第七話 近未来科学技術、光学迷彩を魔法で再現してみた


 翌朝、優之介、斬波、レミリア、クラウディアの四人は森林内を探索していた。




「…………」「…………」


「ちょっとクラウ様、お義兄さん、具合が悪いのですか?」


「「…………」」


「……もう!」


「まあまあレミリア、そっとしておいてあげてよ」




 しかし、斬波とクラウディアの機嫌があまりよろしくない。二人共一言も話さずにうつむきながらただ歩くばかりなのだ。昨日の出来事が原因なのだろうと思った優之介は、二人にハッパをかけるレミリアにそっとしておくよう声を掛ける。




「なぁ優之介、昨日言ってた”面白い魔法”ってのは何なんだ?」


「やっと口を開きましたね? ”面白い魔法”とは光学迷彩ですよ♪」


「あの消えるやつですか?」


「現代の科学力でもできねぇのにどうやんだよ……」




 昨日、優之介が言っていた”面白い魔法”とは光学迷彩の事らしい。レミリアの口ぶりから一度彼女の前では披露しているらしいが、光学迷彩は現代日本はおろか全世界の科学技術をもってしても近未来的であり、実用化できていない技術だ。


 そんな技術を聞いた斬波は顔を顰めて本当に出来るのか疑っている、クラウディアに至っては何がなんだが全くわかっていない。


 頭にはてなを浮かべる二人に優之介は自分で編み出した光学迷彩魔法を披露してみせた。




「【光学迷彩オプティカルカモフラージュ】」


「なっ!?き、消えた……!?」


「昨日も見ましたけど完全に消えてます! すごいです!!」


「なるほどな……」




 優之介の【光学迷彩】を見たレミリアとクラウディアはただただ驚くばかりだが、斬波は優之介がどのようにして光学迷彩を実現させているのか瞬時に理解したようだった。




「ほれ!」




―バサァッ!




「うぇっぷ!?何するんですか斬波さん!?」


「あ、土埃が人型になりました……」


「な、何が起きてるんだ……?」


「魔法のイメージとしては自分の身体を覆うように魔力を纏い、太陽光が自分に当たらないように屈折させてるんだな?」


「ペッ、ペッ……大正解…………」


「お義兄さん、どういう事ですか?」


「私にも教えてくれ!」


「先ずは目が見える原理を理解するところからだな」




 斬波はレミリアとクラウディアに目に見える景色がどのようにして映し出されているのかを教えてあげた上で、優之介の【光学迷彩】魔法の仕組みを改めて説明した。


 レミリアもクラウディアも「目に光が通る」と言う単語を聞いたとたん理解に苦しみ始めたので、斬波は地面に目の断面図を描くと二人共食い入るように斬波の絵を見つめていた。




「眼球とはこんな構造になっていたのか、知らなかった……」


「お義兄さんの知識量には驚かされるばかりです……」


「お前らが今普通に俺を見る事が出来るのは、俺から出ている光をその目が捉えているからなんだ。だが、それは俺が光を出しているわけじゃなくて、太陽の光が俺に当たり、その光が俺から反射していると言った方が正しい」


「「はぁ……」」


「それじゃあ斬波さんから原理を聞いたと思うのでレミリアもクラウさんもやってみましょう♪」




 斬波の講義が終わったらレミリアとクラウディアは、早速【光学迷彩】の習得をやってみる。魔力を覆うところまでは問題なくできるが、光の屈折のイメージが掴みにくいのかなかなか上手く出来ない。


 そこで斬波はまた地面に人間を避けて落ちる滝の絵を描きながら教えると、二人共あっさりできるようになってしまった。因みに斬波は優之介が【光学迷彩】を披露した段階で脳内に世界の声が響いて魔法が使えるようになっていた。




「わ! わ! すごいすごい!!クラウ様が消えました!!」


「レミリアの姿が全くないぞ! 気配は感じられるが、これは確かに凄い! 諜報活動に持って来いだ!!」


「それじゃあ全員【光学迷彩】が使えるようになったところで俺から作戦を提案します」




 優之介は自身が考えた作戦を三人に提案した。その内容は一人が囮、残り三人が光学迷彩状態で距離を開けて行動し、例のローブ仮面集団が囮を囲んだら光学迷彩組みが外からローブ仮面集団を襲うと言うものだ。優之介は自信満々に説明するが三人の反応は微妙なものだった。




「優之介、作戦は悪くねぇがローブ仮面共は囮に襲って来ないだろうよ」


「奴らは私達が四人で行動しているところを襲撃して来たのだ。四人の内一人だけが行動していたら向こうは不自然に思うだろう」


「私もそう思います……」


「えぇ~……」


「だが他に良い案がないからとりあえず優之介の作戦でやってみても良いか、囮役……ってか誰か一人に斥候をしてもらう事になるがな……」


「なるほど、それならば斥候は私がやろう。そしてそのまま号令役も任せてもらおうか」


「俺に異論はない。発案の優之介は当然としてレミィはどうだ?」


「私も大丈夫です!」


「うしっ、そんじゃあ決まりだな」




 優之介の作戦のままでは敵にバレるだろうと思った斬波の提案で、囮役はただ囮をやるだけでなく斥候として行動する事になった。


 斥候にはクラウディアが立候補し、優之介、斬波、レミリアはクラウディアの指示で動く打ち合わせも完了し、いざ作戦開始の運びとなった。






――――――――――――――――――――






 作戦が始まってから約一時間半が経過した頃、クラウディアと不可視状態の優之介、斬波、レミリアの四人はローブ仮面集団のアジトを見つけることに成功した。




(ほう……遺跡をアジトにしているようだな)




 ローブ仮面集団は遺跡を根城にしているらしく、入口付近では焚き火がされており、見張り役と思わしき数人が屯している。クラウディアは木陰に隠れて遺跡の様子を伺った。




「はっはっは! 盗賊稼業は楽でいいぜぇ♪」


「全くだ! 俺ら”亡霊盗賊団ファンタズマ”に敵はねぇぜ」


「だが略奪班がやらかしたらしいぜ? お相手は王国の近衛騎士の副団長だとよ」


「ほう、王国最強の一角となりゃ納得だが二十人掛りでも仕留めらんねぇのかよ?」


「いや、他にも冒険者が三人いてどいつも強かったらしいぜ?」


「どっちにしろやらかしたことには変わりねぇ、ここがバレたら略奪班には落とし前つけてもらわねぇとな」




 自らを亡霊盗賊団ファンタズマと名乗ったローブ仮面集団は昨日の出来事を話しているようだった。クラウディアは身を完全に潜めてから更に観察を続けると、遺跡の奥から新たに人が出てきた。




「お前たち、見張りはちゃんとしているのか?」


「お頭、もちろんですぜ!!」




 遺跡の奥から現れたのは女性だが、鋭い目つきをしたいかにもワルそうな雰囲気が漂っている。見張り役が「お頭」と呼んでるあたり、この女性が頭領なのだろうクラウディアが思ったその時だった。




「だったらなんですぐそこに客人がいるのに知らせに来ないんだこのグズ!」


「ひっ!?す、すすすいやせん!!」


(なっ……!?)


「出てきなよ、そこにいるんだろ? 王国近衛騎士団の副団長サマよぉ?」


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