第64話 魔狼の扱い
僕がリムーバルを飲み干すと、みんながごくんと唾を飲み込む。キモンさんの発言待ちだ。
「魔法は消えたようですね」
その言葉に、僕も含め全員安堵の吐息を漏らす。
「ではいいな?」
「はい。約束なので黙っていましょう。私はこれで失礼します」
ベルを入れた箱を手にキモンさんは立ち上がった。
「あ、そうそう。協力して差し上げるのですから、魔狼がいるのがバレないようにお願いしますね」
そう一言追加してキモンさんは部屋を出て行く。
『どうやら今の時代魔狼は、あまり歓迎されていないらしいな』
やっぱり危険な生き物扱いなのかな?
「彼の言う通り、その魔狼は絶対に調査隊の連中に見つかるなよ。見つかれば、奪われる」
「殺されるんですか?」
「いや、彼らの都合のいいように飼育されるだろう。魔狼などは他国への抑止力になるからな。こんな小さな頃から手に入れるなんて滅多にない」
『そっちか。昔も今も国が考える事は戦争か? 嫌になるな』
そうだね。さて、リルをどうしよう。
「あれだな。今回の件に関係ない人物、例えばニーナだっけ? その子に預けられないか?」
「え?」
リトラさんがそう提案してきた。
「今回の事件は、国を揺るがす大事件なんだ。君はそんなふうに思っていないようだがな。だから我々もエドラーラ達も色々調べられるだろう」
「そ、そうですか……」
「全く、家族間の喧嘩をここまで大ごとにするなってな」
リトラさんがそういうと、二人はうんうんと頷いた。
確かに親子喧嘩みたいなものだけど、やった事はそんな事では片づけられない事だ。
「ニーナか……。いいけど彼女も一応ジグルさんのパーティーメンバーだけど大丈夫かな?」
もしニーナが持っていたのを発見されたら彼女に迷惑がかかる。
「それは大丈夫だろう」
ディルダスさんは、自信満々に言い切った。
「なぜですか?」
「出来るだけ事の内容を知られたくないからだ。というか、負の遺産が使われた事を隠したいはず。どこの国もそうだが、負の遺産は喉から手が出るほど本当は欲しいのだ。もちろん戦争する為ではなく、自国の力を維持する為だ」
『同じ事だろうに。戦争せずに他国を抑え込む。そういう力がほしいのだろう?』
「うーん。負の遺産とお金持ちの人が欲しいと思っている魔法のアイテムって違う物なの? 前にディルダスさんが貴族の子孫が欲しがっているって言っていたけど、それとは違う物なの?」
「そいつらが欲しがっているのは、国が欲しがっていると知っている者達だ。つまり売る先は国。それがその後どう使われるかなんて考えてもいないだろう。使い方次第では、今回の様にできるのだからな」
そういう事か。
『結局金か。もう聞き飽きた。しかし面倒な事に巻き込まれたな。ディルダスが言う通りリルの事もそうだが、魔眼の事も隠し通さないとな。でないと……』
どうやって隠すんだよ。魔眼はわからないかもしれないけど、他の魔法があるから鑑定されたら一発でバレるじゃないか。きっと誤魔化しきれない。
『さっきやったように隠す契約魔法を取得すればいい。君は、魔法を作り取り入れる事が出来るのだからな』
よく考えたら凄い魔法を作って自分で使えるんだ。もしそれを知られたら――。
「なんだか怖くなってきた……」
「うん?」
『おい、声が漏れているぞ』
え? ハッとして見ると三人がジッと僕を見ている。
「やれやれ。その行動もなんとかしないとな。いずれバレるぞ?」
「魔狼と話が出来るなんて羨ましいな。もしかしてそれも魔眼の威力なのか?」
ディルダスさんが忠告すると、リトラさんに羨ましそうに言われてしまったけど、なぜにリル?
『勘違いしているのではないか?』
なるほど。リレイスタルさんが僕の中に居るって知っているのディルダスさんだけだもんね。
『しかしリルと一緒にいる前からそうなのにな』
「………」
ペシ!
「あ、いた……」
軽くおでこをリトラさんに叩かれた。
「それをやめろと言われているのに……」
「すみません」
僕は、おでこをさすりながら謝った。
「あのなんで僕の事を国に売らないんですか?」
「なんだ突然?」
「いやだって……隠すの大変じゃないですか。色々つじつま合わせしないといけないし。それにバレたら大変ですよね? そこまでしてなぜ僕の事を隠すのかなって……」
ディルダスさんが悪い人じゃないのはわかるけど、リレイスタルさんがよく言う裏があるんじゃないかと思ってしまった。正直怖い。
『まあそうだな。何を考えているのか。もしかして何か頼みごとがあったりしてな』
「そんな事か。わかりやすく言うとだな、戦争を起こしたくないからだ。負の遺産ならまだいい。複数あるのだからな。だが君は一人だ」
「え?」
ど、どういう意味?
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