第22話 マニア大戦 2 恐怖の?出演依頼

出演依頼


 ぼくはO大の学生会館にマニア氏と瀬野氏を呼出し、単独で出向いて出演依頼をした。

 こんなことにたまきちゃんを連れて行くわけにも、行かないと思ったからね。


 「えっと、米河君に瀬野君、今日はわざわざお越しいただいて申し訳ない」

 

 ぼくは彼らに小銭を渡し、好きな飲み物を頼むよう申し上げた。

 学生会館こと学館の喫茶カウンターに揃って出向き、それぞれ飲み物を注文した。 コーヒーの嫌いな瀬野君は紅茶、マニア氏とぼくはアイスコーヒーを、それぞれ頼んで、近くの席に戻った。

 

 今度、11月*日に、諸君に是非とも、うちの××ラジオの企画で、鉄道趣味について、どんなことでもいいから、語っていただきたいのだが、いかがだろうか。

 話す内容は、鉄道に関わることなら何でもいいです。

 諸君で論争されるのも、もちろん歓迎です。

 ただ、君たちお得意の「罵倒合戦」は、できるだけやめて欲しいけど、まあ、ある程度はしょうがないかな。

 ともあれ、鉄道に対する知識と情熱においては、余人をもって代えがたいものをお二人ともお持ちであることはおそらく皆さんご承知でしょうから、それをぜひ、思う存分、御披露いただいて、鉄道について皆さんにご理解いただけるようになれば、ありがたいのですが、どうでしょうかね?


 彼らはぼくより幾分年下でサークルの後輩ではある。

 特にマニア氏なんて、彼が中2の時からのお付合いだから、何もこんなにかしこまって話すことなんてないと言えばない。

 とはいえ、「ことが事」だけに、こういうときは丁寧に話さないとね。

 

 マニア氏こと米河君は、ぼくの話を興味深そうに聞いてくれた。

 「それは面白い、喜んで出させていただきます。瀬野さんがその企画にご出席されようがされまいが、私には関係ありません。あくまでも、私自身の鉄道に対する思い、知識、すべてを出し切るべく、参加いたします。よろしくお願いいたします」

と、満面の笑みでオファーを受け入れてくれた。

 

 一方のセノハチ氏こと瀬野君は、ぼくのオファーとマニア氏の弁を淡々と聞き、

 「その企画、大いに結構ですな。私は米河さんとは鉄道趣味観はもとより、人生観においてもおそらく相容れあうどころか真っ向から対立するところも少なからずあります。本来なら米河さんが出られようが出られまいが、私は私の鉄道とのかかわりを話させていただければそれでいいですけど、その対談、とことん、受けて立ちましょう」

と、顔色一つ変えず淡々と答えた。

 対抗心をあらわにしたような表現に満ち溢れているところもあったが、ともあれこちらも、オファーを受託してくれた。


 その後彼らは、学館に陣取って、お決まりの「蘊蓄合戦」をしていた。この日のネタは瀬野氏が最後に編集することとなった最新の会誌の記事に関するものだった。

 しばらくぼくも付き合ったが、それまで瀬野氏の編集した会誌に特に意見をつけることをしていなかったマニア氏、どうにも我慢できないところがおありになったようで、やんわりと批判的な言動をしていた。

 いつもなら剛速球投手の瀬野氏が強打者マニア氏を「剛速球」で「打ち取りに」行く感じの話が多いのだが、今回は若干、違うようだ。元投手の強打者が突如投手に戻って、「軟投」というか、変化球と間合いを駆使して、ワンポイントリリーフに立っているような感じかな。逆に投手ながら打撃も得意な瀬野氏は、マニア氏の「軟投」にタイミングを合わせようとファールで粘っている感じ。ただし、具体的な内容については他の会員諸氏の名誉の問題もあるし、例によって彼らの話す内容はこちらの理解を超える範疇の世界のシロモノだから、ここではご紹介いたしません。

 先程述べた野球の例えで、話の様子を想像してみてくださいね。


 これとは別に、解説とゲストで立ち会っていただく医師の石本秀一氏と内山下商事の会社員・X氏にも、電話でオファーを出した。

 おふたりとも、二つ返事でぜひよろしくと言ってお引き受けくださった。

 報酬その他の金銭に関わる条件については、ここでは明かしません。

 もちろん、扱うテーマ及び発言内容については、鉄道に関わるものならば無制限。

 なお、皆さんとは対談後その会場で中華料理の会食をする、ということとなった。

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