第69話 カギを握る者は――

 ずっと質問攻めで、緊張もあるから喉がカラカラになってきた。


 「けほん……」

 「大丈夫ですか?」

 「は、はい……」

 「では続けます」

 『容赦ないな』


 水飲みたい……。


 「レモンスがスーレンだと気が付いていましたか?」

 「えーと……」

 『簡素に聞いて知ったと答えておけ』


 あ、そっか。僕は、彼に相談している事になっているんだっけ?


 「スラポ草原で彼から聞いて知りました」

 「彼とは誰です?」

 「本人です」

 「レモンスは、なぜレモンスと名乗っていたのかご存じですか?」

 「それが自分の名前だからだと思いますけど?」

 「なぜそう思うのです?」

 「え? レモンスさんが16歳まで知らなかったって言っていたから」


 少なくとも16歳までは、スーレンという名前だった事を知らなかっただろうし。


 「ではレモンス本人が言った言葉を信じてという事ですね?」

 「……はい」

 「あなたは、レモンスがスライムを街に放ったと聞いて街へ向かったという事ですが本当ですか?」


 とうとうこの質問が来た。僕は、こくんと頷く。


 「なぜ一人で向かおうとしたのですか? 草原に来る時は、一人では無理だとついてきてもらったのですよね?」

 「……そんな事は頭からぬけていました」


 そう。本当に頭から抜けていた。


 「向かった理由は?」

 「し、心配だったから」

 「街の人がですか?」

 「……チェミンさんが」


 いざとなると恥ずかしい。


 「聞き取れませんでした。もう一度お願いします」

 『声が小さとさ。ほれ、大声で言ってやれ』


 ひど! 楽しんでいるだろう。


 「チェ、チェミンさんです!」

 「なるほど。で、街にスライムは居ましたか?」

 『いなかったと答えるのだぞ』

 「い……いませんでした」


 そうだった。着いたときは核になっていたって事にするんだった。あぶなかった。


 「そうですか。どう思いました?」

 「え? どうとは?」

 「スライムを仕向けたと言われたのに、実際はいなかったのですよね?」

 「確かにいなかったけど、街が凄い事になっていて、チェミンさんを探しました」

 「彼女はどうしてました?」

 「父親と無事にいました」

 「レモンスを憎んでいますか? 生きていたら復讐したいと思ったりしましたか?」

 「え?」


 僕は、質問の意味がわからずクーベンさんを見つめた。


 「聞いていませんか? レモンスが自害した事を」

 「うそ……」

 『なるほどな。リルの話が出てこないわけだ』

 「なぜ? なぜ自殺なんて」

 「なぜと私に問われてもお答えできません」

 「憎んでいません。やった事は許せないけど、憎んでいません」

 「そうですか。今日の所はここまでです」


 クーベんさんはそういうと、ドアをノックする。鍵が外され二人は部屋の外へと出て行った。


 「どうして自殺なんて。復讐になったかもしれないけど、あれで満足なの? というかあそこまでしておいて、あれで終わり?」

 『最初からそのつもりだったのだろうな。でないと、あの状況では舌を噛むぐらいしか死ねないからな。ただ腑に落ちない事があるのは確かだ。本当にスライムに襲われて、被害があったかどうか、あの時点ではわからないだろう。まあ仕掛けてあったのだろうから成功だと思ったか。しかし、にっくき両親の苦痛の顔を拝まずに死ぬとは思わなかったな』

 「そう、それ! 殺さなかったんだからそういう姿を見たかったんじゃなかったの?」

 『まあ死んでしまっては聞きようがないな』

 「……本当に自分で死んだのかな?」

 『ディルダスに殺されたと?』


 僕は、静かに頷いた。あり得ない話ではない。色々つじつまを合わせるのに、言う事を聞かないだろう彼を殺した。僕を取り込む為に……。


 『ないこともないだろうが、他の冒険者がいたからな。処罰の対象になるとはいえ、その場で殺したとなると、他の冒険者が口裏を合わせてくれるかどうかだな。そんなに気になるならジグルにでも聞いたらどうだ? 彼ならたぶん本当の事を言うだろう』

 「そうかな?」

 『あぁ。君から真相を聞きたいだろうからな』


 真相か。僕を知る者ならやっぱりおかしな行動だよね。


 『自害にせよ他殺にせよ、カギを握るレモンスが死んだんだ。復讐劇に巻き込まれたと思われる君が何かを知っていると思うだろうな』

 「そうだね。ジグルさんに聞いてみるよ。もしレモンスさんを殺したとなれば、ディルダスさんに従うわけにはいかないから」

 『めずらしく意見が一致したな』


 僕は部屋を出て、ジグルさんに会いに行くことにした。

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