第26話 マニア大戦 6 良くも悪くも出会いから
私がはっきりと鉄道趣味に染まり始めたのは、小学生の低学年の頃です。それまでは、そんなに鉄道ばかりに興味を持っていたわけでもなかったように思います。
まあ、幸か不幸か6歳のときに入れられた養護施設には、子供向けの図鑑などがいろいろありまして、それをよく、読んでいた覚えがあります。
続いて、ホーム側のマニア氏こと米河清治氏が、鉄道趣味に入っていった経緯を語る。ぼくやたまきちゃんは個人的には散々聞いていた話も多いが、これもそうだ。マニア氏は、6歳で養護施設(現在の呼称では「児童養護施設」)に入る前に住んでいたO県東部の生家にあったという絵本を、この対談用に持ってきた。
「とっきゅうのたび」という題で、20系時代の寝台特急さくら号が東京から佐世保まで行く子供向けの「物語」。
「大人の絵本」を出してウンチクを傾けた瀬野氏に、こちらは、まさに「子どもの絵本」で対抗? というわけだ。
この絵本のストーリーは、まさに、1960年の東映映画「大いなる驀進」の世界。後に彼がぼくらの自宅にやってきて、ぼくとたまきちゃんと息子と娘相手にビデオをみせてもらった。しかも、世にも「ありがたい」御高説付きでね。
当時は生まれて間もなかったからわからなかったが、まさか、生れた時からこういうものを与えられていたのかと思うと・・・
と、マニア氏こと米河氏、感慨深く語る。
彼が鉄道趣味界に入ったのは、小学2年のころ。
施設でもらっていた小遣い(それも含め、施設の「児童」こと子どもたちが生活するために国から施設を通して出されるのは「措置費」というそうです。その基準は、生活保護法などで決まっているとのこと。つまり、昔で言う「孤児」に対しても、憲法第25条1項の定める「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための措置としてスタートしているわけで、児童福祉法と生活保護法は、そこでも密接にリンクしているわけだ)で、ケイブンシャから出ていた南正時さんの本と時刻表を相次いで買ったのがきっかけ。
それからは、学校の図書室にある鉄道の本を読んでみたり、小遣いで買ったり、人にもらったりなどして、いろいろな本をぼろぼろになるまで読んでいたという。
いやあ、幼少期に養護施設で何年か過ごしましたけどね、正直、社会性に欠ける環境でしたな。大人もね。
私がO大学の鉄研に通い始めたことを知った、あるベテラン保母が、「子どもは子どもらしく・・・」とか何とか、わかったような口で論評してくれまして。
当時小5の私でも、頭に来ましたよ。
それはあんたの能力が低いだけだろうが、って。
後に私がO大に合格したとき、すでに退職していたその保母に、どこかで偶然会いましてね。
彼女、私がO大学に合格したことを知っていて、O大学に行けて良かったねえ、などと言うものですから、私はね、あなた方のような「群れ合い・なれ合い・甘え合い」を押し付ける無能な職員と「おさらば」できたから、今こうしていい思いができますわ、と言ってやりました。
彼女、バツが悪そうにその場を去っていきましたね。
あんなところにずっと居させられたあかつきには、と思うとねえ・・・。
多少なりとも養護施設の話が出るかと思ったが、少しばかりしかマニア氏は触れなかった。ぼくらにも、彼はその時代のことをあまり語っていない。
幼少期の自身の鉄道趣味との関わりについて、瀬野氏は実に能弁なのだが、マニア氏は、それについてはさほど語ることをしない。だがこの日は、今述べたような調子で当時あったエピソードやその手の施設の傾向を簡潔に述べ、ある職員の言動について激烈な批判を浴びせた。
しばらく黙って聞いていた瀬野氏が一言。
「どなたも、自分の「給料」が大事ですからね」
マニア氏、まったくその通りですな、触れる値打ちのないものには触れないのが一番でしょうと言って、話題を変えようとした。
「米河さんの御体験も、お互い出会わなければそれぞれ幸せに過ごせたパターンですな。ま、うちの会でもそんな人物が来たこともありましたねぇ、あの御仁とか」
瀬野氏が、上手いこと話をそらしてくれた。これはこれで、助かったかな。
「松山某とかいう人物ですな。20年以上鉄研に関わってきましたが、彼のような例は、他にありません。まあその人物の話は、やめときましょうよ」
マニア氏は、読んだ本の話に戻した。
彼がO大のある学区の小学校に通っていたころ、図書室で借りた本のその中に、1982年10月の国鉄のダイヤ改正でリニアモーターカーが東京―大阪間に開業した話から始まって、日本の鉄道の最速列車に関する話がまとめられた児童向けの本があり(題名は忘れたらしい)、それで学んだことと言えば、リニアよりむしろ、特急「つばめ」と戦前の「弾丸列車」の歴史だそうな。
ちなみにその本で「リニア開業日」となっていたのは、1982年10月2日・土曜日。
当時中1のマニア君は鉄研の例会に出て、先輩と一緒にO駅までお座敷客車を見に行ったとか。この日に国鉄のダイヤ改正はなく、新幹線は0系の時代で、東京―大阪間がまだ3時間10分だった。
何だか逆説的ですな、と。
両者間の話を聞く限りでは、1対1である限り、瀬野氏が話し手でマニア氏が聞き役の割合が多く、両者間で実際に幼少期からの経験を相手に話しているのは、8対2ぐらいで瀬野氏の方が多かったようだ。そんな状況下で喋ったり聞いたりしているマニア氏、ぼくからすれば意外ではある。
だが今回ばかりは、がっぷり二つの様相を呈し始めた。
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