閑話 斬波とクラウディアの語らい
「…………」(芸術的に綺麗な月だな、あの、天体名が月とは限らんが……)
冒険者としての仕事を終えた優之介、斬波、レミリアの三人はアースカイ王国第一王女のソフィーリアから食客として王城に招かれ、夕食をご馳走になった。
食後のティータイム、優之介とレミリアだけでなくソフィーリア、王女専属メイドのタマキ、近衛騎士団副団長のクラウディア、一緒にイェクムオラムに転移した日本人達が一室に集まり話に花を咲かせている中、斬波だけが部屋のベランダから城下町を眺めたり夜空を見上げたりしていた。
「なんだ、一人でこんなところにいたのか?」
ぼーっと城下町を眺める斬波に後ろから近づき、声を掛ける人がいた。斬波が振り向くとそこにはクラウディアが紅茶を持って立っていた。
「クラウか……」
「何か考え事か?」
「まぁな、そっちは?」
「君と話がしたい、いいかな?」
「あぁ、構わないぞ」
斬波はクラウディアの誘いに乗り、彼女の話に付き合うことにした。
「まずはそのぉ……すまなかった、あの時本当はソフィーとタマキと一緒に見送りに行きたかったのだが…………」
「そんなこと気にしてねぇよ、タマキから理由もしっかり聞いたしなぁ」
「うっ……」
「恥ずかしがる必要はない、お陰でクールで完璧な超絶美女の可愛い一面を知ることができた♪」
「朝に弱い事が可愛いのか?」
「少なくとも俺はそう思う、どう思うかは人それぞれだ」
「そうか……/// それよりそっちの調子はどうだ? 冒険者登録をして間もないにも関わらず、オーガを討伐してCランクに上がったらしいが……」
「王城にも話が行ってたのか、まぁ魔法でちょちょいとな」
「後学の為にどのような魔法を使用したのか聞いても良いか?」
「俺が使ったのはなぁ……」
斬波は自力で編み出した魔法【死神が振舞う最後の晩餐】(Cmp from Mr, Death)についてクラウディアに丁寧に教えてあげた。最初は興味深そうに聞いていたクラウディアだったが【死神が振舞う最後の晩餐】がいかに危険な魔法か理解すると、顔を青ざめて斬波に「その魔法の使用は控えてくれ」と頼み込んできた。
「まぁ、あまり使わないようには心がけているさ。ジュノンにも釘を刺されてるし」
「じゅ、ジュノン様!?ま、まままさか神にあったのか!?」
「クラウは神を信じるのか?」
「信じるも何も神の存在は確実だ、それにこの世界のありとあらゆる種族は九神の名を子供や生物に名付けることは固く禁じられている。シバは本当に神と……?」
斬波は王城から旅立ってから今日に至るまでの思い出を大まかに話した。
旅の途中でジュノン神から【死神が振舞う最後の晩餐】の使用は極力控えること、街の教会で祈りを捧げたら九神に出会って加護と依頼をもらったこと、冒険者としての毎日や道具作りの思い出等、いろんな事をクラウディアに話した。
「流石は異世界の勇者様だな、この世界で神の言葉を聞けるのは聖女だけだと言うのに……」
「それは神様達から聞いたよ。そんで、そっちはどうなんだ?」
「君達が旅立った後の王城は少し騒がしかったな……」
斬波の話を聞いて上機嫌のクラウディアは、お返しと言わんばかりに野郎二人が旅立った後の王城の様子を話した。
優之介と斬波が旅立った事でソフィーリアが一週間程元気を失くして国王と王妃を困らせたこと、毎日の鍛錬で勇者達、もとい残った日本人達がめきめきと力をつけている、特に葵は剣術と魔法共にその伸びが著しいこと、最近では冒険者登録をしてお金稼ぎと戦闘と今世界の文化に慣れる訓練をしているらしい。
「陛下もアオイの事はとても気に入ってるご様子で、国民に勇者としてお披露目しようかと思っていらっしゃるようだ。まぁ、当のアオイは嫌がっているがな」
「まぁ、日本人は極端に目立つのは好きじゃないから、できる限りそっとしといてやったほうがいい。それに、真面目に勇者をやっていれば自然と名は届く」
「そうだな……。あ、そう言えばソヘル商会のご令嬢とはどのように出会って、今のような関係になったのだ? 彼女曰く、彼女自身と彼女の親までもがユウノスケとの結婚を望んでいるらしいが……」
「あぁ、それはだな……」
斬波はレミリアとの出会いをクラウディアに教えてあげた。クラウディアは「なるほど……」と納得しつつも難しい表情をした。
「ホブゴブリンウォリアーによってキズモノにされる寸前に助けられたらそれは惚れてしまうのも無理はないな……」
「それよかソフィーの方はどうなんだ? 身分が身分だから愛し合っているからはい結婚とはいかないだろ?」
「それはそうだ。それにソフィーは陛下と王妃の大切な一人娘、陛下は外に出したくないお考えだ。仮にユウノスケとソフィーが結ばれたとしてもユウノスケは王城での生活と政治の勉学を強いられるだろうな……」
「まぁ、こればっかりは今現在出来ることは様子見としか言えないな」
「同感だ……。でも、ソフィーに初めて好きな殿方ができて私は安心してるよ。ところでシバ、ユウノスケはソフィーとレミリア嬢に想われているようだが、君にはいないのか?」
「……いねぇよ。そう言うクラウはどうなんだよ?」
「私か? 公爵家長女であり、名誉子爵でもある私にはそう言った話は無いな。両親には自分で決めると言ってあるからあまりうるさく言われないで済んでいる」
「ふぅん、孫の顔が早く見たいくらいは言われんのね……」
「それだけならまだいい、二十歳になっても結婚してない事を言われると気分が悪くなる……」
「…………」
クラウディアは斬波に自分は二十歳ですと遠まわしに言って見たが斬波の反応が薄い。そこで彼女はもう少し踏み込んでみることにしてみた。
「シバは二十歳になっても結婚していない女性をどう思う?」
「どうも思わない、俺も二十三だが今までの人生で恋人なんてできたことはないし、俺らがいた世界じゃ二十歳で結婚は早い方だ」
斬波の結婚年齢に対する考えを聞いて少し安心したクラウディアはわざとらしく、自分の好みの男性のタイプを斬波に打ち明けた。
「その言葉を聞いて安心した、私はまだ行き遅れていないようだな。あ~ぁ、どこかに私より強くて知識が豊富な男はいないかなぁ~……」
「クラウは美人なんだから直ぐに見つかるだろ」
しかし、斬波にあっさりスルーされた。無念。
「この鈍感……」
「何か言ったか?」
「いいや何も。よりより二つ程聞いていいか?」
「何だ?」
「美しくなる方法と胸を大きくする方法があれば教えて欲しい」
「男の俺に聞くなと言いたいが、それはまた急だな」
「私の部下達がしつこいのだ、『副団長みたいに綺麗になりたい、胸が大きくなりたい』とな。だが私はあいにくそんな知識は持ってないから遺伝だと言ってごまかしてるのだが、残念そうにしている彼女達の顔を見るのは忍びなくてな……」
「はぁ……じゃあ今度その部下に教えてやれ。綺麗になりたければ恋をしろ、胸を大きくしたいなら好きな異性に胸を揉んでもらえってな」
「恋をするだけで綺麗になるのか?」
「早い話女性が恋をすると、ホルモンと呼ばれる生理活性物質が分泌されるんだ。その中でも女性ホルモンが分泌されると女性らしい体つきになったり、肌や髪に潤いが出てきたりする。意中の男性に胸を揉まれるなんてのもこれの延長上でな、とにかく恋をすれば女性は綺麗になるぞ」
「ホルモン? また聞いたことない単語だな。全くその知識量には恐れ入るよ」
斬波から綺麗になる方法と胸を大きくする方法を教えてもらったクラウディアは、その方法よりも斬波が知識として持っていることに驚いた。
クラウディアは少し小さな声で斬波にお礼を言うと紅茶を飲んで微笑んだ。
(そっか、私はまだ綺麗になれるんだな……///)
「クラウ~、私はもう寝ます。貴女はどうするのかしら?」
キリの良いタイミングでソフィーリアから声が掛けられた。クラウディアは斬波との話はここで切り上げて自分の寝室で休むことにした。
「皆自室で休むようだ、私もこの辺で失礼させてもらおうかな。シバ、今日はありがとう、君と話せて楽しかったよ」
「そうか、俺も楽しかったよ。お休みクラウ」
「あぁ、お休み。シバ……」
斬波は退室するクラウディアをその場から見送る。自分の方を向いていたクラウディアが扉の方に振り向くその一瞬、身体は半分扉の方を向いているが名残惜しそうに自分を流し目で見つめるクラウディアの瞳に斬波は吸い込まれ、二秒程時間が止まっているような感覚に浸っていた。
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