第39話 マニア大戦19 「葬式?」に、行ってきます

 ここでぼくが、若気の至りのエピソードを紹介した。


 「お恥ずかしながら、ぼくも、廃線寸前の別府鉄道に、大学受験の年の共通一次と二次試験の間に日帰りで乗りに行きまして、ああいう世界は、懲りましたね。職員まで巻き込んだ鉄道ファン同士の罵声大会を目撃しましたけど、あれには正直、参りました。そういえば、当時中2の米河さんもその数週間前に行っていて、ついでに乗った高砂線の終点の高砂駅で、車掌さんに促されて「ニセの車内放送」されていましたっけ」

 「太郎君、あの時、書き置きで「葬式に行ってきます」なんて書いていたでしょう。あなたの御両親、ずいぶん心配していたというか、あまりの人騒がせぶりに呆れていたわよ。まあ、どこかの「ニセ車内放送」の少年には大笑いでしたけどね。何といっても、最後が確か「別府鉄道は今月末で廃止となります、マニアの皆さん、ぜひ、乗りましょう」でしたよね。あれを聞いて、みんなで大笑いしました」

 当時大学1年のたまきちゃんは、岡山市のぼくの父方の祖父母の実家に下宿していた。ぼくも同じ時期から同じ家に住むようになったのだが、これも、ぼくらが中学生のときに出会って以来、家族ぐるみの付き合いとなったからのこと。その後結婚して、そのまま同じ家に住んでいるのだが、当然あの頃はまだ「独身」の頃。ああ、懐かしい。


 ぼくの話に、たまきちゃんが加わってきた。ちょっとこれは、恥ずかしいなあ。

マニア氏の「ニセ車内放送」の話で、会場は爆笑の渦と化した。

 その中で瀬野氏だけは、いささか「むすっ」としている。


 「日記」は、別章「罵声大会」にて


 「なんか、恥ずかしいなぁ・・・」

 「何言っているのよ。自業自得です、自業自得!」

 ぼくらが言い合っているところで、石本氏がひとこと。

 「いやあ、懐かしいのう。私もその時の録音、大宮君のも米河のも両方聞かせてもろうたんじゃが、米河車掌のニセ車内放送は、面白かったでぇ~」

 「まあ、一種のギャグの域に達していましたな」

と、内山下商事のX氏。

 マニア氏の「ニセ車内放送」の録音分は、彼の学生時代の下宿だったO大学裏の毎日荘33号室で聞かせてもらったことがあるそうだ。

 マニア氏は、こんなことを述べた。

 

 「ニセ車内放送」は、まあ、一種の「ギャグ」ですわ。そのくらいの「遊び」があってもいいでしょう。

 私もこの数十年来は、廃線前とか新線開業には出向いていません。と言っても、中学生の頃は、何度か出向いたことがありますがね。あるいは、記念切符を買うために並びに行くとか、そういうこともしました。

 高校生の頃、記念切符の1番を買うために、最大7日前から寝袋を持って駅に泊まり込んで買っていた、当時70歳代のおじいさんにも出会いまして、何度かお話させていただきました。その方は、シベリア抑留経験があってね、それを思えば1番切符のために寝袋にくるまっての寝泊まりなど、何ということはないとおっしゃっていました。実際それで、新聞にも取り上げられたこともあります。ちなみにシベリア抑留時代には、巨人の監督をされた水原茂さんとも抑留先で一緒だったそうで。

 どうせ記念切符を買うなら、そこまでやってみる、というのも、悪くはないですね。

 それはともあれ、「乗りつぶし」自体は、別にノルマにしてどうこうじゃなく、せっかくだから、乗ってないところは乗ろうかな、ってことで、楽しみで乗ることはあるし、時間があれば、行ったりもします。瀬野さんの御意見は確かにごもっともではあるが、そこまで文句を言うべき筋合いもないでしょう。


 瀬野氏が、ようやく口を開いた。読んでいるうちから、不機嫌を通り越して、しまいには苦笑いさえ見せ始めている。

 ぼくに対してはさほど刃を向けてこないものの、マニア氏にはバンバンと攻めていくのが相場だが、もはや怒りを通り越している模様。

 

 誰も、米河さんやそうして乗りに行かれる人を非難しているわけではありません。

 しかしまあ、1番切符を買うためと称して寝袋持参で並ぶ御老体、私には、愚の骨頂だとしか思えませんがね。切符は何番目を買おうが、一緒でしょうに。

 「葬式」と称して、それまで行ったことのない廃止寸前の路線にわざわざ出向いたり、ましてニセ車内放送までやって録音までしたりする人たちには、ついていけませんよ。鉄道をおもちゃにするなとまでは言いませんけど、これ以上は、言わぬが花、ノーコメントですわ。それにしてもこの人騒がせ日記、面白かったですな。

 たまきさんの後の夫で当時すでに付合っている太郎さんよりも、マニア君こと米河さんのほうが、よほど存在感がありますねぇ。

 ちょっと私には、こんな神経の持ち主の言動には、ついていけませんな。しかし何です、この信楽狸のおっさん、中学生にしてこの「テータラク」でしたか・・・。

 

 マニア氏が、笑いながらもすかさず反撃。

 「この「テータラク」とは何じゃい、だーっとれ、オッサン!」

 「十二分に「テータラク」やないですか。それにしても信楽狸のおっさん、次から次に、わけわからんことを思いついては、しでかしてくれていたものですなぁ(爆笑)」

 「じゃかわしわ。オッサンのウンチク弁当箱(会誌)の記事よりはよほどええわい」

 「ウンチク弁当が嫌なら、新幹線の食堂車で瓶ビール10本でも飲んどれ、信楽狸のおっさん。ビールを酒徳利に入れて持ち帰りなさんなよ!」

 「わしゃ飲んでもせいぜい中ビン6本や。誰が10本も飲むか、オッサンが飲んどれ」

 「俺は飲んでも2本で、よろし。おっさんが、残り8本飲みなはれや。東京行くまでに、十分飲めますやろ。あ、ホームとか山手線の電車内とかで、ゲロ吐きなさんなや」

 「誰が電車内の客室で吐くかい! ゲロなら便所で吐いたるわ!」

 「そう言えば、19歳の時に、鉄研のコンパで急性アルコール中毒になって救急車呼ばれた伝説の人物がおられましたねぇ・・・」

 「悔しかったら、そのくらい飲んでみなはれや、ウンチク弁当箱さんよう・・・」

 「謹んで、辞退させていただきます。あとは信楽狸の親玉さん、頼んだで」

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