第31話 決戦 2
ゴラス隊が行動を共にするロシア軍の攻撃をきっかけに、日本軍がこちらに進軍してくる。
相対するロシア軍も進軍し、ゴラス隊もそれに歩調を合わせる。
作戦は部隊を三隊に分け、中央の部隊が相手をしているうちに、残る二つの部隊が左右から挟み込み攻撃するという作戦である。ゴラス隊も中央隊に属していた。
日本軍もそれを予想してか中央軍が前進するとその分後退してしまい、左右からの挟み込みが上手くゆかない。
双方遠距離からの砲撃による散発的な攻撃が続いた。
数の上ではロシア軍の方が有利だが、最初から守りに徹している日本軍に決定的な一打を入れられずにいる。
歩兵である私達ゴラス隊は、ロシア軍の車両の影に隠れて守備隊からの砲撃をかわしていた。
「冷静だなここのトリガーは。かなりのベテランとみえる」
ゴラスはつぶやいた。
「どうだルーシー。ここのトリガーはモチダスバルだと思うか?」
『戦いを見ただけではわかりません。でもモチダはトリガーになって四年経過してるので、若いですけどベテランの枠にはいると思います』
ロシア軍から無線で指示が来た。
『総員突入。数で一気に押しつぶせ』
ロシア軍の全車両が一気に進み、日本軍に迫る。
「奴さん達とうとうしびれを切らしたな。置いてかれるなよ。アメリカ人は臆病者だと思われるな」
ゴラス中隊三十名も平原での戦いを見越して、ジャケットの足につけたホイールをフル回転してロシア軍の後を追った。
しかし、日本軍はロシア軍をまともに相手にする意思はなく、徐々に戦線を後退させていく。
ロシア軍も深追いはせず戦線は再び膠着状態になった。
『総員撤収!』
無線から指示が流れた。
「なんだ? 弾切れか?」
ゴラス隊長もロシア軍の後退に合わせて自分の部下に下がるように指示をしようとした。
その前に一度周りを見回す。
被害を受けている者がいないか目で確認するためだ。戦闘不能者が出た場合、隊長であるゴラスのジャケットのモニターに、その者の名前が表示されるようになっている。モニターには戦闘不能者を表示していなかったが、彼は自分の目で確認して安心したかった。
「ん、どうしたフランツ、どこかやられたのか?」
フランツのジャケットのふくらはぎの部分から、煙が出ているのをゴラス隊長は見つけた。
『いえ、敵の弾なんて一発も当たって無いっスよ。それより隊長の方こそ足から煙がでてるっスよ』
「なに?」
ゴラス隊長のジャケットのモニターには不具合が発生したという表示はない。直接目で確認したくともジャケット型装甲は胸と頭のパーツが固定されているため頭だけを下に向けることができない。
元々関節の可動域が小さいため、上半身を最大に折り曲げても足下が見えないような作りになっている。自分の足を見たければ上半身のジャケットを脱ぐしかない。
「まあいい。撤収の指示が出ているんだ。煙が出ている原因は基地に帰ってから調べよう。もたもたしていると戦場に取り残されるぞ」
そうゴラス隊長は結論を出したところで、ジャケットの足の裏につけられたホイールが突如フル回転した。
「うおっ!」
その勢いで体がものすごい速度で前進する。本来なら尻餅をついてしまう勢いだったが、ジャケットの姿勢制御装置が働き横転を自動的に防いだ。
下半身が言うことをきかない。撤退するロシア軍とは逆の方、つまり日本軍の方向に爆走している。
『隊長ーーーー!』
ゴラス隊長を呼ぶ部下の声が無線に鳴り響いた。
しかし、ものすごい速度で前進しているはずのゴラスと部下との距離は離れていない。彼らの足のホイールも高速回転して土埃を上げながら追走している。
「俺のことはいい! 追ってくるな! おまえ達は撤退しろ! このままでは敵の中につっこんじまうぞ!」
ゴラスは両手を振って部下達を押しとどめようとした。
『違います! 隊長を追っているんじゃありません! 足のホイールが勝手に回転して敵に向かって進んでいるんです!』
ジャケットのコンピューターの故障も考えられたが、全員が同時に故障するとは考えにくい。
「姿勢制御装置を切って転べ!」
『駄目です! 姿勢制御装置が切れません!』
ゴラスもさっきからやっているが、ジャケットのコンソールは姿勢制御装置を切るどころか一切の命令を受け付けない。
「各自仲間の足に向かって攻撃しろ!」
上半身は自由がきいた。つまり両手で操作する武器は使える。
『無理です! この状態では正確に足のホイールだけを攻撃できません!』
「多少の怪我はしょうが無い! やれ!」
各自隊長の命令に従い、一番近い仲間の足に攻撃した。みんな考えるのは同じようで指示もないのに一番威力の少ないハンドガンを使って狙いを定める。これでも当たれば足のホイールを破壊することはできる。しかし爆走している状態では目測が安定せず、狙いを定めることができない。幸い仲間の体に当たることはあっても装甲がはじいてしまうが、肝心のホイールに当てることができなかった。
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