マニア大戦 ~ 鉄道趣味人ガチンコ対談

第21話 マニア大戦 1 論争の企画

 あの日から6年後、ついに彼らの「対談」が行われることとなった。

 

 「あの瀬野君ね、せいちゃんさえもうならせほどの・・・」


 マニア氏は「鉄道マニア」としての内容をしっかり兼ね備えている人物。それに対抗できる同世代の関係者と言えば、もうあの人物しかいないだろう、ってわけ。

 「でもさあ、あの二人を呼ぶのはいいけど、話が荒れたらどうするのよ。米ソの核軍拡戦争じゃないけど、話を聞く限り、確かに二人ともある程度で抑えるでしょう。でも、論戦がヒートしてぶつかりあった時のこと、考えているの?」

 「大丈夫。解説とゲストをつければいい。立会は、ある程度多いほどいいからね」

 「立会にあてるのは、鉄研の人? それとも、鉄道趣味の会の人?」

 

 鉄道趣味の会とは、全国組織の鉄道趣味団体。中学生以上で「三度の飯より鉄道が好き」な人を募集している。

 そんなこと言ったら、マニア氏かあの御仁みたいな人じゃないと入れないと思うけどね。どんな人がいるかはかねてマニア氏より聞いているが、ここでは述べないでおきましょう。ただ、少なくともO大学の「鉄研」よりは、マニア度の「きつい」人たちの割合が高いようには聞いております。

 もっともマニア氏に言わせれば、トップのきつさでは、O大鉄研のほうが趣味の会をはるかに凌駕している部分もあるとのこと。


 「鉄研の石本秀一さん。あの偏屈ハカセというか、御大というか、監督というか」

 石本氏は、O大鉄研の創立メンバーで、理学部卒業後、医学部医学科に再入学して卒業され、現在は医師。

 父親も医師だが、父方の伯父に裁判官をしていた人がいて、この人が、筋金入りの「鉄道マニア」。裁判官を定年で退官後、弁護士や公証人にならず、鉄道中心の紀行作家になったとか。しかもその父や伯父の父親、つまり石本氏の父方の祖父もまた裁判官で、戦前のZ内閣で書記官長か何かを務められたこともあるという。

 石本氏も、少年時代にはこの裁判官の伯父さんに「趣味」を鍛えられたという。

 ぼくは、さらに続けた。

 

 「もちろん解説ね。ゲストは、鉄道趣味の世界から少し離れた人。ほら、毎日荘33号室にいた美少女アニメ研究会の人で、内山下商事のX氏(仮名)だよ」

 

 たまきちゃんはX氏とも面識があり、子供のころ観た少女アニメの話でよく学館こと学生会館で会っては話していた。大体は、キャンディーキャンディーとか、魔女っ子メグちゃんとか。ときには、1980年代初頭にはやったミンキーモモ、クリーミーマミ、それにペルシャやマジカルエミなどといった魔法美少女系のアニメも。

 マニア氏は、X氏のそういうアニメ趣味を相当批判していたのだが、不思議なことに、ある時期からその手のアニメを積極的に観るようになったのだ。

 彼はその後、セーラームーン、そしてプリキュアまで観るようになったほどで、この最近では、毎週日曜朝は電話の電波をオフラインにしてプリキュアを観ている。

 本人曰く、同時間帯に放送されている「サンデーモーニング」というニュース番組の報道姿勢が気に食わないからプリキュアに「亡命」しているのだ、とか何とか。ぼくも話題になったアニメを知ってはいるが、そんなに「見て」いなかったから、そんな話をされても、実のところ、さっぱりわからない。まあ、好きに「観て」ね、としか申し上げようがない。


 「X君は鉄道の知識もそれなりにあるし、バランスのとれた見方ができる。第三者的立場で参加してもらおう、ってわけだよ」

 「まさか、そんなトークに、私も付き合え、って?」

 「嫌? 陽一と萌美の世話をしておくかい? あんな得体の知れない神経の持ち主であるところの「化け物」どもより、よっぽど可愛げもあるだろう」

 「いいわよ。チビちゃんたちは、おばあちゃんとおじいちゃんにお任せするから」


 この話を周囲の男性相手にしたら、父と義父は、面白そうだからぜひ聞かせろと言ってきたが、このような熱心な層と、逆に、無関心な層の二極に見事に分かれた。母と義母、たまきちゃんの学生時代の同級生や先輩後輩、それにいわゆる「ママ友」たち女性に関しては、仕事とはいえ大変ねえ、と、ほぼ、同じような反応だった。ただ一人、たまきちゃんの幼馴染で同級生の唐端由美さんという人が、夫が鉄道好きなので、ぜひ、お聞きしたいわね、と言ってきた。だけど、この由美さんにしたって、ご自身が聞きたいのではなく、夫が絡んでいるからコネクトしてきただけのこと。後に音源のCDを送って聞いてもらったところ、とてもついていける世界じゃないと、由美さんの旦那さんはあきれ果てていたそうな。その旦那さんは大学では鉄道がらみのサークルに入っていなかったが、彼の幼馴染で慶應大の鉄研に入っていたという人に聞いてもらったところ、その人は、これはとてつもなく素晴らしい対談だ、と絶賛されたとか。

 一事が万事、いや、万事が一事ともいうべきか、そんな調子で、ぼくらの周りはおおむね、男女で同じような傾向=男女差がはっきりと出た。

 

 さあ、どういう構成というか、参加者の立ち位置を作るか。

 基本線は、アウェイ(ビジター)側は瀬野八紘氏、ホーム側は米河清治氏。

 この二人をそういう「対立構造」におき、そこを主軸とした対談形式とした。

 どちらが長期間かつ密接に、この団体に関わったかを考えたら、そこはすんなり構成できた。


 米河氏ことマニア氏、鉄研に最初に来たのが小学5年の大学祭のときで、それから現役で大学まで来て、今やOBだが、もう20年来関わっていることになる。こちらが本来、ホームだろう。

 瀬野氏は、マニア氏より本来2学年下で、現役の年より数年遅れて鉄研に来ていて、しかもマニア氏がOBになって後。しかも、20代後半となった今なお、O大学に「在学中」。普通なら在籍が重なるはずのものが重なっていない、というのも、何かの「因縁」でしょう。

 解説には、鉄研創立メンバーの偏屈ハカセこと石本秀一氏。以上3名は、O大鉄研関係者。ゲストはX氏で、こちらは美少女アニメ研究会OB。あとはぼくら2人と、録音・録画及び撮影スタッフで、入社2年目の土井正博君。

 紅一点のたまきちゃんには、居心地のすこぶる悪いこと間違いなしの『企画』だ。

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