第24話 マニア大戦 4 「怪話」を止めて・・・

 それにしても、開始前から、こんな調子で、鉄道の話。

 今回は戦前の輸入電気機関車がどうこうに始まり、蒸気機関車やら暖房車やら水槽車やら満鉄やら。

 まるでダイナマイト打線時代の大阪タイガース(阪神)の打者連の試合前のフリーバッティングでも見せられているようだ。

 外野席にポンポンと運び込まれるボールよりも、ある意味「破壊力」にあふれる「会話」もとい、「怪話(今パソコンで編集していたら、この字が出た。この光景にはまさにぴったりだから、あえてこう表現させていただく)」が延々と続く。

 まあ、無理に止めることもないから、しばらく放っておいた。


 時にして12時50分頃。

 ようやく解説の石本秀一氏とゲストのX氏、相次いで到着。

 「よう、諸君元気かね。相変わらず話が弾んでおるねえ」


「あ、監督、お久しぶりです!」

 鉄道少年に戻ったかのような、元気いい返事はマニア氏。

「石本さん、ご無沙汰しております」

 と、こちらは年相応に落ち着いて応える瀬野氏。


 父がいつぞや、鉄道趣味の会の藤木龍司さんに対する表現が、彼らの違いのすべてだと言っていたが、ここでまた、彼らの違いが、はっきりと見て取れた。一度何かのきっかけで、これが本質的な両者の違いだ、というものがわかれば、意外と、それに見合った事例が周りで展開していくものだな、ということを、このときも実感した。

 翌日父にこのときの話をしたら、「やっぱりそうか」、という一言が返ってきた。

 

 石本氏は、マニア氏に「監督」と呼ばれている。その理由は、創設期の監督だった石本秀一氏と同姓同名で、しかも広島の出身だから。マニア氏からしてみれば、小学生からのお付合いだから、少年野球の「監督」みたいな役割を果たされていた方と言えば、まあそうだ。

 かくして別当風貌の藤村がすでにいたところに、突如現れた藤村風貌の別当、というわけだ。しかし、よくこれで、本家の大阪タイガースのような「内紛」というか「お家騒動」というか、そんな「もめ事」が起こらないのも不思議な話だ。


 対談開始、5分前。

 時計の針は、12時55分。

 横に立っているたまきちゃん、ぼくの左腕から離れようとしない。

 

「そろそろ、座ろう」

 彼女をぼくの横の席に座らせ、さらに一言、耳打ちをしておいた。

 「あいつらは、ぼくが何とかするから、大丈夫」

 「うん、わかった。頼むわよ」

 「瀬野さんと米河さん、そろそろ始めますからね。諸君におかれては、この会場で思う存分、鉄道について語ってください。いいですね」

 もう、やるしかない。

 ぼくは二人の「怪話」を制して、しっかりと申し渡した。

 「もちろん、そのつもりです。とことん、やりますよ」

とのマニア氏に、瀬野氏は、それ以上に淡々とした口調で、応戦意思を表明。

 「喜んで、受けて立ちましょう」


 「はい、本番準備OKです」

 「18歳の4番打者」となったプロ野球選手と同姓同名の、というか、その選手にちなんで名づけられたというアシスタントの土井正博君が、録音をスタートさせる。

 秒針に至るまで、ちょうど13時ピッタリ。


 出発進行!


 かくして、論争の火ぶたは切って落とされた。


 皆さんこんにちは。**ラジオの特別企画・「たまきと太郎のリビングルーム」です。司会は、わたくし大宮太郎と、私の妻・たまきです。今回は、この岡山市におられる若手鉄道趣味人のお二人と、鉄道に詳しい解説者およびゲストの方々をお迎えして、何と申しましょうか、皆さんに趣味としての鉄道について、大いに語っていただきます。


 「何と申しましょうか」は、名解説で一世を風靡した、あの小西得郎氏の口癖。高校生の頃、プロ野球関係の資料をあたっているうちに、すっかり、ぼく自身の口癖になってしまった。普段の番組でもこれを使っていて、今ではぼくの「トレードマーク」になっている。ぼくが企画のスタートを宣言すると、それに続いて、パートナーの妻たまきがあいさつと参加者を簡単にご紹介。


 大宮たまきです。今日の対談者は、1971年生れのO国立大学鉄道研究会の瀬野八紘さんと、1969年生れの同会OBで鉄道趣味の会の会員で播備支部所属の米河清治さんの、お二人です。年齢はわりに近いですが、まったく違った趣味活動をしてこられています(どう見ても同類にしか思えないけど、そう言っておかないと、絡まれてしまうでしょ~たまきちゃんの弁)。

 解説の石本秀一さんは現在医師として活躍しておられまして、1976年の鉄道研究会設立にも関わられた方です。ゲストは、O国立大学美少女アニメ研究会OBで内山下商事に勤務の会社員・Xさんにお越しいただきました。それでは皆さん、よろしくお願いいたします。


いよいよ、果し合いの色濃い対談の開始と相成った。

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