・」
ハナは急にそのことばをさけんでしまいそうになったとき、驚きと共に声を奥のほうに
無理くりにおしこんでしまうのだった。
「うわ~!鏡になってんのかな!おいハナ、これみろよ!なんだよこれ~!」
「ヒロキ、それは・・・・・・。」
少年ヒロキとひなたがそれが鏡か何であろうかとしげしげとみつめ、首をかしげていた
その場所で、少女だけは明らかに。何かを知っていたかにみえた。
「アマテライザー。あの鏡が奴らの手に渡ったら・・・・・!」
「でも、今回は前のようにならないはず・・・・・・・・。」
浜辺に流れ着いていた記憶喪失の青年は名をテルヒコといった。
彼はそういうことを、なぜか覚えていた。
それも彼の見る夢、脳裏に思い出される声のなかの「女性」
その人物が語りかける声の中に、テルヒコという人物がいたからであった。
それが自分なのではないかという推測はできていて、それは自分の知る唯一の人物名であった。
テルヒコは記憶のない中でも、訪れた日常の楽しさと平凡さに心の奥底で感謝していた。
その夜、テルヒコは夢を見ていた。
はるか悠久の時の中で、なぜか自分は泣いている。
強く何者かに後頭部を殴打されたかとおもうと、無数の映像が飛び飛びに移り変わってしまう。
かとおもうと、真っ赤な朝焼けのような世界。白い太陽のような光が、テルヒコに語り掛けてきた。
「テルヒコ・・・まだ何も知らないお前はただの青年。
私は多くの者たちからアマテラスと呼ばれるもの。
ユタカから授けられた神宝である、アマテライザーはあるか。」
「まただ・・・またこの夢だ。もうこれでいったい何度目だというんだ!
どうしてあんたたちは、俺をそうまでして苦しめる?!
あの鏡は・・・やはり俺に関係があるというのか?!
これが幻想でも夢でもかまわない、神よ、こたえてくれ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
答えろォオオッ!」
目の前の世界そのものがガラスのように割れ、テルヒコは涙と共にベットから転がり落ちていた。
「朝か・・・。まったく、ただの、夢なのに・・・。」
そのころ、とあるビルの屋上に、暗黒のオーラに包まれ降り立った一人の男がいた。
「ツクヨミの言っていたことは、本当だったんだなあ。」
「俺様の知らない間に、新しいヒーローが出たようだな・・・。ちょっと遊んでやろうか。」
不敵な笑みを浮かべるその男、そのいでたちからわかる通りこの世を生きる人間ではない彼は
名を黒天使ゴエモンといった。「おっと・・・・噂をすれば、だな。待っていたぞ。」
何者かが仕組んだとしか考えられないほどのタイミングで、その時ゴエモンのいる屋上に
来ていたのはテルヒコだった。リモートコントロールされているような幻影にさいなまれ
その声に導かれ、気が付けばビルの屋上に来てしまった。
「・・・・・・この声は・・・。思い出せない・・・・・・・。」
「創聖せよー!」
脳裏を引っ掻くような強烈な女の言葉。
どこかで聴いたことがある。でも、わからない。
あまりに大きすぎるその謎はブラックホールのように、底なし沼の如く胸の中に去来する。
そして恐ろしい速さでそれは不安となり、自分の存在証明としての疑問になる。
気にしなければいいのかもしれない。このまま過ぎる日々を生きていけば。
でも、それではだめなんだと思ってしまう自分がいる。何かとてつもない重たい十字架が
この心にのしかかっている。
声が聞こえる。すべてを解き明かせと自分に告げているかのように。
「いったいなんだ・・・・。いったい誰だ・・・・。」
「この声は・・・・なんなんだ・・・・・・。」
ビルの屋上まで導かれるように歩いてゆくと、
そこにたたずむゴエモンの姿。
「思っていたよりも、なかなかの甘ちゃんじゃねえか。
フン・・・お前闘えるか?これからお前を試す運命に。」
ほくそ笑むその男は青年を見つめ問いかける。その強烈なゴエモンという男の
蛇を喰ったかのような目力に圧倒されてしまう。パンク、メタルバンドか何かのようなその容貌。
こいつは人間じゃないぞ。一目会っただけで、なぜかそんなオーラはテルヒコに伝わっていた。
明らかに自分について何か知っている。
「あんたは俺を知っているのか?」
「まあいい、俺様からひとつアドバイスしてやろう。」
「”鏡からけして目をそらすな。”
でないとお前、死ぬぜ―?」
すべてこいつに理解できるわけはないか、まあせいぜいがんばれよ、といわんばかりに
黒天使(男)はテルヒコ(青年)の肩を叩き、どこへとなく去っていった。
鏡の言葉が意味するもの-。
さらにヒートアップして響き続ける女の言霊。
「創聖せよー!」
「俺は、やらなければいけないことがあった。倒さなければいけないもの、守らなければいけない何かがあったんだ・・・。」
「確かに俺は・・・・・・・・・・・。おれは、俺はだれだぁアッ!」
叫びに対する返答もなく虚しい声は空にこだまし続ける。
とある日。
「これあげる・・・。このままだとガラクタになっちゃうだけだから。乗ってもいいわよ。」
ひなた宅の縁がわには、ミニバイクレーサーだったひなたの甥っ子のユージが乗っていた
真っ赤なバイクが置いてあった。ひなたの甥、藤岡ユージはバイクマンという名のバイク屋家業を
継いでいたが旅に出たっきり家を留守にしていた。
彼が弄っていたというその赤いバイクも一見すると何の変哲もない原付二輪車だが
エンジンから何から彼独自の「藤岡式フレーム」として
丸ごと店のガレージで外装以外のすべてを取り換え改造しているものであった。
真っ黒い排気がしばらくマフラ-から出たかと思うとおそろしい爆音が聞こえてくる。
「うぉお、これ原付の手ごたえじゃあないですよ・・・。
改造してたって、甥っ子さん、レーサーだったんですね。」
「ほんと旅に出たっきりあの子も帰ってこないし・・・私スクーターがよかったんだけどな・・・。これで買い物はねえ。」
「ひなたさん。すみません。なんかこんなものまで。
いいんですか?俺みたいなのがお世話になっちゃって。」
「お世話もなにも、わたしも仕事の人手を探してたところなのよ。
テルヒコくん、あんた記憶がもどるまで、ここにいていいわよ。
そのかわり、自分の記憶がはっきりするまで私の仕事手伝ってもらうからね。」
「はあ・・・仕事?!」
「そう。わたしの青年部がやってる地方創生プロジェクトっていうんだけれど。」
そのころ、暗闇の中で蠢きだす強大な魔の影があった。
「破壊と創造は、表裏一体!
我々クロウの最終目標地点は、のこすところここ最大の聖地、宮崎県のみとなった!
お前たち選ばれたる超エリ~ト・選ばれたる幹部のつわものどもには、商業観光など
地域の衰退のためひと仕事してもらいたいとおもいま~す!
はい衰退!衰退!衰退!スイタイ!エッハッハッハッハハ~~~!
吸い取るだけ吸い取って
最後に残るのは我々組織、ク~ロウのみ!
我々こそが新たな世界の中心となり、ここみやざきに
眠る三神器をこの手につか~~~~~~~~~~~~~~~~む
日は近いのであ~るー!」
「と、いうことをお前たちに説明しておこう!」
異常なまでにハイテンションな声で演説している奇怪な人物。
天守閣型の要塞で声高らかに笑う魔神、その男は八竜院。
組織、クロウの大幹部(長官)である。
黄金(黄銅もしくはブラス)の鎧にも似た、鈍くきらめく8頭の竜神のレリーフがその体に浮かび上がっている。
「カっカっカ!今日から宮崎支部の長官として就任したこと、大~いに祝おう。
八竜院。お前のいう創造とやらが体の良い妄想で終わらぬよう、わたしが三神器の居場所を
ちゃっかりと、つきとめておいたぞ!」
その八竜魔神に負けず劣らず、それとは違うこもりかすれたサイボーグのようなだみ声。
超元気かつ何か嫌味っぽい、ダーティな
ハイテンションでまくし立てるその男、石上(いそのかみ)。
カラスのごとき真っ黒い仮面をかぶった全身黒づくめの彼もまた怪奇なる人物である。
彼ら怪しすぎる連中の会話を遮るかのように、真っ白いキツネの面をかぶった
立ちふるまいからして男とも女ともつかない白スーツの人物が
柱の影からぬっと顔を出す。その狐仮面(?)は9本の白い尻尾が生えていた。
「その声が聴きたかったよぉオ~!八竜院。
キミは東京で退屈な時間をつぶしていたんじゃなかったのかい?
ここに来たからにはわかっているよね?もっともっと新たな血がみられる。
もっと僕だけにとって楽しいことがこれからも続きそうだよっ・・・。
まずは手始めに僕が可愛がっている怪神軍団に、ひとあばれしてもらおう!」
「いでよ僕の怪神!牛奇神(ぎゅうきしん)ヨダキング!」
『マガリタマエ・ケガレタマエ』
その人物、クロウにおいて妖どもの親玉である、九尾の狐が取り出した
陰陽道を想起させる謎の札から、牛鬼または土蜘蛛のような
奇怪極まりない化け物が出現した。九尾は全国にあるクロウ京都支部において
闇の神道、陰陽寮を率いている現役の統領である。
「ヨダキィイイイイ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
「説明しよう!怪神(かいじん)ヨダキングとは、宮崎は超田舎の椎葉村にあらわれ、戦争が起こることを予言したという妖怪、件(くだん)に方言である、よだきぃい~!(めんどくさい)が融合し生産された我々クロウが誇る最新型の神霊兵器である!(石上自身の声)」
「太初に言葉あり。言葉は神なり。日本人が大切にしてきた言葉に眠る禍(マガ)のちから、それは神そのものになり得る!」
「悔しいが・・・それにしても考えたなァ、九尾~。お前が作る言霊怪神のちから、この私がさいごまで見届けてやろうではないか!」
「俺に宮崎の全産業の衰退はまかせろぉお~!ヨダキ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~イ!」
「はっはっは!いいよお~~~~!ヨダキングだって~!お腹が痛いよ!僕の中でも選りすぐりのセンスが光る逸品だ!
行け!ヨダキング!まずはそうだなあ・・・・・手近にそのへんの朝市でも襲撃しちゃって、お前の力をみせつけてみるかい?!」
「よだきぃい~~~~~~~~~~んぐ!」
「楽しく明るくおもしろく!地方をどん底に叩き落すがいいさ!」
そのころ、ひなたの家では。
「なに?!町中の子供たちが、やる気をなくしている?!
ハナちゃんが化け物を見た?!」
怪物が街で大暴れをしている情報を聴きつけたテルヒコは、ある直観に突き動かされ当のバイクを走らせた。
「ひなたさん!これ(バイク)借ります!」
「俺は・・・・知っている!
やらなければいけないことが、俺にはある!」
「確かにここだ!・・・夢で見た場所。」
テルヒコの直観は確かに合っていた。
その場所は、得体の知れない古代遺跡のような石像群のある土地。
人けも全くない場所。異界のようなそこで、気がついたときに
テルヒコは、その真紅の鏡を手にしていた。
「あれっ、さっきまで俺は・・・。」
脳裏に飛び込む映像に無限の世界を暗示するかのように割れる鏡、黒髪の謎の女の幻影が見えた。
「ユタカ・・・・・・はっ、いま俺はどうして・・・。俺の記憶は、どこまでが幻でどこからが・・・。」
目の前にそびえる女神の巨像。
「・・・・・・これは、日本神話の、岩戸伝説のものだ。」
そこに刻まれていたメッセージは、神話における天照大神の天の岩戸神話に関係する、
能楽「三輪」の一文だった。
(※能・三輪におけるものがたりの筋書き)幽玄の世界で翁の夢に現れる三輪明神。
伊勢の神ことアマテラス。国を守護する三輪の神と皇祖神
これはそのふたつの関連性を語ったものがたりである。
(能・三輪※)
「天の岩戸を。引き立てゝ。
神は跡なく入り給へば。常闇の世と。早なりぬ。
八百万の神たち。岩戸の前にてこれを歎き。神楽を奏して舞ひ給へば。
天照大神其時に岩戸を少し開き給へば。又常闇の雲晴れて。日月光り輝けば。人の面白々と見ゆる。
面白やと神の御声の。
妙なる始の。物語。」
テルヒコが回想の中をくだってゆくー。
そのとき、彼の背後に下駄の音がする。
「思へば伊勢と三輪の神。思へば伊勢と三輪の神。」
幻影ではなかった。夢で見た謎の女の声とシンクロするかのように
同じトーンで喋りかける声があった。
そこにはいつしか、赤い髪をした着物姿の女性がいた。
「一体分身(いったいぶんしん)の御事(おんこと)今更何と岩倉や。」
この世とあの世を隔てるかのように、小さな橋がかけられている場所で
青年と女はただなにもいわず、神妙な面持ちでにらみ合っている。
「いったい、あなたは何なんだ・・・。」
女はわらったかと思うと、一言こうつぶやく。
「久しぶりだな、テルヒコ。私は火野琴美(ひのことみ)。
これからおまえが見る世界。すべては新生し、”つくられる”。」
彼の目を見てきっぱりと、毅然とした声で断言した彼女を見て、テルヒコは直感した。
「かく有難き夢の告(つげ)。」
これは、俺の・・・アマテライザー!
はるかな昔に聴いた声。
いつか誰かが俺に、こう呼びかけた。
「鏡を太陽にさらし、その姿を世に表せ。
神の力と一つとなりて。あらゆる御魂の穢れよりなりいでた、マガツカミを祓う神(カミ)となれ!」
テルヒコの記憶の底でその力が彼自身に強く要求する。
懐かしい、あまりに自らにとって強烈な色彩を帯び記憶に残っている
その人物の声が脳裏に響いたその時にシンクロするように
その女、火野琴美は告げる。「行け!ときは来たー。」
町中に出現したその怪神、ヨダキングは人々を容赦なく襲撃する。
着ぐるみなどではないリアルな怪物の攻撃方法は、ただゆらゆらと揺れて高周波によだきぃい~と
叫んでいたり、抱き着いて失神させてしまう、突っ込んでぶち当たってくるという
その姿に実に見合ったものであった。
一見するとシュールなゆるキャラ的何かに見えなくもないヨダキングの極悪非道な大暴れに
街はパニックに陥っていた。
「ヨダキィイ~~~~~~~!」
「うわ~!なんだこいつ!化け物だ~!(一般市民の反応)」
パタリ・・・。
「(小さな女の子)うわ~クマさんみた~いかわいい~」
パタリ・・・。
ヨダキングが吐き出す得体の知れないエナジーに町民はことごとく倒れ気を失っていく。
無気力になり宙を見つめ寝ころび始めてしまう人々も。
みんなの大切な何かが非常に緩くなってしまっているではないか。
「もういいや・・・今日はいい。明日から本気だすよ・・・」
もともと過疎化していた町は余計過疎化してしまいかねないような鬼気迫る事態に陥っていた。
「ヨダキィイ~~~~!」
ヨダキングの猛進撃が公園付近にいたハナとヒロキにもせまってくるのも時間の問題だった。
「・・・・・・(ヨダキングの姿を見てあく謎の間)うわ~~~~!」全力でのがれるふたり。
「よだき~!」ヨダキングの念波を受けたヒロキはうずくまり
あろうことか動けなくなってしまった。
「おい!ヒロキ!しっかりして!おい!」ハナが一生懸命揺さぶっても微動だにしないヒロキ。
「よだき~。もういいよ、なんかもうどーでもいいよ。」
「馬鹿じゃないの!ばけものが来てるのよ!」
「化け物キテルノヨ!」
あまりのピンチにカタコトになってしまっているハナ。
ヒロキもついに、ヨダキングのエネルギーに生気を吸い取られてしまった。
その時ちょうどよいタイミングで、テルヒコがやってきた。
「ハナちゃん!ヒロキくん!あぶない!」
バイクで駆け付け勢いよくヨダキングめがけ突っ込み、数メートル怪神は吹っ飛んだ。
怪神に対峙するテルヒコ。
「なんだぁ~お前は?!みんなをどうするつもりだ!」
「ヨダキ~~~!」
「教えてやろう!俺様の名は、怪神ヨダキング!
この地域に住む宮崎県民は全員根こそぎ無気力なヨダキンボ~になってもらうぞ!
すべての生命エネルギーは我々クロウの大事な生産力としていただく!」
「みんな永遠にまだみぬ明日から本気を出すため、生きることになるだろう!
ヨダキ~~~~~~~~~!」
「何頭のおかしいこと言ってんだ!そんなふざけたことはさせるか!はーっ!」
バシィイッ!
「それが攻撃か?度胸だけはたいした芋がら木刀(いもがらぼくと・宮崎の方言で見かけだおしの男)だな!人間の分際で、この俺様に勝てると思っているのか~!」
テルヒコはヨダキングとのふれあい、否格闘もむなしく一人
森の中、高所から突き落とされてしまった。ほとんど格闘らしい格闘になっていなかったが
それほどに至近距離で怪神ともみあうということは、野生の熊などと取っ組み合うより
あまりに危険な状況を意味する。冷静にハイキックなどしていられる方が
おそらく異常だといえる。だがこの男は普通に格闘しようと思っていたのだから、
それもよくよく考えたら芋がら木刀的勇気かもしれない。
その挑戦は無力にも打ち砕かれてしまったが・・・。
「ぐっ・・・うわあ~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
ドスーん。・・・しばらくの無音、生まれる空白の時間。
「はっはっは!この高さなら生きているはずはあるまい!
もう今日はこの辺にして、ずらかるとしよう!
ヨダキ~!」
だが、ヨダキングの超適当な判断は命取りとなった。
それから小一時間、まったくの無傷で青年は倒れていた。
テルヒコは死んではいなかった。
「この鏡、ただものじゃない・・・・・
生かされた、そういうことなのか・・・。」
強大なそのちからに俺は護られている、テルヒコは信じた。
そして謎の鏡が男に、目醒めの時を告げていた。
「できる・・・・・・・
いまならできるぞ!」
そのとき、真っ赤な神獣鏡は近未来的な太陽の姿を模した別の何かへと変化(モーフィング)した。
真の姿を現したアマテライザー、”すべてはいまはじまった。”
「創聖(そうせい)!」
構えと共に掛け声を瞬時に叫び、光に包まれた神の姿の巨像(神霊)が出現し、青年自身を
のみこみ、太陽そのものを具現させたカミそのものへと変貌させていた。
「・・・・・・・・・・」
宮崎の太陽のように輝くイエローバイザー。
ご来光の如く印象的なそのショルダーアーマーからは光が放散され、
周囲の時空がにわかに歪んでいる。
「展開・シャイニング・フィールド」
一瞬にしてそれまでと全く同じように思えるバリアの如き時空間が周囲に形成され、ゆっくりと
その存在はヨダキングに向かって近づいてゆく。
「・・・・・・・」
なにともつかない、その真紅の神は、この世に存在してはいけない異形の妖に向かって
なにかに憑りつかれたかのような勢いで語気強く宣言した。
その動きはテルヒコとは別のもののようであった。
「牛奇神ヨダキング!宮崎の地を衰退させようなど、この俺がゆるさん!」
「お、おまえはなんなんだ!・・・ヨダキ―!」
いきなりわけのわからない赤い存在が現れ自分に宣戦布告してくる。
そのよくわからない状況を差し置いて、得体の知れなさ以上の重みとして
のしかかってくる静やかなる恐怖心がヨダキングの心を支配しようとしていた。
なんなんだ、このわけのわからない物体(やつ)は。
「ふんっ、宮崎の奴ならどーせ大した奴じゃあるまい。お前もついでに襲ってやるー!」
おもいっきり自分のことを棚にあげているような気がすることを言いつつも
さっきまでのように襲い掛かり始めるヨダキング。
「いくぞっ!」
「こい!よだき~ん!」
その赤い存在から放たれる攻撃の一つ一つはすべてが精妙に連動し、言霊の振動数と共に
ヨダキングにクリティカルヒットし当たるほどに出る、「ヨダキ~!」の悲痛な叫び声。
「日神剣!テラセイバー」その声と共に蛍光色にひかり輝く真っ赤な剣があらわれる。
ヨダキングの吐く蜘蛛の糸は付近の器物をことごとく溶かし、まきあがる煙はことごとく視界を奪ってゆく。
獣のように突進してくるヨダキングは、思いのほか俊敏でパワーに優れている。
「ハッ!」キックを決めたその直後に、タイミングを同じくして異変が起こる。ゴゴゴ・・・・
突如として戦士の周囲にあるすべての空間が歪み、地形が変形し瞬間的にせりあがってゆく。
まるで都合のいい昭和ヒーローものでありがちな”特撮ワープ”を
現実的に再現してしまうかのように、地形や世界そのものが変形し
数メートルの謎の小高い丘が出現する。ヨダキングを見下ろすようにその赤い戦士は
天から降りる光を剣に受け、祝り上げる。
「悪しき人の業から産まれた曲津(マガツ)の神よ!」
「大自然へと、帰るがいい!」
妖魔を前にその戦士は高らかな声で叫んでいた。
「救世神技(きゅうせいしんぎ)!サンシャインズ・ストライク!」
剣が大地に突き刺さる。
鮮烈にして絶対的な叫び声のもと、その祝詞が響く。
「かけまくも畏き伊弉諾(イザナギ)の大神!
みそぎ祓いたまいし時に成りませる祓戸(はらえど)の大神達・・・!
諸々のマガ事・罪穢れを・・・祓えたまえ!清めたまえ!」
それは神道において最も重要視される禊(みそぎ)の言葉であった。
「おのれ、ヨダキ~~~~~~~~~~!!!!!!!」
強烈な地割れと共に半径数キロメートルの振動波がすべてを包み込む。
すべてが終わり、光の中に怪神は姿を消していた。
力を無力化しその場から姿を消した怪神のあとにたったひとりテルヒコは
これから始まる底知れぬ闇との闘いの日々を見つめるように
青空の光の前で立つのであった。
「この感覚・・・・・・・・・はじめてじゃない!なんども(これまで)闘っていた!
そして俺はこれからも巨大なモノたちと闘っていかなければならない!
大切な居場所を護る、そして、真実を知るために!」
「お兄ちゃん!こっちこっち!」
「みんな、無事だったか!」
子供たちやひなたの無事を遠くに確認し、ただ一人あるいてゆく。
これから起こる闘い、それはあまりに長く、想像を絶する苦しみを伴うものであったことを。
そのときテルヒコは気づいていなかった。
「幻・・・いや違う」
「すべてははじまってしまったんだ!」
「この鏡、アマテライザーが呼ぶ限り」
「俺はこの世界に闇をもたらすものたちと闘い続けてやる!」
記憶を失った青年テルヒコは、人々の希望と未来への可能性を秘めた太陽の神、
日神(にっしん)ジャスティオージへと創聖(そうせい)した。
これから起こるすべてのものがたりを目撃するのは、キミ自身だ!
(小説)日神ジャスティオージ 地方創聖プロジェクト @chihousousei
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