片脚の木像
三文居士
第1話
夕方に大学の門を出たら、先輩からメールが飛んできた。
喫茶店で待ってる、とだけの至極短い文章だった。
仕方がなく馴染みの店に向かうと、店主がニコリと、店のアンティーク調な雰囲気に見事調和する品の良い笑顔をしながら手をかざした。その方向には口を一文字にして珈琲カップを覗き込む先輩が待っていた。
四人用のテーブル越しには見知らぬ白髪の老人が座っていて、ぼうっと窓から外を眺めているようだった。
急に呼び出されたのだから嫌味のつもりで「待ちましたか」と尋ねながら席に着くと、先輩は物凄いしかめ面でこちらを見た。
「待ったよ、待ったとも。こちらの紳士は藤堂さん」
「どうぞよろしく」と、その男は
グレーの背広の内に同じ色のチョッキを身に着けた男は、綺麗な銀髪となった頭を撫でつけた。先輩の言う通りその老人は如何にも紳士然としていて、僕らのような貧乏学生とは縁のなさそうな印象を受けた。
勝手がわからぬ僕は、ただハア、ヨロシクオネガイシマスと応えるしかなかった。
「この方とは、ある
先輩は打って変わって、珍しく相手を敬い腰を低くしていた。年齢差を考えると当然なのだが、この人にまだ丁寧語を扱える常識があったのかと、僕の方は却って腰が抜けそうな思いだった。
さて、僕の心境を知ってか知らずか、こちらがメモ用の手帳を取り出すとすぐに、藤堂さんと呼ばれたその老紳士は、少し興奮した様子で物語りを始めた。
* * *
私は骨董品に目が無くてですね、長年、仕事で得た給金の多くをその方面につぎ込んでいました。幸運なことに、妻はこの道楽に理解をもっていて、息子のための貯金ができているなら構いません、貴方の慰めになるのならと許してくれています。そのため稼業の方にも精が出て、現在はそれなりの
さて、これはちょうど一年ほど前の話なのですが、ある親交のあった仲介人から、一つの取引を持ちかけられました。
その仲介人というのは信頼の置ける人物で、それまでに何度も古物の紹介をしてもらった実績がありました。取り扱う範囲も日本にとどまらず、中国や東南アジアの何かしらの歴史ある珍品を、まことしやかに
深夜に彼から電話がかかってきて、世にも珍しい、大変な『逸品』が手に入ったかもしれないから買わないかと言うのです。買わないかと言われても、何も説明されないままでは判断のつきようがありませんし、食指も伸びません。私から、じゃあ明日にでも会おうと持ち掛けると、今からでないと駄目だ、電話では話せないと、まるで話を聞きません。普段は気の利く男でしたから、夜分に突然呼び出すなどという非常識はそれまで一度だってありませんでした。また彼が金に困っている姿を見たことはなかったので、切羽詰まってまとまった金が欲しいという訳でもなさそうでした。
ただ、普段の彼とは思えない興奮ぶりには、私も何かとてつもない物品があるのでは……今を逃すと別の同じような誰かの手に渡って永久に失われてしまうのでは……と、これは蒐集家の悪癖で、とにかく彼がここまで言うのだから一度見るだけは見てみようと、欲がでてしまったのです。今思えばそれが過ちだったかもしれません。
彼の倉庫を兼ねた自宅に到着したのは、もう日付が変わるくらいの時間帯で、私は自動車から降りると急いでベルを鳴らしました。一度、二度と鳴らすも、しんと静まりかえるばかりで、なかなか家主はでてきません。夜更けに来させておいて待たせるとは何だと思っていると、中から彼が転がるように現れました。
文句のひとつでも言おうかと思いましたが、玄関から向かってくる家主は何やら手慣れぬ様子で杖を突いて歩いています。深夜の心細い門灯に照らされた姿を見ると、私はハッと息を呑みました。彼の右脚が、膝から下が失くなっていたのです。
「君、一体それはどうしたんだね」と、私は思わず尋ねました。
彼は、やはり熱っぽい様子で「これが今回の話さ、とにかく中に入れ」と催促してきました。
仲介人の家に入ると、彼はいつものように私を居間の腰掛けに座るよう指示しました。弱い電球色の照明がぼんやりとその一画ばかりを浮かび上がらせて、どこか甘ったるい、しかし舞台のようなピンと張り詰めた雰囲気が漂うのを感じました。
私は私で、彼が脚を失った理由を知りたくてたまりません。不謹慎でしょうが、それは彼への心配が半分と、もう半分はその大それた事件がどのように今回の『逸品』と関わってくるかでした。私はうずうずとして座っても全く落ち着けず、彼が口を開くまでのわずかな一、二分に何度も腰の位置や肘の置き場、重心なんぞを直して気を紛らわせていました。
やがて、片手にウイスキーのロックを用意した彼が、向かいの腰掛けに座ると、おもむろに口を開きました。
「これは僕が東南アジアへ例の如く取引に行った時なんだが、君も知っての通り、僕はこの仕事を生業にしてもう何十年にもなる。初めて商い目的で外国に行ったのはまだ三十の頃だったから、とにかくもう何遍海外に行ったか知れない。そんな僕がようやく、ようやくだ。
と、彼は一息に言ってしまうと、未だ冷めぬ熱情をほとばしらせながら、しかし体力が追い付かぬという様子でした。精力的な男ですが、彼も私と同世代の老齢ですから無理もないことです。彼が飲みかけの琥珀色を
ちょうど珈琲が来たところだし、私も一口頂こうかな。ああ、ありがたい。
さて、当時の私は、その秘密の部族というのが彼の失くなった脚と、そして紹介されるであろう『逸品』とどのような関係にあるのか、紙芝居をねだる子供のような切ない気持ちで、しかし彼の熱弁の振るうままに耳を傾けました。
「ウン。その部族なんだが、独自の習俗をもつと言ってもやはり普遍的なものがあるんだね。我が国でも当然あるように、成人を――もちろん彼らの間では我が国の成人年齢よりずっと低いんだが――祝う儀式があるんだ。彼らの場合、木像をひとつ燃やすというんだな」
「木像を?」
「そう。
と、彼は両手で人形を持つような素振りしました。そこには虚空しかないのに、彼の目には何か映っているのか、一瞬異様な炎のようなきらめきがありました。
「小さなものなんだが、脱力した操り人形みたくぶらんと手足をぶら下げている。顔も、こう、恥じらい、うつむきがちに地を見つめていて、僕は初めて見た時、木像なのにどうして柔らかい、人間らしい質感をしているのだろう、と感じたよ」
「見たのかい!? それを!」
私はすでに、自分で感じていたよりもずっと深く、彼の話に囚われていたようです。意図せずして上擦った声が彼を問いただしました。
「見た、見たとも。フフフ、そればかりじゃないよ」
そう言うと彼は自分の腰掛けの後ろから木箱を取り出しました。それは細長く、一見すると巻物か刀剣類でも入っていそうな、しかし茶褐色の濃くてどこか野趣を感じさせる木箱でした。
「まさか……」
思わず声が漏れました。ええ、誰だって期待するでしょう。そこに入っているのが何なのかを!
こちらをじっと見ながら、にやりと悪戯っぽい笑みを浮かべると、彼はそっと木箱の蓋をずらしました。そしてそこには、おそらく私の期待していたもの、その木像らしきものが、
私がすぐさま袱紗を
「この木像を見る前に、是非耳に入れておいて欲しいまだ話があってね」
おもむろに手を放すと、彼はもう一度腰を深く掛け直しました。
「さきほど、この木像を燃やすと言ったろう? そう。それがその部族に伝わる、成人の儀式なのだと。この木像は一体何なんだ? 僕が尋ねると、彼らが言うにはこういうことらしい。この木像というのは彼らの守り神なんだと。どうやらその部族では、赤ん坊が生まれるとその一人一人にこの木像が一つ、用意されるらしい。木像は、彼ら部族の子供たちが生まれてから成人するまでの間、ずっと守ってくれているんだと言う。じゃあ何故木像を燃やすんだろう? 当然そう思うだろう。守り神なんだから、恩こそあれど、燃やしてしまうなんて。僕も疑問に思ったんだが、彼らの思想では、この木像ってのは守り神だけど、自分たちに害をももたらす守り神らしい。僕らからすれば、それは守り神じゃないだろうと感じてしまうけど、やっぱりそういう『良い神様』『悪い神様』という考えは西欧化されて神様を単純に、概念的に分類してしまおうという我々の、やっぱり思想だったんだな。たしかに我が国だって道真公を学問の神としているし、中国の儒教だって先祖の魂を祀り守らなければ、たちまち鬼となって子孫に害をなすという考えがある。だから、畏れはするが、互恵関係が約束されている訳ではないというのは、そう珍しくはないんだ。で、話を戻そう。守り神を燃やす理由だが、それは、この守り神が子供たちを守る方法にある。つまり、この神様は子供たち一人につき
すまない、失礼するよと言って、彼は二度、小さな咳をした。
「それで、僕はその部族たちとなるだけ親しくなるように努めた。あげられるものは全部あげてしまったし、仕事があれば何が何でも手伝った。彼らも最初は目も合わせないで警戒していたが、次第に僕に優しさを見せてくれるようになった。僕は自分でも気付いていなかったが、木像の話を聞いた時から仲介人としてではなく、一人の蒐集家として、どうしてもその木像が欲しくてたまらなくなってしまっていたのだ。その時が来たのは思ったよりも早かったし、ずっと容易に事は進んだようだった。僕がある晩、煙草を吸いに外に出ていた時に、一人の部族の男が寄って来た。何か欲しいものはないか、と言う。彼らは非常に真面目で、義理堅い。これまでの仕事の見返りをくれるのだろうと察したよ。僕は、後で冗談と言いつくろえるような、努めて軽い雰囲気で、あの木像はもらえないかと言った。個人的な興味があるんだよ、とも言い添えておいた。すると、その男は、わかったとだけ言って家の中に入っていった。男が戻ってきたのはすぐだった。手にはあの木像が握られていた。僕は興奮を抑えて、本当にくれるのかと聞いた。部族にとって、特にこの木像が身代わりになるはずの子供にとって、とても大事な物ではないのかと。男は、この木像は火事で亡くなってしまった子供のものだから譲ってもいいし、たまに木像を欲しがる都会人が現れると言った。一体どういう事だろう? 尋ねたら男は、木像を悪いことに使う人間がいる、と。保護すべき相手がいなくなった木像にできた損傷は、ではどうなるか? 答えは単純、その傷をつけた相手にいずれ害を及ぼすのだ、と」
そこまで言うと、彼はいつの間に用意したのか、ウイスキーの瓶を持ち出し、グラスにとくとくとくと音を鳴らして注ぎました。グラスの中には氷が溶けて水がたまっており、注がれた液体と混ぜ合わさる様が私の喉までごくりと鳴らさせました。
「そうすると、じゃあそこにあるのは――まさか」
私が感じていた不気味さ。彼の脚と木像の関係性、そして木像を見せない理由がうっすらと、泥水が布地にしみこむような気持ち悪さで氷解していくようでした。
彼は一言、「ご明察」と言うと、袱紗を捲りました。そこには、木像が、そして、その右脚は、彼と同じように膝から下が欠けていたのです。
「僕は無論、木像を受け取った。部族の人間に語られただけで信じるほど僕は現代人を捨てきれていなかった。けれども木像をただの珍品として誰かに譲るには、彼らの信仰はあまりに純粋だった。だから僕はひとつ、実験をすることにしたのだ。それが二か月くらい前の話だ」
「実験?」
私は問いました。実験の結果がどうなったのか、既に目の当たりにしているというのに。しかしどこかで違うと言って欲しかったのか、あるいは本当であると背中を押して欲しかったのか。自分でもわかりません。ただ彼は、膝から下を失くした右脚をそっと撫でていました。
「僕は探求心で、木像の脚を折ってやった。何のことはない。枯れた小枝と同じくらいの力しか必要としなかった。その時ばかりは、ひどく緊張したよ。心臓がどくどくと脈打つのを聞いた。それから一週間後、僕は事故にあった。雨の日だった。仕事の取引で飯を食った。酒も飲んだ。酔っぱらってしまったせいか、ショックのせいか、事故の前後はよく覚えていない。ただ帰りの電車で線路に落ちたんだ。その結果がこれだ」
彼は右脚を軽く上げて見せました。あるはずのない膝下には異様な存在感がまとわりついていました。
「今日、ようやく外出許可が出て、久しぶりに自宅に帰って来れた。流石に院内で話すには気が引けたからね。実験はひとつの成功を収めたという訳だ。ところで、僕はここまでの話が嘘でないことを天地神明に誓っても良い。君は、話を聞いて、さあどうする?」
――さあどうする?。
彼の言葉が静まりかえった深夜の邸内に響きました。しかし私は彼の話に決着がつく前から、ずっと言いたくてうずうずしていたのです。だから返答はすぐに口からでました。
* * *
言い終わると、その老紳士はふうと一息つき、珈琲を
長い話だった。僕は手帳に走り書きしたメモを読み返し、物語に破綻や聞き漏らしがないことを確認して閉じた。
「大変貴重な話をありがとうございました」
僕が礼を述べると、老紳士は手でそれを制するような真似をした。
「ハハハ、実は申し上げにくいのですが、これには後日談がありましてな」
「後日談?」
「ええ。その仲介人の男から譲り受けた訳ですが……」
「まさか今日それを?」
「いえ、残念ながら持参してはいません。できれば持って来たかったのですが……」
彼は本当に申し訳なさそうな顔をした。そして僕は今気づいたのだが、老紳士の額からは汗が垂れ、顔色は蒼白なものだった。
「先ほど述べた通り、彼から木像を譲り受けたのが一年ほど前になります。それからずっと、私は自分の書斎に木像を置きひっそりとその背徳的な楽しみを享受していました。一見ただの不気味な木像が恐るべき呪力をもっていることを知っているのは、ただ私と仲介人のみ。その事実は予想していた以上の悦びを私にもたらし、より一層の危険を求めるさせるようになってしまったのです」
はてな。僕は老紳士の話の雲行きが怪しくなるのを感じた。途端、僕の本能的なある部分が、この話をこれ以上聞くのはやめろと訴えかけてきた。隣を見ると先輩はいつも通り落ち着き払っていた。しかし彼がこの異変を感じていない筈がなかった。――まさか最初から全て知っていたのか?
「日を追うごとに木像が他人の目に露出する機会が増えてきました。時には客人に自慢しました。蒐集家に共通する悦びですからな。ただ、彼らはそれをひとつの伝承としか受け取っていないようでした。私もあの仲介人の話まではしませんでした。何故ならそれを教えて私の正気を疑われるのが嫌でしたし、何よりも、熱をあげてしまった
「事件?」
その頃には老紳士の異常は明らかだった。彼はずっと不安そうに自分の身を抱いていた。
「ええ。私には家族がいます。妻と息子、そして息子夫婦の、まだ歳若い孫が。初孫で可愛いものです。目に入れても痛くない、とはまさにアレを言うのでしょうな。私はうっかりしていました。孫はまだ五歳で、小学校にもまだ上がっていません。当然私の木像を盗まれる警戒だってしていなかったのです。ちょっと書斎を離れた隙に、息子の叫び声がしました。どうしたのかしらと思い向かうと、その光景にアッとなりました。しまったと思いました。息子の傍らで、孫が木像を持っています。木像は鍵付きの透明な展示用ケースに収めていたのですが、その時は鍵を掛け忘れていたのです。そして最悪の事態に気が付きました。木像の顔から胸にかけて、ざっくりと大きなひびが入っていたのです。『どうしたんだ、それは!』と思わず怒鳴りました。何が起こったか把握しているのは私だけです。孫はびっくりしてしまい、息子は大変申し訳なさそうな顔をしています。咄嗟に私は孫から木像を奪うように、しかし細心の注意を払って受け取りました。息子の話では、息子もまた今しがた書斎に来たばかりで、孫一人が遊んでいたらしいと、そしてどうやら木像に傷をつけてしまったらしいということでした。私はひとつの決断に迫られました。いかにして木像の呪いから孫を守るか。胸に浮かんだのは唯一と言ってよい解決策でした。――だから私は、木像をその場で叩きつけ、粉々に砕いてしまったのです。孫がつけた傷よりももっと深い傷をつければ、いや木像自体を破壊してしまえば、きっと孫が加えた傷が上書きできる、無かったことにできるという希望でした」
「でも、その呪いが事実なら、それはつまり、あなたが……」
「私ももう良い歳です。家族に恵まれ幸せな人生を送ってきました。思い残すことはありません。孫が負う苦難に比べれば、私の生命などどれほどか安い対価でしょう。悔いはありません」
老紳士は嘘をついていた。思い残すことがないなど嘘だ。先ほどから恐怖に襲われ、そして今では泣きそうな子供のような瞳をしている。これからも子供たちの成長を見るため生きたかったに違いない。だが堪えて、諦めているのだ。
呪いという不可解な存在が、彼の精神をひどく不安定なものにしていた。病魔であれば現実として受け入れられたかもしれないし、心のケアを受けられたかもしれない。だが相手が超常的な暴力であれば、人は一体どうやってそれに対応すればよいのだろう。斯くの如き立派な紳士も、ついに精神を疲弊し切っているようだった。彼が自分の負った悲劇的な運命を前にして、僕らに話をしたいと申し出た理由がようやくわかった気がする。きっと、誰かとこの恐怖を共有したかったのだ。
「では、私はこれで失礼します。今日はありがとう」
老紳士はそう言って席を立った。もう暗くなった外は雨のようで、黒い傘を開く彼の後ろ姿が見えた。
僕と先輩は、しばらく黙っていた。先輩の考えることはいつもわからなかったが、この時ばかりは僕らの間に同じ感傷的な気分が漂っていたのを感じた。
「いくか」と、先輩が静かに言った。
返事をすると、僕らは店を出た。
外はやはり雨が降っていて、雨降り特有の、湿った空気の香りが鼻腔をくすぐった。
大通りに出て信号待ちをしていると、どこかで大きな音がした。何かとてつもない衝撃音が。いや、その前に甲高い音が聞こえたはずだ。あれは、ブレーキの音、雨でスリップした車輪の音だったろうか。
「事故ですかね? 」
随分近かった気がする。
僕が言うと、先輩は答えないまま眉をひそめた。
信号が青になった。歩こうとすると、右手から誰かの話し声がした。それは女子学生の単なる噂話だった。
「今の事故、やばかったね」
「やばいね、だってアレ、轢かれた人、絶対全身めちゃくちゃだったよね、もうバラバラだよ」
僕の足が止まった。
思わず彼女たちが来た方角を見た。自然と足がそちらに向かう。
だが、踏み出そうとした僕の肩を先輩が引き留めた。
「やめとけ」
「でも」
「そこから先、真実かどうかを確認するのは俺たちの領分じゃあない。何度も言ってるだろう。こういうことは、近づきすぎないことが鉄則だと。俺たちが行っても誰かが助かる訳じゃない。そうだろう?」
先輩はいつになく真面目な表情で、同時にひどく憂鬱そうな声で語った。こういう時の彼の言葉には、何か神秘的な力があった。
僕はただ黙って、彼の言葉に従うほかなかった。
後日、僕の心を慰めたのは、孫は無事のようだ、という先輩から飛んできた短いメールだった。
無論『孫は』というその言外の意に、失望も感じた訳だが。
片脚の木像 三文居士 @gorio
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