第30話 魔素の証明
「ここにいたか!」
うーん? 何?
『リトラという者が、テントを覗いているが?』
え? リトラさん!?
僕は、がばっと起き上がった。
「おはよ。起きて早々に悪いけど、ギルドに来てくれないか?」
「え? なんで?」
「ちょっと証言してほしいことがあるんだ」
証言? 一体僕に何を?
「わかりました」
返事を返した僕は、寝ているリルをポーチに入れ、テントの外に出た。そしてそのテントをたたむ。
あ、どうしよう。リトラさんの前でしまえないよね?
『先に行ってもらえ』
そうだね。
「先に行っていてください」
「いいけど、それどうすんの?」
「か、隠しておくので……」
「犬を飼ったみたいだって聞いたけど、生まれたてか? もしかして犬と過ごすのにテントを買ったのか?」
驚いている様子のリトラさんの質問に、素直に頷いた。
「まあいいけど。お前らしいし。ただし、犬を守る為に自分の命を投げ出すようなことはするなよ。じゃ待ってるからよろしくな」
「はい。後で……」
『彼の言う通りだぞ』
「う……」
無意識に動いちゃう気がする。
僕は辺りを見渡して人がいないのを確認してから魔素空間に、テントをしまった。
ところで僕に何の用だろうね?
『わからないが、探しに来たのだから急用なのだろう』
思い当たる節がない。
『行ってみればわかるだろう』
「うん」
僕は、パーティーギルドに向かった。
□
ギルドで待っていたのは、満月の夜のメンバーとダリリンスさん。それともう一組のパーティーの三人組。そこにパーティーギルドのギルドマスターのディルダスさんが加わり、話が行われるようだった。
ディルダスさんは、表舞台にはほとんど出てこない。片目を負傷していて眼帯をしている。きれいな碧眼なのにな。
『なんか思っていたより大ごとそうだな』
な、なんだろう? 僕、何かしたかな?
「そんなに構えなくてもよい。君に聞きたいことがあってな。まあ彼らを信用しないわけではないが、君も一緒に行ったと聞いて最終確認だ」
ディルダスさんがそう難しい顔つきで言った。
満月の夜のパーティーと一緒に行った場所って、紅灯の洞窟かな?
『そうだな。そこだろうな』
「実は、満月の夜の三人の話によると、紅灯の洞窟には30%の魔素が充満していたらしい」
『やはり紅灯の洞窟の事だったな』
まさかリルの事がばれた!?
『それはないと思うが……』
「ところが昨日ダリリンスさんとレモンスパーティーで洞窟を確認しに行くと、魔素が外と同じ量しかなかったらしいのだ。魔素は本当に30%あったのか?」
「え!?」
しまったぁ。そんな事が問題になるなんて思わなかった!
「あの! 入ったとたん、魔素感知器が凄い音が出したんです! 僕びっくりして、ミューリィさんに抱き着いちゃって!」
『抱き着いた事は言わなくていいのではないか?』
「あ……いやその……わざとじゃないんです」
ジドーっとした目で見られてしまった。
「なるほど。20%を超えた時点でブザーが鳴るから20%は超えていたようだな」
僕の説明に、ディルダスさんは納得してくれたようだけど、本当に僕は何余計な事を言っているんだ。
「しかしそうなると、一晩で魔素がどこに行ったのかだな」
ダリリンスさんがそういうと、全員渋い顔で頷いた。
魔素は、一晩どころか数分で魔素空間の中だけど言えないよね。どうしたらいいと思う?
『黙っておけ。それよりも魔素が増えていないか聞いてくれ』
うん? 減ったままって言っていなかった?
『それは入り口だろう? 奥まで行ったかを聞くのだ』
……いいけど。
「あの、洞窟の奥はどうだったんですか? 行きました?」
「あぁ、行き止まりまで行ったが2%のままだった」
ダリリンスさんが答えてくれた。
今更だけど魔素空間に取り入れた時、入り口までのも全部吸い取ったのか。凄い威力だ。
『妙だな』
妙って?
『あの場所に魔素ポイントがあったわけではなかったという事だ』
うん? 魔法陣を消したからじゃないの?
『あれはリルを縛る為の物だと思っていた。だが魔素も出す魔法陣だとすれば、魔素を送り込んでいた事になる。どこかに魔素がたくさんある場所から送っている事になるのだぞ? わざわざあの場所にだ』
うん? どういう事?
『つまり魔素ポイントがあったからそこにリルを置いたのではなく、わざわざ魔素を充満させて、リルを縛り付けていたってことだ。なぜそんなことをしたのか』
そういえばそうだね。魔素がある場所があるならそこでやればいいものね。なんでだろう?
「どちらにしても、ちゃんと調べる必要があるようだな。ダリリンスさん、頼めるか?」
「あぁ。任せておけ。そうだ、マルリードだったか、あなたも来るか?」
「え? 僕?」
行っていいものなの?
『ついていけ』
「わかりました」
「私達もお供します」
そう言ったのは、レモンスパーティーの人だった。満月の夜のメンバーは、一緒にはいかないみたい。
こうして今度は、メンバーを変えて紅灯の洞窟へと向かう事になったのだった。
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