小暮雄高
小暮と榎本そして日下が山村邸に戻る。
榎本と日下をリビングに待機させて、在命中は聡太郎の母アリスの部屋だった個室に小暮を呼ぶ。
取り敢えず小暮と話して、状況を整理したかった。
私は『中島、北条、舎人、比留間、聡太郎の所在が不明な現状』の説明に加えて、今まで秘密にしていた『聡太郎の監視警護をグールに依頼していた』事実を伝えた。
今回の小早川の白昼夢の調査対象者『今頭礼央』がグールに関わっていることを鑑みて中島には再度グールと接触するように指示したこと、グールとの接触に向かった後から中島と連絡が取れなくなったことを話す。
小暮は私の説明が終わると「協会から今後の指示は何と?」と尋ねてくる。
「本部からは山村邸を維持して待機だ、まあ戦力外通知だな」妥当な指示だろう。
「はぐれ堂については後で話しますが、アレを放ったらかしにしたのは協会の失策です、上手く立ち回れば今回のウチのチームの失点を帳消しにできる可能性もあります」
「まずは俺の状況分析から、中島サブリーダーについてはグールにやられたと見て間違いない、今頭礼央は妃陀羅の神子なのだからグールたちと協力関係にあったと考えていい、グールが協会より妃陀羅の神子を優先した事実から妃陀羅ことヒュドラは今だ影響力がある神性という可能性が高い」
「はぐれ堂出身者の末裔たちの信仰は形骸化しているからグールたちが妃陀羅信仰の中心だと考えられる、以前崎原に移住してきた上井戸鷹人がグールと妃陀羅を結びつける重要な役割を果たしたことは安易に推測できる」
「つまりグールたちは今や妃陀羅信仰の主導的な立場にあって今頭礼央は神子としてグールたちに従属している、今頭を探っている舎人と比留間に気づいたグールたち『タルタロスの子ら』は2人をつけ狙い山村邸を発見した、中島から事情を聞いていたこともあり妃陀羅の生贄として山村を捧げるために拉致した」
小暮の推測を一通り聞いて私は話し出した。
「グールが中島を殺した根拠が妃陀羅信仰だというのは飛躍している、確かに妃陀羅の神子はグール接触の魔術を授かるが、あの魔術はそれほど強力な魔力をもってはいない、魔術を知る私から見れば妃陀羅が仮に今も強い影響力を保有しているとしてもグールたちとそれを結びつけるのは現段階の情報だけでは無理がある」
「だから上井戸鷹人という行方知れずの神子が主導してグールたちを妃陀羅信仰の急先鋒または主流派に育て上げたという線も納得できない、そもそもはぐれ堂の血族の中では信仰は形骸化しているのだから上井戸鷹人がグールたちを教化できたとは思えない」
「今頭礼央が妃陀羅から授かったグールとの接触魔術の魔力の程度や人目を避けるグールたちの生態を鑑みて舎人や比留間が今頭を探っていたことを直様グールたちが知り得たとは考え難い、それに妃陀羅の生贄として聡太郎という発想もグール主犯説と聡太郎失踪を結びつけるための辻褄合わせとしか思えない」
小暮は少し考えてから「確かに強引に結びつけた感は否めません」小暮も自分の推論に穴があることは自覚していたようだ。
小暮は呼吸を整えてから、話を再開した。
「やはりはぐれ堂について先に話す必要があります、俺ははぐれ堂で見た、否見たのは俺ではなく日下なんですが、あんな化け物を放置して協会が見落としていたなら協会の考察や情報を信じて分析するのは危険だと思ってしまい、一層のこと噛み合わなくても最悪を想定した方がマシな判断ができるのではと」
何時も不遜なほど冷静な小暮が珍しく動揺していた。
「小暮、はぐれ堂で何があった?」
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