第八話 ついでに剣も新しくしたほうがいいらしい


 ガリアスは優之介の剣を手に取ってみた結果、ごく普通の剣であることを確認すると「はぁ」とため息を吐いて剣を作業台の上に置いた。




「確かに刺すことはできなくもないが、ドラゴンとの戦いでくたびれちまってるなぁ。このまま使い続けたら戦闘中に折れちまうかもしれねぇ」


「えぇ!?」


「いえ、むしろよく折れずにドラゴンを倒せたものです」




 優之介と斬波が王城から抜け出す際に初期装備として貰った剣だが、ワームドラゴンとの戦いで消耗が激しかったらしく、これから先も剣を振るう事があるなら新しくした方が良いとガリアスは優之介に提案した。




「でも、この剣はソフィーとタマキさんがくれた大切な物なんだ。剣を新しくするなら別の物を一から用意するよ」


「ユウノスケ様……」


「ガリアスさん、ユウノスケさんの剣を打ち直す事はできますか?」


「できなくはねぇが性能を上げるためにはミスリルとか新しい材料が欲しいところだな。このまま打ち直しても、これから先ドラゴンみたいな強ぇ魔物との戦闘に耐えられねぇのは確かだ」




 レミリアがガリアスに剣の打ち直しを提案してみるが、ガリアスはこれから先の冒険で強い魔物との戦いになったら剣が耐えられなくなることを懸念して、首を縦には振らなかった。


 彼の懸念が最もなのは優之介とレミリアも理解しているのでこれ以上は強気には出なかった。




「ユウノスケ様、殿下と私めにお気遣いいただきありがとうございます。ですが、こちらの工房主様のおっしゃる通り、ユウノスケ様達の戦闘はこれから厳しくなる事もありましょう。ですから、その剣を鍛え直すのではなく、ミスリルやオリハルコン等を使用したもっと性能の良い剣を新調なさってはいかがでしょうか?」


「ありがとうございます、その方向で考えます。今は斬波さんから貰った剣があるので、そっちをメインに使いながら素材を集めようと思います」




 優之介は近いうちに剣をもっと性能の良い物に新調する考えでまとまり、新しい剣できるまでは斬波が元々持っていた剣を使うことにした。


 そうなると今度は斬波の武器だが、斬波はダンジョンのドロップ品である【山崩】を武器に戦っているので全く心配は要らなかった。




「ミスリル、オリハルコン、ファンタジーな良い響きだ。顕微鏡で組織がどうなっているか見てみたいものだが、素材採取となると鉱山に行かないと手には入らないか?」




 事務仕事に一旦区切りが着いたのか、斬波がそう言いながら話の輪に入って来た。レミリアが「お義兄さん、机仕事は……?」と質問したら、斬波からは「JISの覚えている範囲を全部書き終わったから終わりだ」と答えが帰ってきた。仕事早くない?




「ミスリルは在庫があるがオリハルコンとかはレアだからな、流石に持ってない」


「と、なるとアダマンタイトやヒヒイロカネはもっとないな?」




 ガリアス曰く、ミスリルは珍しくはないがオリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネは滅多に出会えないらしく、特にヒヒイロカネは伝説になっているくらいの希少さだそうだ。この話を聞いた優之介と斬波はテンプレなファンタジーだなぁと思いつつ、今度見つけたらコレクションにするかアクセサリーにしてやろうと企んていた。レミリアには野郎二人が何を考えているか大体わかったので「はぁ……」とため息をついて少しだけ呆れていた。




「そのへんは希少すぎて滅多にお目にかかれねぇ、もし見つけたら俺が高く買ってやるぜ?」


「その時はガリアスんとこに持っていくよ。まぁ話を戻してだ、今後、俺らのやることは工業規格の制定をしつつ優之介の剣の材料を入手すると言ったところか」


「うん」「「「はい」」」「まぁ、そうなるな」


「じゃあ手っ取り早く剣の材料を手に入れる為には明日は鉱山で採掘か?」


「いいや、鉱山での採掘じゃせいぜい銀がいいところだろう。ダンジョンがいいんじゃねぇか?」




 ガリアスの言葉に優之介達は疑問を抱いた。何故なら鉱石を手に入れるなら鉱山で採掘をするのが適していると誰もが思うはずだが、ガリアスはダンジョンを推奨してきたからだ。




「普通の鉄なら鉱山だが、ミスリルとかの希少金属を狙うならダンジョンの方が取れる確率が高い。ゴーレム系統の魔物はよく鉱石や宝石をドロップするんだが、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトはドロップしたと記録が残っている」


「「「「おぉ~~!!」」」」


「斬波さん! 明日はダンジョンに潜りましょう!!前回は十階層で途中退場しちゃったので今回は制覇を目標に挑んでみましょうよ!!」


「それいいな、明日は三人でダンジョンに潜るか♪」


「私もオーガスケルトンにリベンジです!!」




 ガリアスの一言でその場は盛り上がり、優之介と斬波とレミリアは早速次の日にはダンジョンに潜る事を予定している。




「何やら盛り上がっているな?」


「ダンジョン? 何それ面白そう!!私も行っていい?」


「ユウノスケ様がダンジョンに行かれるなら私も同行したいです!」




 優之介達の盛り上がりに釣られ、この場にソフィーリアとクラウディアと理音も合流した。彼女達に翌日はダンジョンに潜る事を伝えると、三人とも「私も行く」と言い出したのだ。


 クラウディアは近衛騎士団の副団長故に強さが証明できるから良いものの、理音とソフィーリアは戦う術があるのか? いや、そもそも王女殿下であるソフィーリアがダンジョンに潜ってもし彼女の身に何かがあったら大変なことになる。


 この場にいる全員がソフィーリアに対し、ダンジョンに潜る事は止めるように言うと……。




「私……もう、ユウノスケ様の背中を……見送って、帰りを待つのは嫌です! 寂しいですわっ!!」




 と言って泣き出してしまった。これにはクラウディアとタマキもたじたじだ、特にクラウディアは絶賛アプローチ中の斬波と一緒にいるものだから、ソフィーリアの気持ちは痛いほど理解していた。


 二人がたじろぐ中斬波がフォローに入るも……。




「良妻と言うのは仕事に出かけた夫の帰りを信じて待つものだ」


「それ、レミィに同じ事言えますの……?」


「うぐっ、レミィはまだ妻じゃねぇから……」


「私もユウノスケ様の妻ではありませんわ」


「…………」(食い下がれなくもないが、これは多分勝てないな……)




 ソフィーリアに撃沈されてしまった。




「そ、ソフィー……。ソフィーは王女様なんだから、万が一何かあったら国の一大事になっちゃうでしょ? だからここはお留守番した方が「ユウノスケ様は私の事がお嫌いですか?」」


「そんなことないよ! ソフィーはとてもかわいいよ!!」


「それではレミィと一緒に私も連れて行って下さいますわよね?」


「そ、それは……」


「ねぇレミィ? 貴女ならこの気持ち、わかりますわよね?」


「え!?あ……、はい……。ご、ごめんなさいユウノスケさん、私ではソフィー様を止められません」


「レミィ、謝らなくていいよ。俺ももう止められないよ……」




 そして斬波に続いて優之介も止めに入ったが、レミリアも巻き込んで撃沈してしまった。結局ソフィーリアのダンジョン潜入阻止は失敗し、野郎二人とレミリアに同行することになった


 この後一行は安心亭に戻り、葵達と合流した。葵達にガリアス工房での出来事を話すと、葵達もダンジョンに潜ると言い出したので明日は大所帯でダンジョンに挑むことになった。


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