第2話 マニア君・走る! 種村直樹氏風ルポ

 この短編は、レイルウェイライターの故種村直樹氏の記事をベースに、その文体を参考にして(真似て?)執筆したものです。

 

                      

 (山陰本線の)青谷では3分停車。何人かのレールファンが、折り畳み式の12系客車のドアから一斉に飛び出し、駅の改札に向けて猛ダッシュ。

 改札に向かって駆けていった一人、岡山市に住む中学3年生になったばかり米河清治クン(14)は、長時間停車の駅では必ず硬券入場券を買って、青春18キップに途中下車印を押してもらう。今回の青春18キップは青色の2日間有効のもので、京都に住んでいる大学生の先輩にもらったそうだ。これを使って、この山陰号で京都に出て、明日は京都でその先輩にお会いします、との由。それはいいけれど、駅構内を走ったりして危なくないかと聞いてみると、米河クンは「大丈夫です。安全には十分気をつけて走っています。運動不足は、これで解消しています」とのこと。駅は運動場じゃないだろうと言いたいが、さらに、彼の話を聞いてみた。

 米河クンは小学5年生のとき、O大学の大学祭で鉄研こと鉄道研究会の展示に3日間通い詰めたのがきっかけで、「スカウト」されたという。彼はそれ以来、毎週土曜日と水曜日は、学校が終わるとすぐ、「部活」がわりに、O大学の学生会館で行われている鉄研の「例会」に通っている。そこに小学生の米河クン、物怖じすることなく通い始めた。大学の入学式で新歓のビラを撒いたことも。彼が来てから入ってきた「後輩」もいるそうだが、何のことはない。O大学には彼よりはるかに早く入学している「先輩」だ。彼が大学に入るまでは、毎年、「年上で先輩」が入ってくるというわけだ。彼が通い始めたときより前に来たか、その後来たかを問わず、鉄研の「先輩」諸氏は、皆さん親切で、いろいろ教えてくれているそうだ。そういう場所で経験を積ませてもらえるレールファンの少年も珍しい。

 そんな彼につけられたあだ名は、「マニア君」。

 「マニア」というのは「偏執狂」のような意味があるから、あまりよくないのではないかと僕が指摘すると、彼が言うには「国鉄のO鉄道管理局に昔の山陽本線の特急や急行の運用表とか、いろいろ資料をいただきに行っていまして、それで、親しくなった局の職員さんにつけられました。O大鉄研でも、一部の先輩方からそう呼ばれています」

 悪い意味でつけられているわけではないようだが、君はとにかく、「マニア」と呼ばれるような行動はするなよ、と、いろいろ例を挙げて、米河クンの将来のために大いに苦言を呈しておいた。この文章を読んだ「マニア君」こと米河クンが、「鉄道マニア」ではなく、レールファンとして健全に成長してくれることを、僕は祈っている。


写真の注

① 長時間停車の駅では、何人かのファンが改札へと駆けていく。

② 硬券入場券を買って、途中下車印を押してもらった米河クン。スタンプがなかっ たのが残念、と一言。

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