第38話 マニア大戦18 趣味と「ノルマ」と・・・

 話はやがて「郵貯」に。瀬野氏がこの話題を持ち出してきた。


「郵貯の趣味の人も、テッケンには何人かおりますな。そのきっかけ作ったのは、種村直樹ですけど。業務妨害とまではいわないが、数十円かそこらの貯金を窓口でして、何が楽しいのか。「郵貯」をやっている人間に、「未来」はありませんな」

と、いきなり判決の主文のようなことをのたまう瀬野氏に、マニア氏が応戦。

 「「郵貯」ね、私も高校生の頃半年ほどやりました。岡山市内を自転車で回ってみたし、旅先でも何度かね。しかし何だ、その郵便局のゴム印を通帳に押してもらうのはいいとしても、それがなぜか「目的化」してしまうのです、この手の話の通例としてね。あの「チャレンジ2万キロ」などその最たるものでしたな。これに限らず「乗りつぶし」も同じような側面が見てとれます。せいぜい、後に形として残るか否かの差だけです」


 ここでたまきちゃんが一言。

 

 確かその郵便局回り、「旅行貯金」とか言っていなかったかしら。

 太郎君と一緒に出掛けたとき、旅先の郵便局に行ってお金をおろしたら、なぜかその局のゴム印を押してくれたことがあるけど、そういうのが流行っていたのですね。郵便局の人に聞いて、初めて知りました。

 太郎君が「旅と鉄道」を読んで、種村さんの記事から知らされていたから、ああ、こういうことなの、って。そこの郵便局の人に、私たち、そういう趣味で動いている人たちに見られたのかもしれないわね。

 チャレンジ2万キロは、列車の広告でも見ましたし、太郎君から教えてもらって、どんなシステムなのかを聞きました。始発駅と終着駅で自分の写っている写真を撮って、それを事務局に送ったら、認定してもらえるの。しかも、会員証のようなものも作ってくれて。

 でも、そのキャンペーンに参加するかどうかに関わらず、乗ったことのない路線を乗って最後には全部乗ろうとする「乗りつぶし」という趣味も、ある意味「ノルマ」を作ってそれを達成するために頑張る、という点では、瀬野さんのおっしゃる「郵貯」と共通点はあるように思えますけど、どうかしらね。


 随分、女性らしい感じ方だ。

 前半でも少し触れられたが、いよいよ「乗りつぶし」の話が本格的に始まりそうだ。そこで、瀬野氏が応戦。それに対するのは、やはりマニア氏だ。


 「私はそんな「乗りつぶし」なんかやってもしょうがないと思っています。「ノルマ」を設定して実行するのはいいが、達成したら趣味も終わりですかねえ?」

 「そういう人も知人にいますが、必ずしも、そうじゃない。種村氏あたりは、新線開業とも聞けば「いの一番」に飛んで行っては乗っています。新線ができた時点で「完乗」のタイトルがなくなるから、そのタイトルを「防衛」するために出かけていく、というわけです。まあ、ご苦労なことですけどな。加えて、そこでもっともらしいお題目をつけてくれますし。それでまた何やらミミズの這った文字を連ねたら、どこかで活字になって中高生はじめ若い者が読んでくれて、金になって、ネタもさらにできて、これにてメデタシメデタシ、ですな」

 瀬野氏が珍しく、種村直樹氏に敬称をつけて何を言い出すかと思いきや・・・。


 わっはっは。種村直樹大先生におかれましては、商売大繁盛で慶賀に堪えませんな(マニア氏と石本氏が大爆笑。他は皆、きょとんとしている)。

 それはともかく、「乗りつぶし」という所業に走る皆さんに申し上げたい。

 「おまえら、ノルマがなければ趣味もできんのか?」

とね。

 廃線前もそうだが、新線開業ともなるとまたぞろ、やじ馬が湧いて出てきて、正直不愉快です。鉄道は、見世物興行のためのインフラではありません。行きたければ、特にその方面への用事でもない限り「ほとぼり」が冷めてからでいい。智頭急行に乗ったのも、開業からしばらくしてからでしたね。

 因美線の通票閉塞における急行「砂丘」のタブレット通過授受にしても、私は過熱する前に行きました。どうせ廃止間近になると写真を撮る連中がゾロ湧いて出て、下手すれば揉め事を見聞きしたり、最悪こちらまで巻き込まれてしまったりで、ろくなことがない。

 大体、用もないのにぞろぞろと、汚物に集る便所蠅でもあるまいし。どうも私の価値観とは相いれることはないですな。


 「便所蠅ですか・・・おもろい表現ですなあ・・・」

と、あきれ顔のマニア氏。

 だけどさあ、下品な表現に関しては、どっちもどっちだぞ。

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