学校一の美女と結ばれないと俺が生まれない!?陰キャな高校生だった親父の体を使って、口説き落とせ!~過去を改ざん!人生逆転だ!~
わんた@[発売中!]悪徳貴族の生存戦略
第1話どんな親父でも死ぬときは穏やかに
科学者だった親父は、母さんが亡くなってから生活を忘れて研究に没頭していった。俺が小学生だった頃の話だ。
自然と親父とは疎遠になり、何を研究して、何を作り上げたのか知ることなく、高校を卒業すると同時に一人暮らしをする。次に親父と会うのは、十年以上も経ってからだった。
ただし、実家ではない。病院の一室で、だ。
「後悔ばかりの人生を送っていた」
親父が、真っ白なベッドの上でつぶやいた。
そのことは知っている。母さんを亡くしてからずっと、嘆いていたことを。俺はそんな姿に耐えられずに一人暮らしをして、三十二歳になるまで実家に帰るどころか親父に会うことすらなかったのだから。
「人生をやり直したいと思っていた」
そうだね。同じことを思っているよ。
親孝行をしなかった罰なのか分からないが、俺の人生は決して順調ではなかった。学校の用務員として雑用をこなす日々だ。この年になっても一人で細々と暮らすぐらいのお金しか稼げてない。
彼女なんていたことはないし、結婚なんて考えたことすらない。
夜眠る前に、人生をやり直せたらなんて何度も考えたものだ。
「もう体が動かない。だから、お前に託すことにする」
親父が俺に渡したのは鍵だった。最近では珍しくなったピンタンブラー錠だ。
どこかの部屋を開けろってことだろうか?
訳が分からない。とりあえず、説明されるのを待つ。
「タイムマシンを作った。過去に行けるはずだ」
死に際になって頭がおかしくなったのか……?
確かに父親は科学者ではあったが、そんなものを作れるほど優秀だったとは思えない。そういった人間は大学や有名な企業で働いているんじゃないのか?
大した金も持たずに一人で研究をしていた親父が、作れるはずがない。
だが、腕が枯れ木のように細くなった親父の姿を見ると、否定するような言葉は出せなかった。たった一人、愛した人の後ろ追い続けた姿だと思うと、哀れだと感じたのだ。
最後ぐらい親孝行をしたい。話にのろう。そんな気持ちが俺の心を支配している。
「……そうなんだ。使い方は?」
「家を改造した。黒い箱に入れた時計を使えば、すぐ過去に戻れる。お前が生まれる前の過去に行くはずだが、そこら辺は上手いことごまかせるようになっている」
俺が生まれる前の過去ってことは……平成か…?
何をどう上手くごまかしているのか気になるが、そもそもタイムトラベルなんてできないんだ。聞いても意味はないだろう。
「わかったよ。実家に帰ってみればわかるってことだよね?」
「そうだ。あとは頼んだ……」
「任せて。で、過去に行って何をすればいいんだ?」
俺が了承すると親父は穏やかな顔になった。
ホラ話だと否定しなくてよかった。死ぬ直前は心穏やかになってほしい。そんな願いは達成できそうだ。
「妻を……美紀を助けてやってくれ……」
美紀――母さんを?
なるほど。死ぬ間際まで母さんが生き残る方法を考えていたのか。最後は妄想の世界に逃げ込んでしまったのは残念だけど、人生を捧げて思い続ける相手がいるなんて羨ましいよ。息子としても誇らしい。
「うん。母さんが生き残る世界を作るよ」
「あぁ、それでいい。お前なら分かってくれると思っていたよ……」
その言葉を最後に、親父は力尽きてしまった。
看護師が慌てて医者を呼びに行く。
その後は流されるまま手続きをして、ひっそりと葬儀を行い、ようやく時間ができたところで実家に帰ったのだった。
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