第34話 銃撃
「日本軍からの攻撃が停止しました!」
守備隊の様子を観察している兵が将校に状況を報告する。
「ついに弾が尽きたようだな、102隊は引き続きトリガーを狙え! 残りは日本軍を殲滅せよ!」
勢いづいたロシア軍の戦車や車両達が一斉に日本守備隊に迫る。
「殺せ殺せ、日本人を殺せ!」
勝利を確信したロシア人達は興奮して叫んでいる。しかしそんな歓喜の声は爆発と共に途絶えた。
一直線に進んでいたロシア軍の車両達は次々と爆発炎上した。
「我が軍が何者かからの攻撃を受けています!」
兵からの報告に将校は愕然とした。
「弾切れは演技だったのか?」
「いえ、違います。正面の日本軍に動きはありません」
「では敵はどこから攻撃してくるんだ!」
「地面のしたからです!」
ロシア軍の進路を挟み込むように、左右両側の地面から発生した曳光弾の光がロシア軍へと流れる。強い砲撃のため発生した衝撃の波紋がいくつも地面にできている。
「地面の下に伏兵を仕込んでいたのか! 撤退だ! 撤退しろ!」
将校は部下に撤退を命令した。
地面が盛り上がり、その中から戦車やロボットが現れた。
左右から挟み込むように無数の戦車、自走砲、ロボットが現れた。撤退するロシア軍を躊躇無く攻撃する。
「全隊攻撃!」
モチダもタッチパネルの「攻撃」の文字を触り、指令を与えると今まで弾切れを演じていた守備隊も攻撃に加わった。
「伏兵を用意していたのね」
「ああ、彼らには十日前から埋まっていてもらったんだ。人間と違って、食事はいらないし、ただ埋まっているのは退屈だ、なんて文句は言わないからね」
ロシア軍を囲み三方から包み込むように攻撃を加える。逃がすつもりはないようだ。
「勝負あったわね」
「そうだね。命令、無抵抗のロシア人に危害を加えるな」
モチダはヘッドセットのマイクを使って口頭で命令を追加した。
モニターには車両を捨てて、走って逃げるロシア人の姿がかいま見えた。
しかし中には機関銃を構え、抵抗する者もいたが、そういう者には容赦なく攻撃が加えられた。
やがて日本軍、ロシア軍双方の砲撃が止んだ。
「今度こそ本当に本隊は弾切れになったよ」
そう言って彼は両手を挙げた。
モチダはハッチを開き戦車の外に出た。私も彼に続いた。
戦車の砲塔の上に二人は座る。辺りには硝煙と何かが燃えた匂いが立ちこめている。
戦場に動く者は日本軍だけとなった。戦車やバギー、ドローンが辺りに敵が残っていないか索敵を続けている。ロボット達は破壊した車両をひっくり返し、中にロシア兵が隠れていないか確認していた。
「ここは僕たちの勝ちだ。他のところでも敵は大体撤退したようだ。でもこちらの損害も大きい。トリガーが世界で250人死んだ・・・・・・アキバの嘘つき、それほど親しくなくても死なれたらやっぱり悲しいじゃないか」
アキバ、そのコードネームには聞き覚えがある。
親しい人間をおびき出し、殺すというこの作戦を、あの少佐は遂行できたようだ。いま、彼はどんな気持ちでいるんだろう。
「そして、これだけの犠牲を払っても戦争が終わったわけじゃない」
モチダは辺りを見回した。
「そうね、戦争はどちらかが勝てばどちらかが負ける。勝てたとしても失うものは多いわ」
「負けて全てを失うよりは、勝ってわずかなものを得ようとするんだ。得られるのは負けなかったというちっぽけなプライドぐらいさ。そんな物何の役にも立たないのに」
「それだけじゃないわ。負けた方は、勝った方の奴隷になるの。それが何より恐ろしいの」
「戦争をしてなくても事実上奴隷に成り下がった国なんていくらでもあるよ。本当の意味で自由を得られた人なんていない」
彼は立ち上がり大きく伸びをした。
「さぁ、帰ろう。ルーシー、さっきの返事をまだ聞いていないよ。もう一度言う、僕と一緒に来てくれるよね」
座ったままの私に彼は右手を差し出した。
「私は・・・・・・」
私は言葉に詰まり、彼の差し出された右手と彼の顔を交互に見つめた。
甲高い銃声が思考を止めた。
目の前の少年がゆっくりと砲塔から地面へと崩れ落ちる。
「いやーーーー! なんてこと!」
私は砲塔から飛び降り、地面に横たわる彼を抱きかかえた。
私の両手に赤黒くぬるりとした液体がつく。
「しっかりしてモチダ!」
彼の体をひっくり返し背中を確認する。レザースーツの背中に穴があり、そこから血がしみ出している。
「なんてことを・・・・・・なんて事をするんです! ゴラス隊長!」
二人の背後に立ち、彼を撃った人間を私は怒鳴りつけた。そこにはハンドガンを構えているゴラス曹長の姿がある。
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