もとめるもの
「オラッ! ハハ、今日はこんなに持ってんのか。親も甘やかしてんなぁ」
「………(汚い。気安く触れるな)」
「ほら、なんか喋れよッ!」
理不尽なルールや無数の拳をぶつけられ、快いなどと思えもしない。しかし、そんな奴等に抗うことは無駄だと知っている。野蛮な声が倉庫内に響き渡り、形成している文章の出力を妨げている。権力の差を見せつけて、天下取りをしたような気分になって威張り散らしている野蛮人。これほど見苦しいものはないだろう。
「俺が何も言ったって君達は耳を貸さないだろう? それに、君達の方が力は強いから奪い返すなど到底無理だ。
担任教諭にこのことを伝えても彼らは知らぬ顔をするだろう。両親についても同様だ」
これまでの鬱憤を晴らすかのように一気に心情を晒した俺を凝視して、いとも嘲るような表情を浮かべた。
「急に喋り出して気持ち悪いな……、さすがに俺引いたわ」
向こうは興ざめしている様子だが、俺はすかさず口を挟んだ。
「君達が喋れといったから俺はそれに従っただけだ」
「ハァ? お前何様のつもりだよ!?」
太い脚や日焼けした手が俺の身体に擦過傷をつけていく。次の瞬間、予鈴が鳴り、集団はホームルームに遅れないように退散していく。当然、俺は放置。
「じゃあな、操り人形」
最後の一人が出て行く時に、俺を『操り人形』と呼び、忙しなく去った。
所詮連中にとって俺はサンドバッグであり
『彼等が俺を人間ではなく“人形”と呼ぶ……。彼等からすれば俺は異様と見なされ避けられ排斥されるのだろう……。人間は成長・進歩するが人形はそれらを行わない。自己意識を持たないからか、それとも俺に特別な感情や身体的特徴が無いからなのか、どちらにしろ不明確だ。俺は彼等ではないのだから……』
下校時間になり、帰宅して自室で傷の手当てをしていると、扉の向こうから
「
俺が気遣いの声を掛けると、彼女は気味が悪いように顔を歪ませた。
「お兄ちゃん、そんな子どもじゃないんだから心配しなくていいよ! あ、ゴメンねー、お兄ちゃんとちょっと話してて、うん、そうなの……」
愛の声がどんどん遠くなっていく。
彼女も成長する。成長するならば、穢れを伴う。
あの“隼人”というボーイフレンドも穢れの要因になるだろう。
彼女の穢れを止めなければ。
そして愛は永久に俺の手の中に……。
部屋へ向かう彼女の背後に立ち、戸惑う彼女の表情を看過しながら頸動脈に指を添えていた。
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