第七話 その女性、ギルドマスターにつき


 王城で一泊した優之介、斬波、レミリアの三人はウラドからの依頼達成の報告をしに冒険者ギルド王都本部に来ていた。ティユールで受けた依頼だが、ギルドで発行された依頼書を提出すれば別のギルドでも依頼完了手続きを済ませることができる、長距離の片道護衛依頼等を受けた時などは嬉しいシステムだ。




「あの~マリィさん?」


「……」


「おい、ウラドの指名依頼完了の報告をしにきたぞ」


「…………」


「ユウノスケさん、お義兄さん、どうしてこちらの方は不機嫌なのでしょう?」


「「さぁ……?」」




―ギロッ!




「「うぉっ!?」」「ひっ……!?」




 優之介と斬波はこのギルド内で唯一の顔見知りの受付嬢であるマリィに手続きを頼もうとするが、何故かマリィの機嫌が悪い。




「はぁ……まさか貴方達が大物だとは思わなかったわ…………」


「俺達大物なんですか?」


「冒険者に登録して二日目でCランクになる人が大物じゃないわけないでしょう! 先ず貴方達は私に謝りなさい!!」


「「何で? 悪いことしてないじゃん」」


「私ねぇ、ギルマスにめっちゃ怒られたのよぉ! 『何で王都に留ませらなかった! 王都の依頼を受けさせずに旅に出した!』って!!」


「あれ? 冒険者ギルドに登録して直ぐに依頼を受けなきゃいけない義務なんてありましたっけ?」


「ないわよぉ! だから私は貴方達が旅に出る事を止めなかったの! でも怒られたの! 理不尽!!」


「その理不尽に巻き込まないでください……」


「優之介の言う通りだ、俺らとばっちりじゃねぇか」


「私が受けた理不尽を味わいなさい!!」


「「そっちの方が理不尽だ!!」」




 野郎二人とマリィがやいのやいのと言い合ってる様子は普段から人で賑わっているギルド内でもある程度目立っていたため、次第に冒険者とギルド職員達の視線が彼らに集中していった。


 周囲の視線に気づいたレミリアは言い合いを諌めようとするが、三人の勢いは止まらない。どうしたものかとおろおろしていると、受付カウンターの奥から一人の女性がゆったりとこちらに歩いて来てマリィの肩をポンと叩くと、マリィは顔を青ざめ硬直し、野郎二人はピタッと動きを止め不思議そうな表情で女性の顔を見つめていた。




「貴方達が噂の大物ルーキーね?」


「俺達大物なんですか?」


(ユウノスケさん話が戻ってます……)


「自覚がないのならそれはそれで結構よ、私は冒険者ギルド王都本部のギルドマスターで名前はララノア・エル・ユグドラシルと言うわ。気軽にララノアって呼んでね♪ ユウノスケ君、シバ君、レミリアさん。これからよろしくね♪」


「「「よ、よろしくお願いします……」」」




 ふらっと現れた女性はララノアと名乗ったが、彼女はなんとギルドマスターだったのだ。


 突然のギルマス登場で状況が飲み込めない優之介、斬波、レミリアの三人だったが、固まってるマリィに変わってララノアが話してくれた。




「ウラドさんの依頼達成手続きはマリィにさっさとやってもらうから、貴方達三人は私の部屋に来て頂戴、話があるの」


「うーん、昨日春香さんからマリィさんが悔しがってたって話は聞いてたけど、話が見えてこないや……」


「ふふふっ♪ それはね、強くて優秀な冒険者さんの担当になる事が受付嬢の出世コースと花嫁コースの第一歩だからよ♪」




 ララノア曰く、実際にギルドの受付嬢が冒険者達をそれぞれ担当するわけではないが、人と人との付き合い上、冒険者はある程度顔見知りの受付嬢に手続きを依頼しているうちに親しくなる傾向があって、中にはそのまま受付嬢と冒険者が結婚したケースもあるらしい。


 そのような傾向がある中でもしも相手が高ランク冒険者だった場合、並みの冒険者より強くて稼ぎがいい高ランク冒険者は、受付嬢にとって格好の結婚相手なのは勿論、普通に仕事のやり取りをしているだけでも高ランク冒険者とのパイプがあり、ランクの高い依頼を片付けられる敏腕受付嬢と見られ、どんどんキャリアアップしていくのが冒険者ギルド受付嬢の出世コースらしい。


 マリィの悔しがっている主な理由は、優之介と斬波をただのルーキーと思って自由に旅をさせてしまった結果、短期間で大幅にランクが上昇するほどの実力者を手放してしまった事にあるらしい。




「そう言われてみれば、俺と優之介も他の窓口が空いてるのにマリィに頼んでるもんな」


「貴方達の相手をしてるマリィは他の受付嬢から羨ましがられてるのよ♪ あ、因みに貴方達がマリィ以外の受付嬢に依頼受注、達成手続きを頼もうとするとマリィから嫉妬されるようになるし、他の受付嬢が貴方達を獲得しようと躍起になるわ♪」


「「へぇ~……」」


「ユウノスケさん?」―ゴゴゴ……


「え、いや! 俺は何も考えていないからね!?初めて聞いたから感心してるだけだからね!?」


「あらら~ユウノスケ君にはもう決まった相手がいるのね♪」




 ララノアがそう言うと周囲の受付嬢達から舌打ちや「狙ってたのに……」「一夫多妻制度だからまだ望みはある……」等、あからさまに優之介をターゲットにしている発言が聞こえてくる。


 それらの言葉を聞いた優之介は背中にびっちり冷や汗をかき、斬波はケタケタ笑って優之介をからかっていた。




「優之介はモテモテだなぁ~♪」


「ちょっとお義兄さん、ユウノスケさんをからかうのはやめてください!」


「ユウノスケ君は格好良くも可愛い顔立ちだからモテちゃうのも仕方ないわねぇ~♪」


「恥ずかしいのでそう言う話はやめてください……。それに、何か話があるんでしたよね?」


「あら、そうだったわ。それじゃあ早速私の話を聞いて貰いましょうか♪ ついてきて頂戴」




 ララノアは話をすべく優之介達三人を自分の執務室へと案内する。三人に対する彼女の要件とは一体何なのか、ひとまず優之介、斬波、レミリアは彼女についていくことにした。

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