第30話 決戦 1
広い平原に二つの軍が向かい合っている。
今は夏だが外へ出るのに半袖では厳しい。
ロシアの人にとっては過ごしやすい陽気なんだろう。
双方の間の距離は1km。
地面に若干の起伏と所々草が生えているものの、間に遮る高い樹木はなく、日本軍が横一列に整列しているのが双眼鏡を使わずともよく見える。
日本軍からは動かない。彼らは警戒地域を設定、公表していてそこに入ってこない限り攻撃してこない。
今、ロシア軍はその日本軍が設定した警戒地域のぎりぎり外に布陣して、日本攻撃の準備を着々と進めている。
ロシア軍から日本軍が見えるように当然向こうからこちらも丸見えのはずだ。
車両の数だけならロシア軍は日本軍の三倍ある。
ジャケットと呼ばれている装甲に身を包んでいる私達ゴラス隊は彼らの後方に布陣した。
日本軍の方から多数何かが飛んできた。まっすぐこちらに向かってやってくる。 豆粒にしか見えなかったそれは徐々に大きくなり四つのローターを持つ姿を確認できた。
四つのローターを持つピザボックス程度の大きさのドローンは、ロシア軍とゴラス隊の間を飛び回る。
『警告する。君たちのしていることは日本に対する敵対行動である。今すぐ作業を止めて引き返しなさい。好んで無駄に血を流すようなことやめて直ちに引き返しなさい・・・・・・』
ドローン達はローターが空気を切り裂く音と合成音声を振りまきながら飛び回った。その合成音声はロシア語なので私達には何を言っているのかわからなかったが、今までの例からいってなんらかの警告をしているだろうと推測はできる。
ロシア兵達は飛び回るドローン達を攻撃しない。視線すらそちらに向けようとはしない。全員静かに持ち場につき指示を待った。
『作戦に変更無し』
無線からは簡単にそれだけ指示があった。日本に対する米ロ中の総攻撃開始の時間は決まっている。全員その時を待った。
『作戦開始、一分前』
無線から静かにカウントダウンを伝える音声が流れるとロシア軍、ゴラス隊全員に緊張が走った。
後方からミサイルが飛んでくる。それらは布陣しているロシア軍を飛び越えて、日本軍の方に一直線に向かった。
しかし、全て日本軍に到達する前に空中で爆発した。それをきっかけに彼らに動きがあった。
その日、日本時間朝八時、世界一斉に日本に対する総攻撃が始まった。これに対応してトリガー達もドローン隊を引き連れ出撃をする。
南の海上では、小規模な艦隊が展開していた。
「俺にもサイタマみたいに戦場で出会いはないかな」
その中の船の一つに指令所が設立されている。その指令所でたくさんのモニターに囲まれてている、小太りで胸にアニメの萌え絵をプリントされているシャツを着た青年が、独りごとを言った。彼がタッチパネルに表示された「戦闘」の文字に触れた瞬間、彼の乗っている小型空母からアメンボ型の四本足のドローンが次々と海上へ射出され敵の大軍勢に向かっていった。
日本海の島根県沖の潜水艦の中では赤いドレスに身を包んだ女性が、パフで化粧を直していた。
「ご指名ありがとうございまーす、私ってひょっとして人気者?」
そう言うと、タッチパネルの表示された「戦闘」の文字に素足で触れた。その瞬間日本の陸から敵に向かってミサイルが飛んだ。
釧路では戦車の中に作られた指令所の中で、黒いゴスロリに身を包み金髪のウイッグをかぶった年齢不詳の女性が、膝に茶色い熊のぬいぐるみを抱いていた。
「みんな私と遊びたいの? 何して遊ぶ? おままごと?」
彼女はそう言うとタッチパネルに表示された「戦闘」の文字に手を置いた。その瞬間戦車達が敵に向かって一斉に火を噴いた。
八丈島ではオスプレイの中に作られた指令所で、ヒョウの顔がプリントされた派手なシャツを着る妙齢の女性が、たくさんのモニターに囲まれながらおにぎりを食べていた。
「悪い子にはお仕置きせんとあかんね」
そう言いながらタッチパネルに表示された「戦闘」の文字を押した。
押した瞬間、周りを囲っている垂直離着陸戦闘機がゆっくりと上昇していく。
中国大陸ではくたびれた背広とヨレヨレのネクタイを、それ自体が戦闘服のように着こなしている五十代の男性が、見た目はジープに偽装された指令所の中にいた。
「今日も元気に働きますか、私のパラダイスを守るために」
そう言って彼は父の日に息子から贈られたネクタイをしめ直すと、タッチパネルに表示された「戦闘」の文字に触れた。その瞬間多数の飛行型ドローンが一斉に空に舞い上がっていく。
ロシアでは十六歳の少年が、たくさんのモニターに囲まれている中で、自分の誕生日に撮影した家族写真を手に取り眺めていた。
「ルーシー元気にしてるかな。もう軍隊なんか辞めてると良いのだけれど。でも、また会いたいな」
そう言うと慣れた手つきでタッチパネルに表示された「戦闘」の文字を押した。押された瞬間二足歩行型ロボットや戦車達が隊列を組んで敵に向かって進んでいく。
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