第71話 宣伝優先のようです

 『これはなんとも素晴らしい・・・・・荷馬車だな』


 僕たちは今、まだ復旧作業が続く街へ来ていた。ギルドマスターのディルダスさんの条件は、エドラーラさんの護衛。この荷馬車に乗らないといけないらしい。

 当の本人は、普通の馬車に乗り満月の夜の皆と僕は、スライムの核が大量に乗せられ幌にでかでかと『エドラーラ商会』と書かれた荷馬車で移動。


 「エドラーラさんってバカなのかしら?」

 「……宣伝のつもりなんだろう? あのフェニモードが潰れそうなんだから。チャンスだと思ったんじゃないか」

 「だとしても、賊に狙ってくださいと言っているようなもんだろう?」


 ミューリィさんがつぶやくと、ロメイトさんが一応フォローしたけど、リトラさんの言葉に僕も含め全員頷いた。


 「いやぁ。ご足労ありがとうございます」


 エドラーラさんの声に振り向けば、にんまりしている。

 凄く嬉しそう。


 『だろうな。危なくチェミンを復讐鬼の嫁にするところだったが、その前に回避できたんだからな。結婚していれば、エドラーラも共倒れだっただろう。それどころか、何がどういう話になったのか、彼らが一肌脱いだという事になっているみたいだからな』


 それでスライムの核を売りさばく権利をゲットして、他の街へ売りに行くんだよね? 一応旅と言えば旅なんだろうけど……。僕、必要?


 『必要というより、彼らに監視させるんだろう。本当に魔法が消えたのか。レモンスがあんな死に方をしたんだ。もしかしたらキモンは、君をまた疑っているのかもな』


 え? どんな?


 『君は呪いの影響を受けない。人を殺す魔法陣は、呪いの魔法陣の事が多い』


 え~!!

 ジグルさんから話を聞いた時、そんな事言っていなかったじゃないか。


 『言われなくとも気づけと言いたいが無理か。キモンはもしかしたら二人はグルかもと思っているのかもな。いや、君がレモンスを掻き立て操っていた。そして、口封じで殺した。傍に居なくても殺せる方法でな』


 ちょっと待って! キモンさんの僕の印象ってそんな凄いの?


 『彼は、君のステータスを見ているからな。しかもリル魔狼を手元に置いていた。錬金術も凄腕。脅威でしかないだろうな。だからリルを離し、魔法を奪った。だが、本当に消えたかどうか不安でもある。君ならそう見せかける事ができるとも思っているだろう』


 見せかけたけど、悪さをする為じゃないんだけどなぁ……いて!


 自然と僕は手を頭にやり、すりすりと撫でる。


 「お前また、トリップしていただろう。人の話を聞け」

 「ご、ごめんなさい」


 リトラさんのチョップが頭に飛んできたようだ。


 「あの、マルリードさん。気を付けてね」

 「あ、チェミンさん……」


 居たんだ。

 って、ぎゅーっと右手を両手で握られた。


 「あ、うん……その」


 どうしたらいいのこれ?

 チラッとみんなをみるとにやにやとしている。そしてなんと、エドラーラさんが微笑んでいるんだけど!


 『とうとう認められたようだな。おめでとう』


 おめでとうじゃないから!


 「あの……その……手……」


 離して~。


 「ごほん。では行って来る。チェミン。楽しみに待っているようにな」

 「はい。お父様」


 とても嬉しそうにチェミンさんが返事をしている。また何か二人の間であるらしい。嫌な予感しかしない。


 『悲しいことに、その予感は的中するからな』


 うううう。


 僕たちが荷馬車に乗り込み、エドラーラさんが二人の護衛と共に馬車に乗り込むと出発だ。いつも護衛している二人は、あくまでもエドラーラさんの護衛らしく、僕達はこの荷物を死守しなくてはいけない。


 満月の夜が座る反対側に僕は座った。三人と向かい合うかっこうだ。


 『いいか。目に見える魔法を使うなよ』


 目に見える魔法って?


 『ハイヒールやブーメランもだめだな』


 そっか。そうだね。三人は僕の監視役でもあるんだもんね。

 満月の夜は、僕をどう見ているんだろう。キモンさんが思っているような危険人物と思われているのかな。


 『さあな。ただ彼らも君が呪いが効かないと知っているからな。君なら魔法陣を用意できると思っても不思議ではない』


 そう思われていたら悲しいな。

 僕は、膝を抱きよせギュッと抱きしめた。


 『感傷に浸っているところ悪いが、顔を上げろ』


 うん。え……。

 三人が一点を見つめている。僕の右横?


 「え~~~!!!」


 そこには、まるでごはんをねだるように僕を見つめるリルがいた!


 「どうしてそこに……」


 どうやって出てきたの?


 『魔素空間を移動できるからだろう』


 え? あー!!


 『リルも魔素空間に出し入れ・・・・できる』ではなくて、『リルも魔素空間に出入り・・・できる』と追加されていた。見間違えていたんだ僕。


 『今はそんな事はどうでもいいだろう。それよりどうするんだ。この状況』


 あわわわ。どうしよう。逃がしていなかったのが三人にばれた!?

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