第51話 いよいよ、出発進行! 前編
いよいよ、出発進行!
そして、開始5分前。
一人の中年男性がやってきた。あの、土井正博氏だ。
「実は社長、私の今日の予定が先方の都合で先ほどキャンセルになりましてね、せっかくなのでお手伝いしますよ」
とのこと。
というより、この対談が聞きたくてしょうがなかったのだろうと言いたくなったが、あえて言わなかった。聞くと、彼がこの日に予定していた仕事が、当日朝に突如キャンセルになり、急遽、この会場にやってきたとのこと。というか、実は、ぼくが先方に頼み込んで、関係者に内緒で手を回したのだけどね、こっそりと。
「じゃあ土井部長、申し訳ないけど、よろしく。で、はーちゃんと上本君に、何かあれば手伝ってもらってくれていいよ。あ、はーちゃんと上本君は、土井さんに頼まれたら、悪いけど、手伝ってあげてください。無理なことは言わないから」
「わかりました。よろしくお願いします」
大学生の二人が、土井氏にあいさつする。
あのマニア氏の大学生の頃とは、一見、えらい違いだ。二人とも、年齢相応以上にしっかりしている。御両親が立派であることも、彼らの立ち振る舞いを見ていれば、すぐわかる。これは別に、マニア氏の生い立ちやご両親や親族各位を、他者を引き合いに出して間接的に非難する意図で言っているのではない。なんだかんだと言っても、マニア氏だって、彼らとは違った意味で非常にしっかりしたところを持っているのだからさ。
前回は始まる前からマニア氏と瀬野氏による「鉄道談義」があって閉口したものだが、今回は、そんなことは一切ないし、ぼくらのストレスもない。
時計の針は、13時ピッタリ。
「それでは、はじめましょう」
出発進行!
土井部長の合図で、ぼくがまずご挨拶。
「皆さんこんにちは。**ラジオの特別企画・「たまきと太郎のリビングルーム」です。司会は、わたくし大宮太郎と、私の妻でもあります、たまきです。今回の特集編では、鉄道に詳しいマニアの方、鉄道旅行好きが高じて鉄道紀行作家になられた方、鉄道カメラマンの方、そして、現在の鉄道好きな大学生と、旅行好きな女子大生の皆さんをお呼びしました。そこで今回は、何と申しましょうか、鉄道や、鉄道を利用した「旅」について、昔のこと、今のこと、これからのこと、いろいろなことを、大いに語っていただこうと思います。皆さんのご紹介は、たまきちゃんからさせていただきます」
ぼくが企画のスタートを宣言すると、それに続いて、パートナーの妻たまきがあいさつとともに、参加者各位をそれぞれ簡単にご紹介する。
「こんにちは。大宮たまきです。今日の対談者は、O大学鉄道研究会OBの米河清治さんと、鉄道紀行作家の上田幸雄さん、鉄道カメラマンの沖原時正さんに加えまして、板宿中学高校鉄道研究部OBで関西芸術大学2回生の上本健太さん、それから、西宮女子大学2回生の安中はるみさんに、それぞれお越しいただきました。安中さんはアシスタントでお願いしたのですが、今日は弊社の営業部長・土井正博が急遽来場してくれましたので、安中さんにも、対談に加わっていただきます。それでは皆さん、今日はよろしくお願いいたします」
ここで、ぼくがマイクを持って参加者に自己紹介を促した。というのも、今回は前回と違ってお互い初対面の人もいるからね。
「それではまずは、若い人から。安中さん、上本さん、その後、マニア氏、もとい米河さん(こいつはよく知っているけど、やってもらう)、沖原さん、それから最後に、今回最年長の上田さんの順で、お願いします。じゃあ、安中さん、どうぞ」
「皆さんこんにちは、西宮女子大学2年の安中はるみです。はーちゃんと呼ばれています。子どもの頃から言われていたのですが、3年前の魔法つかいプリキュアで「はーちゃん」と呼ばれるプリキュアが登場してから、なぜか、そう呼ばれることが多くなりました。男子にもてるわけではありませんが、高校時代の一部の同級生の男子から、はーちゃんと呼ばれるようになりました。アニメの好きな人からは、キュアフェリーチェとか、妖精さんとか、いろいろ呼ばれることもあります。あ、私は、プリキュアのことはともかく、鉄道のことはよくわかりませんが、電車に乗ってどこかに行ったりすることは好きです。あ、電車とか気動車とか、そういう区別は、小学生の時に米河先生が家庭教師に来て公立中高一貫校の適性検査対策をして下さっていた時に教わりましたので、少しはわかりますが、もし何か間違ったことを言っていたら、遠慮なくご指摘ください。今日はどうぞ、よろしくお願いいたします」
「はーちゃん、ありがとう。じゃあ、上本君」
「関西芸術大学2回生の上本健太です。鉄道は小さなころから好きで、神戸の板宿中学高校では、鉄道研究部に所属しておりました。大学でも、昨年鉄道研究会を立ち上げて、まだ会員は5名しかおりませんが、少しずつ活動を始めています。米河さんとは、板宿中高の文化祭にお越しいただいて、そこでお会いしてお話しさせていただいて、知り合いになりました。最初お見掛けしたときは、きつい「マニア」な人なのかなとも思いましたが、そんなことはなく、実に懇切丁寧に、鉄道のことをいろいろ話してくださいましたので、ものすごく勉強になりました。愛読書は、鉄道ファンと鉄道ジャーナルです。鉄道の旅は、もちろん大好きです。今日もこの近辺の吉備線や赤穂線に乗ってきましたし、西川原駅と法界院駅にも行ってきました。明日もまた、青春18きっぷで近辺の路線を乗って、神戸の自宅に戻る予定です。どうぞ、よろしくお願いいたします」
なに? このマニア氏が「懇切丁寧に鉄道のことを話してくれる」って?
信じられないねえ。たまきちゃんもびっくりしている。
ぼくは平静を装って、マニア氏に話を振った。
「上本君、ありがとう。じゃあ、マニア氏、もとい、米河さん、よろしく」
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