海雅

♂×♀=穢

 はじめて、異性が交わるのを見た。

 10歳くらいだったっけ。女の人が服を着ていなくて、おなかの中がぐちゃぐちゃになってた。泥だらけで、汚くて、真っ赤になって、でもちょっとしろかった。

 男の人もいて、ズボンをはいていなくて、おんなの人みたいに赤かった。


 なんだか、とてもきれいだった。

 月明りと薄暗い外灯の光が2人の肌で反射して、外国映画のワンシーンを見ている気分だった。



 美しかった……。



 それに比べて、我が家はどす黒く、雲泥の差だった。

 学校から帰ってきたら怒鳴り声が聞こえて、父と母が喧嘩する日々。ビールの空き缶やスナック菓子の袋が散らばっていてゴミ屋敷化している。


「ただいま」と言っても無視され、時にはうるさいと一喝され、ひどい時には頬を一発程殴られ飛ばされる。そのあとは自室にこもって勉強したり、漫画読んだり、ゲームしたり。妹が――チカが帰ってくると2人の喚き声が治まり、愛の叫び声が聞こえて、骨と骨が当たる鈍い音がしばらく続いた。

 階段を上がってくる音が聞こえ、扉が開かれると、目の下に大きな隈をつくり瘦せこけた母がいた。首根っこを掴まれ引っ張られリビングに着くと、心身共に一生消えないような傷を残した愛と、いくら性を注ごうが相手が尽きても未だ行為を続ける下劣な、父とも呼べない生き物があった。

 非日常の光景を目の当たりにした俺に、母が言った。


海雅カイガは、私たちを失望させないわよね?」


「うん―――」


 俺は冷めきった目で両親卑劣な生物を目視し、軽蔑した。彼らの怒りを買うのは百も承知で、存分に殴られ、蹴られ、叩かれ、引っ張られ……。

 外に放り出されたとき、庭にある小屋からヒントを得た。


 これなら2匹の動物を始末できる愛を救ってやれると。


 その重い鉄の塊を引きずって家の中へ入っていくと、驚く2匹の生物を横目にして手に持っていたものを振り回した。刃が壁や家財にめり込んで、あっけなく切断させた。破壊力を目前にして、2匹は必死に命乞いをしていた。

 それもやがて無駄と知り、それらは有機物に成った。



 俺は初めて殺人を犯したヒーローになった!!



 その後、俺たちは親戚に引き取られた。俺が犯した罪は何故か金目当ての強盗殺人事件として扱われていた。

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