道理

 なんで、お母さんは、私を殴った?

 何か、私は悪い事をした?

 考えれば考えるほど曖昧になっていく。


 通学鞄が手から滑り落ちる。

 自室は血や肉の腐敗臭で満ちていて、壁になた、斧が錆びついて立て掛けてある。クラスメイトがこの部屋の惨状ありさまを見たらどう思うだろうと想像してみて薄ら笑いをしてみても、一瞬にして他の思考に掻き消される。


 私は孤独じゃないとか、まともじゃないとか、そんなの理解わかってる。本当は、自分自身に騙されたい。最後に裏切られたって、なぜか潰されながらいなくなってしまえばとか、どうなったっていいとか思ってしまう。

 あの子は、最期、満面の笑みを浮かべていた。なのにどうしてこうなっちゃった? いっしょに遊ぼう、とか。おうちに帰ろ、とか。出来ることなら、児相に連れて行くことも可能だった。

 後悔のまなざしを死体へ向けて、傷だらけの身体に触れると、体温はすっかり下がりきって、まるで氷のようにつめたくなっている。そのまま爪を立てて、引っ掻いたり、チェーンソーでばらばらにしたり、臓物を取り出してもよかったのに。所詮、憂いを晴らすためにころしているだけのことで、しんじゃったら、わたしが虚しくなるだけ。


 殺しちゃうことって、わるいことだっけ。おかあさんは、おとうさんを死なせたけど、哀しそうな顔をしてたっけ。



 意味のない言葉のカケラが脳内でループする。漢字がひらがなに変換されて、なにを考えているのかさえ、わからなくなっていく。

 このまま、どろどろにとけて、なくなっちゃうのかな。


 何事もなかったかのように、わたしは、幼子の死体に、ナイフを突き刺して、白い肌の上をすべらせていた。意識さえもしていないのに、嗚咽をもらしていた。

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