第十話 ワームって聞くと芋虫を連想するよね? ドラゴンの品種にもワームってあるんだよ?


「「グロロロロロ……」」


「斬波さん、このドラゴン胴が長いです。普通のドラゴンと違うんですかね?」


「俺のファンタジー知識が正しければこいつは”ワーム”って品種だ。ただの大蛇に見えるが毒や炎のブレスを吐くから油断は出来ねぇ」




 優之介達の前に現れたドラゴンは体長約八メートルとただ大きいだけでなく、やけに胴が長いのが特徴的だった。その特徴を見て斬波はワームと判断したが、優之介は知らなかったようだ。


 優之介の影響で斬波はファンタジーについてとことん勉強した結果、その一環としてドラゴンの品種をある程度覚えたらしい。現代で覚えても役に立たないだろうに……。


 優之介と斬波は【鑑定】スキルで目の前のドラゴンを鑑定してみると次のような結果が出た。




【ワームドラゴン】


 イェクムオラムに存在する最強種ドラゴンに属する生物。通常のドラゴンと比べて胴が長いのが特徴。


 硬い鱗と猛毒の牙を持ち、炎のブレスを吐く為、正面からの戦いは危険。


 長い胴を活かした締め上げ攻撃には要注意。




「うわぁ……、噛まれたら一発アウトだ…………」


「硬い鱗も厄介そうだな」


「「ゴアアアアアアアアアア!!」」




 優之介と斬波がワームドラゴンの鑑定を終えたタイミングで、二頭のワームドラゴンが咆哮を上げながら野郎二人に向かって突進してきた。


 優之介は左に、斬波は右に飛んでそれぞれ一対一タイマンを張る形に持って行ったは良いが、相手はファンタジー生物最強格のドラゴンだ。野郎二人はドラゴンを相手にどう戦うか、戦いの火蓋は今切って落とされる。






――――――――――――――――――――






 一方その頃、レミリアとクラウディアは亡霊盗賊団の女頭領と対峙していた。人質から解放されたハイエルフとダークエルフも、亡霊盗賊団の手下が落とした剣を拾い上げて臨戦態勢に入る。




「お前達の男はかなり強いみたいだねぇ、ドラゴン相手に一対一サシでやりあってるよ。でも、顔が可愛いイケメン君の方は大丈夫かしらねぇ? レベルは大体三十後半と言ったところか、ドラゴン相手では不足じゃないかい? 手伝ってあげたらぁ?」


「いいえ、必要ありません! 私が行ったら返って邪魔になってしまいます……。ユウノスケさんはユウノスケさんで頑張っているんです! 私は私に出来る事をやる、ただそれだけです!!」


「レミリアの言う通りだ。さて、投降する気がないなら無理にでも大人しくなってもらうぞ!!」


「ふんっ! 私も舐められたものだねぇ……。いいわ、お前達の相手はこのジャネット様が直々に相手してあげるッ!!」




 自らをジャネットと名乗った女頭領はどこからか五本指の鉤爪を両手に展開して、レミリアを目掛けて斬りかかってきた。




「……くっ!?」「レミリア!」


「お? いい反応だねぇ♪ でも脇腹が空いてるよ!!」




―ドガッ!!―




「あぐぅっ!?」




 レミリアはジャネットの奇襲に反応し鉤爪をバックラーでガードするが、ジャネットに脇腹を強く蹴られ地面に転がされてしまった。【身体強化】で強化された足で蹴られたのか、強烈な痛みのせいでなかなか起き上がれないでいるようだ。


 その様子を見かねたクラウディアが今後はジャネットに斬りかかる。




「おのれッ!!」


「おっと♪」




―ギィィン!!―


―ガン! ガンッ! ヒュッ、ブン! ギャァァァン!!―




「やるねぇ♪」


「そっちもな!」




 クラウディアは物凄い速さで剣を振るが、ジャネットは余裕の表情でクラウディアの剣術を捌く。またジャネットもクラウディアを切り殺さんと、常人の目では負えないほどの速さで鉤爪を振った。


 二人の剣技と格闘技の実力はまさに拮抗していて、戦いが始まってから十分程経過してもお互いに決定打を与えられないままだった。そんなレベルの高い戦いにレミリアは入れず、輪の外からレイピアを構えて二人の様子を見ていることしかできないでいる。


 クラウディアは自分の剣技に難なく対応するジャネットを見て、頭の中に疑問が浮かび上がった。




(この私と同等に渡り合えるとは、こいつは何者なんだ?)


「ジャネットと言ったか、貴様、一体何者なんだ?」


「はっ、亡霊盗賊団ファントムって盗賊団のボスだよ」




 クラウディアの問いにジャネットは鼻で笑って答えたが、クラウディアは再度言葉を変えてジャネットを問い詰める。




「たかが盗賊が私と対等に戦えるわけないだろう、そこまでの技量は普通身につかない。貴様、元軍人か?」


「はぁ……。見る人が見ればわかるわよねぇ、当たりよ当たり、大当たり」




 クラウディアの質問にジャネットは脱力したような口調で肯定した。元軍人であることをクラウディアに見抜かれたジャネットは自身の身の上を少しだけ話した。




「元軍人って言っても仕事は偵察だったわねぇ。真面目に仕事してたけど上に捨てられちまったよ」


「それで食いつなぐために盗賊行為か?」


「半分正解、と言っておこうかね! 喰らえ【霧斬リ舞キリキリマイ】!!」


「―ッ!?」




 ジャネットはクラウディアの問いに「半分正解」と言った後、スキルを発動して会話を強引に中断させた。


 ジャネットが繰り出した【霧斬リ舞】は彼女が装備している鉤爪に魔力を乗せ、そのまま猛スピードで鉤爪を振り回すことで魔力を帯びた鎌鼬を発生させ敵を斬りつけるスキルだ。


 剣で攻撃しようと近づけば両手の鉤爪を駆使した手数の多い乱撃を見舞われ、距離を取ればスキルや魔法での乱撃に見舞われる。そんでもってジャネットは元軍人なだけあって非常に戦い慣れている。




「王国最強と言われるだけあるね、でも綺麗すぎるんだよぉ!!」




―ザンッ!―




「あぐっ……!?」




 ジャネットの【霧斬リ舞】に対し、クラウディアは高速の剣技で対抗するが捌ききれず、右肩にその凶刃を受けてしまう。更にジャネットは地面を蹴り上げ砂埃でクラウディアの目を潰すと、ガラ空きになったクラウディアの腹部に強烈な中段蹴りをお見舞いした。ジャネットの中段蹴りをまともに受けたクラウディアはそのまま後方に飛ばされてしまった。


 正統派騎士のクラウディアにとって、勝つ為の手段を選ばない彼女は厄介な相手だろう。しかし、クラウディアも近衛騎士団の副団長として譲れないものがある。クラウディアはゆっくりと立ち上がり剣を構え、魔力を溜め込む。




「まだまだこれからだ……」


「どこからでも掛ってきな……」




―ザザザッ!!―




「待ちなさい!!」




 クラウディアの行動にジャネットも鉤爪を構え魔力を溜め込むが、いきなり誰かが二人の間に割って入った。

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