第29話 マニア大戦 9 プラレール

 ここで少し、話の流れを変えてみよう。


 「ところで土井君、何か尋ねてみたいテーマでもあるかな?」

化け物連の「蘊蓄合戦」ばかりでも難なので、彼に話を振ってみた。

 土井君は、自分の姉の子のことを語ってくれる。

 ぼくより5歳上の姉に息子がいまして、今4歳です。それで、姉の夫も鉄道が好きでしてね、鉄道ファンを買ってきては、写真を見せています。

 まあその「義兄」なる人、姉の中学時代の同級生ですが、確かに、当時から鉄道好きで通っていたような人ですけどね。

 そんな方の息子さんだけあってか、「電車」の写真を見ては、喜んでいますね。

 いかんせんそんな父親ですから、おもちゃとしてプラレールも与えていますが、喜んで遊んでいますよ。

 さすがに鉄道模型は、高価でデリケートですから、子どもにはめったに触らせないそうです。

 それから、姉夫婦には3か月前に、女の子も生まれました。

 

 そう言えばぼくらの息子も、プラレールで時々遊んで(遊ばせて)いる。昨年娘も生まれたが、その子も、たぶん、お兄ちゃんの遊んでいるプラレールで一緒に遊ぶことになるだろう(後に実際、そうなった)。

 土井君の義兄氏同様、さすがに高価なNゲージや、ましてHOゲージで、というわけにはいかないよ。

 一般に、マニア氏や瀬野氏に限らず、模型を所有している人たちは、他人、それも子どもなどが模型に触るのを嫌うからねぇ。もっともマニア氏、中学生の頃は先輩の模型を大いに触っていて、やりすぎては怒られていたけどね。

 

 全国組織の鉄道趣味の会播備支部が鉄道会社などに呼ばれて実施している模型運転会などには、ぼくらも、夫婦でよく子どもを連れていく。そこでマニア氏、司会と思しき「仕事」をしている。

 だけど、プラレールを走らせるなんてことは、鉄道趣味の会はもとより、わがO大学の鉄研でもやったことはないそうだ。


 「鉄研の大学祭では、プラレールを出されたことは?」

 と、たまきちゃん。二人とも表情にこそ出さないものの、少しむっとしてか、そんなことはありません、と、にべもない答え。

 「お二人とも、「プラレール=子どものおもちゃ」という視点が見え隠れしているようですけど、もし、そのような視点をお持ちだとするなら、いささか、偏見じみた見方ではないかと思われますが、その点については、おいかがですか。少なくともぼくは、プラレールについては大人も楽しめるものだと思いますがね」

と、ぼくは尋ねた。


 ちなみに、函館のぼくの実家には、プラレールのブルートレインがあります。マニア氏に聞くと、「赤さくら」のEF65P型と14系14型、なのだそうです。


 マニア氏と瀬野氏が、順にぼくの質問に対し回答してきた。

 「うちは「鉄道研究会」と銘打っておりますので、プラレールに何か意義があるとなれば、やらないこともないでしょう。今の私自身は、積極的にやりたいとも、やるべきであるとも思いませんが、もしやるという人が現役生におれば、一切、反対はしません。それも「鉄道」というくくりの中のものではありますし、大学祭の鉄道研究会の展示を楽しみに来てくださる子どもさんたちやその親御さんたちにも、有意義なサービスとなるでしょうからね」

 「まあ、どういう趣旨でプラレールを展示走行させるか、その意義がきちんとできれば、もちろん、走らせる可能性は十分ありましょうよ。米河さんがおっしゃるところのプラレールを走らせる意義があるのはもちろんわかりますが、私自身は、関わる気はありませんね。どうぞ、やりたい方でやってくださいとしか申し上げようがありません」


 先ほどのような相互に「オッサン」「おっさん」よばわりしていられるほどの余裕もなくなってきたとみえて、両者とも、いつも以上に言葉を慎重に選び始めたようだ。

 もっともそれは対談の「対手」に対してであって、ぼくらに対して、というわけでは決してない。この会場に、少しずつだが、波風が立ち始めたようだ。

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