第15話 理解不能な会話内容
休憩がてらに、父が手元のお茶を飲む。これより数年前、ちょうどぼくとたまきちゃんが結婚する少し前に、父は学生時代より吸っていたたばこをきっぱりやめた。
いずれ生れてくる孫たちのためにも、長生きしたいし、たばこ臭いと思われるのも嫌だから、というのが、その理由だ。
その代わり、甘いものを食べることが少し多くなったような気がする。今日は、先日義父母が函館から持ってきてくれた大福もちをほおばって、お茶を飲みつつ「一服」。
酒については、外で人と会うときは結構飲む口だが、うちではそれほど飲まない。この日は、いつもより少し多めに、ぼくと晩酌がてらのウイスキーを飲んだ。
酒の肴は、もちろん、マニア氏と瀬野氏のことだったが。
「じゃあ、再開しよう。録音、頼む」
約10分経って録音再開するや否や、父はぼくにこんなことを尋ねてきた。
「ところで、太郎、両君の会話内容だが、ズバリ聞くけど、あれは本当に、O大の鉄研にいるみんなが、わかるレベルの話なのかい?」
そういう意識で鉄研内部の会話を分析したことなんて、なかったなぁ・・・。
「いやぁ、随所で理解不能を訴える会員、少なからずいたね。ぼくらを呼び止めた三宅君という後輩は、かなりきつい内容ですね、って、ぼくに言ってきた。さすがに彼は「理解不能」とまではいわなかったけど。マニア氏と瀬野君は、三宅君の言葉を聞いて、そんなものかな? という表情で、むしろこの程度できついと言われる方が不思議だと言わんばかりだった。あと、今3回生の宇和島君が、お二人の話、すごいレベルだということはよくわかりますけど、正直、さっぱり理解不能ですねって、米河君と瀬野君に聞こえないように、ぼくに耳打ちしてきたよ・・・」
「そうか・・・理解不能まで、行きつくのか」
「そういう内容が、少なからずあったね。ぼくも、正直、理解不能だった」
「やっぱり、そうかい。素人の私でも、これはちょっとな、と思ったけど、やっぱり、な。太郎のメモを見ているだけで、何か、彼らの会話の緊迫感が伝わって来る。それにしても、あの米河君、よく鍛えられたねえ・・・」
「それはいいけど、あいつ、あんな調子で、大丈夫なのかなぁ・・・」
「私も、心配・・・」
たまきちゃんも、ここで相槌を打ってきた。
「二人とも何をもって、米河君が大丈夫だの心配だのと言っている?」
「なんだかあいつ、ますます、普通の世界から乖離していくような気がしてね」
「何をもって普通というかは、問わないでおくが、太郎が思うところの普通の基準が何であれ、そう結論を急ぐこともないだろう。しかし何だ、お互い初対面で、よくこれだけの内容の会話が成り立たせられるものだな。この瀬野君なる人物、米河君以上の大物かもしれんぞ。今このノートを読ませてもらった限りでの感想だが、この二人の相違点が、おおむね判ったよ。いずれにせよ二人とも、甲乙つけがたい大した神経の持ち主であることは間違いないな。瀬野君は、米河君や石本君たちにどういう神経をなどと言っているが、そういう彼自体、米河君らに勝るとも劣らぬ大した神経の持ち主であることもね。まあ、はたから見れば、彼らは「同じ穴の「ムジナ」ってところだろうね」
「あいつらの違いなんかわかって、ぼくらに何か得られるものがあるのだろうか?」
「なさそうなものだけど、意外と、あるかもしれんな」
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