第70話 ジグルの話

 トントントン。

 部屋を出て行こうとドアに向かうとノックが聞こえた。


 「はい?」


 カギは掛かっておらず、開けると尋ねる予定のジグルさんが立っていた。


 「ジグルさん……」

 『言っただろう。向こうも知りたいだろうって』


 うん。そうみたいだね。


 「ちょっと話がある。いいか?」

 「だったら場所を変えない?」

 「あぁ……」


 そういうわけで、僕達は草原へと向かう。あそこが一番内緒話をするのに適していると思った。


 「こんなところに連れてきたという事は、お前も話があるようだな」


 ジグルさんの言葉にそうだと僕は頷く。


 「レモンスさんが死んだって本当?」

 「……お前が街に向かってすぐに、彼の足元に魔法陣が浮き上がり死んだ」

 「魔法陣……」

 『………』

 「死ぬ用意までしていたとはな」


 ジグルさんは、自殺したと思ってるんだ。


 「本当に自殺なの?」

 「は? 誰かが発動したと思っているのか? 魔法陣なんてそうそう使えないだろうが。しかも人を殺す魔法陣だぞ? そんなの裏ルートでしか手に入らないだろうが!」

 「え!? そうなの?」

 「当たり前だ! そんなの普通の奴が欲するか?」

 『彼の言う通りだな。自害する為に手に入れていたと思って間違いないだろう』

 「そっか……」


 ジグルさんが、盛大なため息をついた。


 「抜けている奴だとは思ってはいたが。まあいい。今度はこっちの番だ。レモンスが、妙な事を言ってたよな? 魔狼がどうとか……。お前がミルクをやっていた犬の事なのか?」

 「え?」

 「ギルドマスターには、親を憎んでいると言っていたとだけ言えと言われた。それって魔狼の事は言うなと言う事だろう?」


 リルの事を言うなとは言ってないんだ。


 『なるほど。ほとんどの奴は、マルリードの事を詳しくは知らない。あの状況で話を聞けば、逆恨みで君も一緒にはめたと思うだけで、リルやモンスターの予行練習の話など詳しく覚えてはいないだろうな』


 ジグルさんは、僕がリルを飼っていなかった事を知っているからリル=魔狼なのかと思ったんだ。


 『みたいだな。スライムの件は気づいてないようだし。ところでもう一つ話があるのではないか?』


 うん? あ、そうだった!


 「あ、あのさ。パーティー上手く行ってる?」

 「……しばらく考え込んでいると思えばいきなりだな。お前に関係ないだろう」

 「そうだけど。ニーナが心配なんだ……」


 ニーナの名前を出したら睨まれた。


 「ふん。ニーナに聞いたのか? ガイダーは抜ける事になった。パーティーランクは下がるだろうな。これで満足か?」

 「満足かって。別にそういう意味で聞いたんじゃないんだけど」

 「お前が心配するのはニーナじゃないだろう。あの時、行ってもお前じゃどうにもできないのに向かった相手ではないのか?」

 「そ、それ、ギルドマスターから聞いたの?」

 「あぁ。レモンスの婚約者だったとか。婚約者がいるのに手を出すから変な事に巻き込まれるんだろうが」

 「………」


 これって、噂になるかな?


 『街の復旧がひと段落ついたら色んな噂が飛び交いそうだな』


 やっぱり?


 『君は、街でも有名人になりそうだな』


 なりたくない!


 「ところで今日は、あの魔狼の犬は連れてないのか?」

 『話をそらしたのに戻したか……』


 え!? 話をそらす為だったの?


 『……どちらにしても話したかった事だったろう?』


 そうだけど……。


 「リルは、放したよ。危ない目に遭わせたくないからね」

 「リルか……。一つ言っておく。余計な口出しはするな。ニーナは俺が守る」


 そういうと、草原をスタスタと去って行く。

 僕はただそれを見送った。


 『結構するどい奴だな。気づいたかもしれん』


 何を?


 『リルを手放していない事をだ』


 え? どうしてそう思うの?


 『そうだな。簡単に言うと君の性格を把握しているからだ。まあ向こうは、君がどうなろうとどうでもいいだろうから誰にも言わないだろうけどな』


 そう……。僕もニーナを守ってくれればそれでいいよ。


 『自分で守ればいいだろうに』


 それが出来れば、やっているよ。


 『自分の評価が低いんだな。今の君なら守れるだろう』


 そうなのかな? 逆に危険な目に遭わせそう。


 『うむ。旅と言う名の探索をさせられるんだったな』


 はぁ……何をさせる気なんだろうね。

 重い足取りで僕も草原を後にした。

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