変態が征く

はよほ

第1話 変態、異世界に来ちゃったぜ☆

 現代は、とても窮屈だ。

 社会とは集団で成り立ち、そこから逸脱したものは例外なく『異常者』として煙たがられる。

 変態やキチガイなど、その手の人間を揶揄する言葉はいくらでも溢れており、無意識に他者を傷付ける。


 全員が同じスーツを着て同じような靴を履き、合格する為にテンプレを繰り返していく。無論、そうで無い者たちも大勢いる。

 趣味ですら、流行や周囲に合わせない者は"変人"という一言で括られ、さも普通ではないようなレッテルを貼られる。


――気持ち悪い。


 素直にそう思った。誰かと同じでなければ異分子と見做される、そんな感覚に吐き気を覚えながら送る日常が嫌だった。

 だから変態と言われようと、趣味だけは自分の気持ちや欲求に素直に生きたいと思っている。



「今日も今日とて楽しかったなぁ!」


 秋葉原の一角、駅のそばにある自宅にて寝転がる美少女。

 こそ依人よりと――稀代の変態、等とというこの上ない褒め言葉レッテルを付けられている女装少年である。


 今日はオタク趣味の友達とゲーセンで遊び倒し、それからラーメンを食べて帰ってきた。

 綺麗な桃髪を乱雑に乱し、少し濃いめのピンクパーカーはノースリーブ且つファスナーを全開にしている。黒スカートは丈が短く絶対領域。

 パンツは履いているが上半身は現在、パーカーのみであり下着を着ていない。


 凄く―――変態だ。


 「涼しくって快適快適。 このまんま寝るか……明日休みだし」


 真夏日を記録する今は真夏の八月。

 室内は冷房が稼働しキンキンに冷えている。普通は風邪を引くものだが、依人に限って言えば一度もそんなことが無いの上に風邪を引いたこともない。

 注意しても馬の耳に念仏、意味は無い。


 「んじゃま、誰も聞いてねぇけどおやすみぃ~……」


 誰に言うでもなく、適当に呟いては瞼を閉じて眠りについた。



 ◇◇



 意識が沈んでいく感覚がする。深く深く、底無しの奈落に落下し続けているかのような。


 可笑しい――そう思った。


 というよりも、寝ているはずなのにハッキリと感覚を認識できている。

 どうなっているのだろうか?

 普通寝ていればそんなことは有り得ないし、夢の中でも多少は朧げなはずだ。こんなにハッキリと認識するのは可笑しい。


 そう思考を回しては瞼を開けてみる。

 するとそこは、宇宙だった。


「……、は?」


 無意識に、素っ頓狂な声が漏れた。

 余りにも常識から外れているのだから当然だろう。部屋で寝ていて目を開けたら宇宙って、どういう事だよとツッコミたくもなる。


 五感も四肢の感覚もちゃんとあることを確認して起き上がる。

 意識も澄んでいるし、ほっぺを抓ってみるがしっかり痛い。


「何なんだ此処は……宇宙? まさか神様的な奴にでも連れて来られたか?」

「ご名答――」

「んぁ?」


 頭を掻きながら適当に零すと、威厳のある声で返答が返ってきた。

 声のした方を見上げれば、立派な白髭を生やし玉座のようなものに座った巨大な老人が居た。

 黄金の髪と瞳は眼光を放っており、纏った魔性は神秘的とさえ錯覚する程。偉そうな座り方で頬杖をつき、古代ギリシャの服装を纏っている。


 周囲には星々が煌めき瞬いている。荘厳な雰囲気と静謐が支配する空間に、威厳ある老紳士の声が響いた。


「卿は私が召喚した。 全宇宙を支配する我が無聊ぶりょうを満たす為に」

「てめえが……?」

「然り。 卿ら人類を無作為に選び、異世界へと転生させその活躍を見物する」

「要は退屈しのぎに呼びつけて、そいつを玩具にしていると? 趣味が悪い……」

「此度は卿が選ばれたのだ。 喜べ人間、偉大なる我が籠を授かり転生するのだ。 富も栄誉も女も、卿の好きにできるのだから」


 傲岸不遜。依人の中ではそう断定される。

 余りにも身勝手で自己中。自分でも他人のことは言えないと思っては居るものの、流石にこれはトサカに来る。


「……要らねえ。 俺の自由は俺が決める事だ、ぽっとでのてめえなんぞに施され従う理由は無い」

「ほう? 私に楯突くか……中々見所のある若造だ。 だが、私に従えぬというのならば―――他ない」

「ッ!?」


 老人の右手に極大の雷霆が集う。

 宇宙空間が震え、可視化される程のプラズマが激しく放出される。


 この老人の正体は――。


「全知全能の天空神、ゼウス……だと?」

「左様。 我が名はゼウス、全宇宙を統べし天空神にして卿ら人類の父である」

「この状況、冗談や夢じゃねえ……マジで死ぬっ」


 体が動かない。逃げなければいけないのに、一切動けない。

 意識も感覚もちゃんとある。後は逃げるだけなのに、体が脳が命令を一切受け付けない。

 臆している。恐怖しているのだ、絶対の運命に。神が齎す傲慢な結末に、矮小な人間が敵うはずが無いのだと。


「クソっ、クソクソクソクソクソクソ……畜生がァッ!!!」

「疾く散れよ。 美しい卿を、私の男娼として迎え入れようと思ったのだがね……死ぬがよい」

「――」


 全能神の無慈悲な号令と共に、全宇宙を焼き尽す滅尽の雷霆が解き放たれる。

 雷速を超える速度で迫る極大のプラズマ砲が、ちっぽけな人間よりとを容易く呑み込んだ。

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