第72話 救われた街

 「うふふ……」


 うん? なぜかミューリィさんが笑っている。


 「よっぽど懐かれているのね。こっそりついてきていたなんてね」

 「よかったな。リルも一緒だ」


 リトラさんがにっこりと言った。


 「え? 連れて行っていいの?」

 「あぁ。構わない」


 ロメイトさんもそう言ってくれた。


 「ありがとう。リル~!」


 僕はリルを抱きしめる。


 『やれやれだ。まあ魔素空間から出てきたとは思わないだろうがな。よかったな。けど、気を付けれよ。勝手に出入りが出来るという事だからな』


 そうだね。でもどうしたらいいんだろう。

 まあそれはおいおい考えるとして、リルにミルクをやるかな。


 『……君が能天気でよかった』


 どういう意味だよ!

 もう失礼だな。

 僕は、ガサゴソとリュックからミルクを取り出す。


 「まだミルク持っていたんだな」

 「え? あ、買ったのを捨てるのもったいなかったから」


 って、隠れてあげるつもりだったけど、堂々とあげられる。


 『さて、なごんだところで情報収集だ。彼らに、もしスライムがあのままだったらどうなっていたか聞いてみろ』


 え? 満月の夜に聞いてわかるの?


 『知っているかもしれないだろう』


 うん。そうだけど。


 「あの……もしスライムがあのまま街に留まったままだったら町はどうなっていたんだろうね」


 できるだけ自然にミルクを飲むリルを撫でながら聞いた。


 「そうだな。最悪街ごと処分だっただろうな」

 「え? 街ごと処分!?」


 ロメイトさんの言葉に驚いて、三人を見ると三人とも神妙な顔つきで頷く。


 「あの核が全部、レモンスが放った魔素酔いしたスライムだとすれば凄い数だ。ただ倒すだけなら手間なだけだが、魔素を振りまくとなれば街ごと結界で囲い破壊する」

 「は、破壊? スライムだけを攻撃するんじゃなくて?」


 ロメイトさんの返事に聞き返すと、また三人揃って頷いた。


 「それができればベストだけどね。正直そんな魔法はないわ。魔法陣を使って街ごと結界で囲った後に無差別攻撃。瓦礫と魔素の海になるから、死んだ街になるわね。きっとレモンスの狙いはそれでしょう」

 「あいつが言っていた様に、生きていても地獄だ。いや死んだ方がましだろう。何もかも失い、息子の責任も取らされる。街の者達にも恨まれるだろうし」

 「殺すより復讐になるかもな」


 ロメイトさんの最後の言葉に納得する。スライムを放った時点で、復讐は完了したも同然だったんだ。


 『なるほどな。それなら一肌脱いだ事になっているエドラーラの功績は大きいってわけだ。一つの街を救ったのだからな。核ぐらいくれるだろう。だとしたらもったいない事をしたな。君の手柄がエドラーラの物になったのだからな』


 僕的には、そんなのどうでもいいよ。そこまで憎むようになる呪いが恐ろしいよ。それを戦争の道具にしたんだよね?


 『そうなるな』


 リレイスタルさんを騙る錬金術師は、危ない奴だったみたいだね。


 『錬金術師ではなく魔導士な。しかし、彼にそこまで壮大な計画を立てられたかどうかだ。口添えをした誰かがいるのかもな』


 え? 仲間?


 『いや、それこそ利用した者だ。例えば、負の遺産の威力を計る為にレモンスを利用した』


 待って。そうなるとレモンスさんは殺されたかもしれなくない?


 『可能性はあるな。だが私の考えがあっているか間違っているかさえ、手がかりがない。あるとすれば、ベルの出どころだ。どこで手に入れたのか。偶然見つけたとしても彼が鑑定できなければ、使えないぞ。契約したとしてもベルを使えるようになる事しかわからないからな』


 じゃ少なくとも、どういう物か教えた者がいるって事だね。


 『あぁ。しかしその者は、戦争でも起こすつもりなのか?』


 戦争かどうかわからないけど、争いを起こそうとしているかもね。ベルの様な負の遺産を見つけたのかもしれない。じゃなければ、手渡さないよね? 貴重な物なんだから。


 『同感だ。あれより価値があるものを持っている可能性がある。ただ鑑定されれば負の遺産だとわかってしまうからな。こっそり隠し持っているはずだ。という考えは、ディルダスもしただろう』


 ……そう。いきなりそこに持っていくんだ。


 『変な話、ディルダスとキモンの考えは違うだろう。逆じゃなくてよかったな』


 逆とは?


 『キモンがマスターじゃなくてよかったなって事だ。彼がマスターだったら君は囚われていただろう。君ではないという証拠を出さないといけないが、囚われの身ではどうする事もできん』


 僕は、それを聞いて背中がぞくりとした。

 せめて、僕じゃないという証拠を探さないと、キモンさんが何かしてきそうだね。


 『可能性はあるな。満月の夜が二人のどちらについているかによるが、ディルダス側なら協力してもらうのもありだろう』


 うん……そうしてもらえたらありがたいけど、迷惑をかけないかな?


 『何をいう。今更だろうに』


 う。その通りかも。

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