第65話 駆け引き

 もしかして僕、負の遺産と同じ扱いなの?


 『同じ扱いというか、それ以上だろうな』


 それ以上って?


 『君の事が国に知れれば、国が君を管理するだろう。そして、君の存在が他国に知れれば他国からも狙われる事になり、国の庇護がなければ生きていけなくなる。隠れて暮らすか、国の庇護の元暮らすかだな。まあどちらにしても自由はない』

 「そ、そんな……」


 まさかそんな事になるなんて!


 「彼に聞いたか?」

 「あ……」


 三人が僕を見つめていた。またやってしまった。


 「君が引き金で戦争が起こっては困るんだ。何せ世界共通だとは言え、ギルドに出資しているのは国だからな。兵士として戦わされるのは冒険者たちだ。一つのモノは取り合いになる!」

 「………」

 「そして、君の魔法の事を知っている我々満月の夜もどうなるかわからない」

 「え?」


 ロメイトさんの言葉に僕は驚いた。


 「それって……」

 「監視下に置かれるか、口封じされるか」


 そうリトラさんがつぶやく。

 みんなが知っているのって、魔素耐性があって魔素空間を持っているって事だよね?


 『いや、キモンは君のステータスを確認している。持っていないはずの彼らの魔法を取得しているのは確認済みだ。少なくともそれはディルダスに報告しているだろうから彼は知っている』


 え……。じゃ僕が魔法を何らかの方法で取得しているってわかってる?


 『だろうな。魔眼で取得していると気づいているだろうな。あえて言ってこないだけだろう。そして満月の夜の者も何も言わないが、何となく感づいているのではないか? 魔眼が説明を受けただけの代物ではない事を』

 「………」


 あ、あのさ。僕、これからどうなるの?


 『まあ、それは彼ら次第だろうな。隠すなら徹底的に隠す。でなければ、全てさらけだす。そうなるだろうな』


 そ、そんなぁ……。


 「事の重大さがわかったか?」


 ディルダスさんに問われ僕は頷いた。


 『まったく。私に説明させるとはな』


 あ、ごめん。っていうか、リレイスタルさんのせいでもあるじゃないか!


 『いや今のセリフは、ディルダスに言った言葉だ』


 自分で教えなくてもリレイスタルさんが教えてくれると?


 『そして、君をどう動かすか、探りを入れているのだろう。それによっては、国に売るかもな』


 ひ~~!!

 変な行動しないでよ!


 『前から言っているが、行動するのは君だ。私は助言するだけだ』


 うううう。


 「ひとつ頼まれごとをしてくれないか?」


 うん? 頼まれごと?

 そう言ったディルダスさんに振り向くと、鋭い眼光で僕を射抜いている。こ、怖い。


 『何か聞いてみろ』


 ううう。聞きたくないなぁ。


 「な、なんでしょうか?」

 「彼らと一緒に、旅に出てくれないか?」

 「え?」

 「条件を飲むなら今回の事はなんとかしてやろう」

 「………」


 意味がわからない。満月の夜と一緒に逃げろって事?


 『いや、旅と言っても何かさせる為の旅だろうなぁ。どうする? よく考えれば国の庇護の元、錬金し放題なのだから私はどちらでもいいぞ』


 何言っているのさ! 前のリレイスタルと僕同じって事でしょう?


 『……だな。しかし君は、私の魔法を集めてくれないようだし』


 ひどくない? そういう脅し方?


 『私は、言うだけで何もできん。一つ言える事は、国の庇護は裏返せば死ぬまで奴隷だ』

 「………」


 みんなしてもう……。


 「わ、わかりました。旅にでます」

 「そうか。よかった。馬車はこちらで手配しよう」

 『よかったな。歩きじゃなくて』

 「よかったぁ」


 ぐったりとしてロメイトさんが、背もたれによしかかり言った。


 「気が気じゃなかった」

 「へ?」


 リトラさんも安堵している様子。


 『彼らの運命もかかっていたみたいだな』


 そういう重大な選択を僕にさせないで~!


 「とりあえず、先にその魔狼をニーナに預けてきてくれ。その間に話を詰めておく」

 「わかりました」


 僕はディルダスさんの言葉に頷いて立ち上がり、リルを連れて部屋を出た。


 『さて、君の運命はいかにっていう話だな』


 もう脅すのやめて! ここから逃げたくなる!


 『それでもいいぞ。君を一人にしたのは、それをするかどうかを見極める為でもあるだろう』


 え? どういう事?


 『逃げる選択肢も与えたって事だ。ただしこの場合、調査隊から逃げた事になり、指名手配されるだろうな』

 「……素直にディルダスさんに従うよ。それが一番いいと思う」

 『ではそうしよう。ただし、彼が君に何をさせようとしているのかはわからない。彼女に預けるのは得策ではないだろう』

 「……?」


 僕は歩みを止め、後ろを振り向く。何となく、誰かにつけられているんじゃないかと思ったからだ。

 逃げるかもしれない相手を野放しになんてしないよね?


 『彼女に渡したか渡さなかったかは、筒抜けだがどうする?』


 そうだね、ニーナは巻き込みたくない。何か策があるんでしょう?


 『まあな。お得意の草原へ向かえ』


 僕はリレイスタルさんの言う通り、草原へと向かう事にした。

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