第五話 長老にご挨拶は基本だよね


「そこの人族の方達大丈夫ですか?」


「私達は大丈夫だ、援軍感謝する」




 優之介達の前に現れたエルフ達の中から一人のエルフ男性が声を掛けてきたので、クラウディアが対応した。優之介、レミリア、斬波の三人は優之介の怪我の具合を診ていた。


 クラウディアとエルフ男性が何やら話し込んだ後、クラウディアが優之介達にこれからどうするかを教えてくれた。




「ユウノスケ、怪我の具合はどうだ?」


「傷は深くないので塗り薬を塗って包帯を巻けば大丈夫そうです」


「その程度ならポーションや回復魔法で元通りになるからそんな面倒な事はするな」


「そ、そうですか……」


「…………」


「ん? どうしたシバ、何かあったか?」


「いや、何でもない。それよか俺らはどうすんだ?」


「あぁ、それなんだが私達はこれからこちらのエルフ達と一緒にこのままエルフの里に向かうぞ。里についたらユウノスケの治療をしてくれるそうだ」




 クラウディアがそう言うと、先程のエルフ男性が前に出てきて自己紹介をした。




「私の名前はカインと申します、シバさんとレミリアさん、そちらで怪我をされているのがユウノスケさんですね、今から里に案内しますので付いてきてください」


「斬波だ、世話になる」「お世話になります」「よ、よろしくお願いします」




 一行はカインの案内でエルフの里に向かう事となった。






――――――――――――――――――――






 道中、謎のローブ仮面集団の襲撃にあったものの、何とかエルフの里に到着できた一行はまず負傷した優之介の治療を済ませる事に。


 治療と言ってもポーションを飲んだだけだが、ポーションを飲んだだけで切り傷が何もなかったかのように元通りに治ってしまった事実に優之介と斬波は興奮を隠せない様子だ。




「すげえ! 液体を飲んだだけで治った!!」


「俺らの医学の常識が通用しない現象を目の当たりにするとは……やはりファンタジーだな!!」


「君達が元居た世界ではポーションもないのか?」


「あるわけ無いだろ……その代わり外科手術の技術や病気の治療薬はすげぇぞ?」


「げかしゅじゅつ? とはなんだ?」


「患者の体を開いて悪い部分を切り取ったり、切れてる部分を繋げ直したり、深い傷口を縫合したりするんだ。こっち風で言えば魔物を解体する際に身につく知識を治療に活用すると言ったところか」


「何となく想像できた、私も魔物の討伐で内蔵やらなんやら見ているがこの手の話は苦手なんだ、これ以上はやめてくれ……」


「そっか、俺はモンスターの体内がどんな構造か気になるけどなぁ」


「そう言えば斬波さん、ゴブリンの解剖してたもんね……」


「……シバぁ君は正気か? まぁともかく、治療が済んだら長老に挨拶に行くぞ! そんな話はやめだやめ!!」




 クラウディアは内蔵を観察するだとかその手の類の話は苦手らしい、優之介の治療を終えるとさっさとその場を離れてしまった。因みにレミリアは今回の依頼ついでにエルフ達に提供する積荷の受け渡しをしている為この場にはいない。思い出して見ればゴブリンを解体した後直ぐにレミリアとの出会いがあったんだよな……、こんな話をレミリアが聞いたら彼女がどんな反応をするか大体予想はつく。レミリアがこの場にいなくて本当に良かったと思った優之介であった。


 後に優之介と斬波はレミリア、クラウディアと合流した後、カインの案内で長老の家にお邪魔させてもらい、話を聞いた。




「王都から遠路はるばるご苦労様です、儂が長老のアインです、そちらのカインの父でもあります。此度は物資の支給誠に感謝申し上げます」


「いえ、我々の方こそ救援感謝申し上げます。カイン殿達が援軍に来てくれなかったら今頃どうなっていたか」


「はっはっは、三倍差以上の人数を相手に無傷で立ち回れる方の言う台詞ではありませんな。いやしかし、奴らには困っていまして……」


「我々を襲ってきたローブ仮面の集団でしょうか?」


「はい、奴らが現れたのは一月程前でしょうか……」




 アイン曰くローブ仮面集団と最初に遭遇したのは一ヶ月前の事で、普段から森を巡回している警ら担当のエルフが最初に目撃したとの事。


 ローブ仮面の集団はエルフを目撃した瞬間、攻撃を仕掛けそのせいでエルフ達は怪我を負わされたらしい。森の中ではエルフが有利なので何とか無事に逃げ伸び、幸い死者は出ていないそうだ。




「奴らは我々エルフをだけでなく、里を行き来する人族の商人を襲っては殺し、物資を強奪しています。つい先日も冒険者の死体が発見されました、このままでは被害が拡大する一方です」


「ご心配なさらないでください、その為に我々が来たのです。先ずは現状を把握して、それから奴らを捕縛しようと考えています」


「殺すのはダメなのか?」


「ダメではないができれば生かして捕らえたい」


「何でそんな事を聞くんですか?」




 優之介は斬波の質問が気になったので斬波に質問の意図を聞いてみる。斬波は諭すように優之介の質問に答えた。




「優之介、お前は襲撃された時、敵を攻撃する事をためらっただろう? それは何故か、剣と言う人を殺すための武器を手にして敵と相対したはいいが、その時に初めて”人を殺す覚悟”を試されたからだ。違うか?」


「うぐっ……!?」


「うん? どういう事だ? 剣を握った時点でそんなものはとっくに心得ているだろう?」


「ふぇ? 罪もない人を殺めてしまったら罪になりますけど、襲われたら反撃しないとこちらが殺されてしまいますよ?」




 レミリアとクラウディアの言葉が優之介の胸に刺さる。殺られる前に殺らねば殺られる事は頭の中では理解しているが、現代日本人としての本能がそれをよしとしないのだ。優之介の様子を不思議そうにレミリアとクラウディアが見つめる中、斬波が彼女達に日本の平和こちらの事情を説明した。




「クラウ、レミィ、俺らが居た国、日本は平和で争いの無い国なんだ。どのくらい平和かと言うと、剣や弓と言った殺傷能力のある武器を戦闘用に取り扱ってる店は存在せず、そして刃渡り5.5cm以上の剣の所持を禁止する法律もある程だ」


「んなっ!?それではどうやって我が身を守るのだ?」


「武器の所持が禁止されているのなら襲われる心配もないのでは……」


「ふぅむ、強いて言えば自分の拳と格闘技くらい、後は非殺傷能力の護身用の道具くらいだ。まぁそのへんはまた別の機会があれば話してやんよ。それより話を戻そうか、ローブ仮面集団はなるべく生かして捕らえるんだったな? 長老さんはそれで良いか?」


「私共としてはこれ以上里の者に被害が及ばなければ捕縛でも討伐でも構いません」


「では早速準備に取り掛かりましょう」


「お待ちくだされ、お疲れでしょうから今日はお休みになられては? 寝床はこの家の客間をお使いください」


「よろしいのですか?」


「この家には私と妻しかおらず、部屋も無駄にあるので構いませんよ」


「ではお言葉に甘えさせていただきます」




 こうして優之介、斬波、レミリア、クラウディアの一行はアインの家にお世話になる事が決定した。今日はもう遅いので、依頼は次の日に遂行することにして一行は早速その準備と作戦会議に臨むのであった。


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