第六話 女の戦いに身分なんて関係ないッ!!
「え、ちょっ!? レミリア待って……!!」
優之介の唇を奪わんとレミリアが自ら唇を近づける、レミリアの妖艶な瞳に吸い込まれた優之介は身動きが取れない。
ふとしたタイミングで彼女がとった大胆な行動の前に、この場にいる誰もが動くどころか声を出せずにいる中、たった一人の少女だけが想いを寄せる相手の唇を守らんと動き出した。
「だっ、だめえええええーーーーー!!」
「ぐあっ!?」
「あっ……」
ソフィーリアは優之介を突き飛ばし、そのままの勢いで彼を押し倒してしまった。優之介とソフィーリアの顔と顔の距離は僅か数センチ、今度はソフィーリアが優之介の唇を奪うチャンスだ。
「ユウノスケ様、このまま受け取ってください……///」
「そ、ソフィーさん!?」
「―っ、させません!!」
しかし、レミリアも負けじと優之介の腕を引っ張り抱き寄せると、再び優之介の唇を奪わんと迫ったが……。
「ユウノスケ様は渡しませんわっ!!」
ソフィーリアが優之介の右腕を強引に引っ張って、優之介とレミリアがキスするのを妨害する。妨害されたレミリアも「それはこちらのセリフです!!」と声を上げ、優之介の左腕を引っ張る。
今ここに王女と商会令嬢による綱引きならぬ優之介引きの構図が出来上がってしまった。渦中の優之介は「いででで……」と苦しそうに声を出すことしかできない。
「で、殿下! お戯れが過ぎます!!」
「そうだぞソフィー! ソフィーはこの国の王女であり姫なのだぞ、ちゃんと自覚するんだ!!」
「レミリアもそこまでだ、これ以上の好意の押し売りは恐怖になるだけだぞ」
暴走するソフィーリアとレミリアを優之介から全力で剥がし、タマキとクラウディアがソフィーリアを、斬波がレミリアを羽交い締めにして拘束するが問題児二人の暴走は収まらない。
さらに、レミリアが斬波に向かって「離してくださいお義兄さん!!」と言った事で「シバ様! お義兄さんとはどういう事ですの!?」ソフィーリアに火がついて収集がつかなくなってしまった。
「優之介君大丈夫!?肩痛くしてない?」
「「――!?」」
「だ、大丈夫です……」
「さっき突き飛ばされた時に頭を打っていないですか?」
「頭は打ってないみたいです」
「「――………」」
「うちは強引に首を回されたところが心配だねぇ~、首大丈夫?」
「首も異常はないみたいです」
「「…………」」
葵と優里音と春香がそれぞれ開放された優之介の安否確認をしている声が聞こえてくるに連れて、ソフィーリアとレミリアの動きが大人しくなっていった。
自分達の気持ちを押し付けるばかりで優之介を振り回していた事を悟った二人は、優之介に対し申し訳なさそうに謝罪する。
「ユウノスケさん、その……ごめんなさい! 私……」
「ユウノスケ様ぁっ! 私からも謝罪しますわ、だから私の事を嫌いにならないでくださいまし!!」
「わかった! わかったから二人共そんな泣きそうな顔で見つめてこないでよ」
「「ユウノスケ様さん……!!」」
上目遣いであざとく許しを請われたら許さざるを得ない、むしろご馳走様ですと思っている優之介はソフィーリアとレミリアに自分は気にしてない事を伝えると、二人は許してもらえたことが嬉しかったのか優之介に向かって二人同時に抱きつき、優之介はまた押し倒されてしまった。
「あはは……やっぱりこうなるのか…………」(二人共凄いいい香りがする……!?)
「モテモテねぇ~♪」
「ソフィーちゃんとレミリアちゃんが羨ましい……」
「『好き』と言う気持ちを素直に伝えられるのは素敵なことですね♪」
「私達もあれくらいになれると良いですね佐々木さん♥」
「!?!?」
「自由な恋愛、憧れちゃうなぁ~、職業の都合上できないから余計に……」
ソフィーリアとレミリアのやりとりの一部始終を眺めていた日本人達はそれぞれ思ったことを口にしてる中、理音は葵にそっと囁いた。
「ねぇ葵、葵もあれくらい素直になれればいいね♪」
「な、何言ってるのよ!?」
「……?」
「殿下、この部屋周辺に人はいませんが退室後は王族としての振る舞いをお忘れなきよう」
「タマキの言う通りだぞ、と言いたいがまぁ今回くらいは大目に見ようじゃないか」
王女と商会令嬢による優之介の取り合いはひとまず引き分けという形で落ち着いた。斬波は(この国一夫多妻制なら取り合う必要ねぇだろ)と思ったが女には女の理由があるのだろうと思ったのであえて口にはしなかった。
その後、ソフィーリアとクラウディアの計らいにより正式に食客として招かれた優之介と斬波とレミリアの三人は王城で一泊する事になり、夕食は日本人組、ソフィーリア、クラウディア、レミリアのメンバーで食べた。王女専属とは言えメイドであるタマキは給仕の仕事をしていた。
――――――――――――――――――――
夕食後、一同は同じ部屋に集まって食後の紅茶を楽しんでいた。ここでもやっぱり優之介は両手に花状態で周りからはやし立てられたりと落ち着かない様子だった。
一方斬波は一人ベランダで夜風に当たっていた。
「…………」(この依頼が終わったら次はどこに行こうか……)
「なんだ、一人でこんなところにいたのか?」
ぼーっと城下町を眺める斬波に後ろから近づき、声を掛ける人がいた。斬波が振り向くとそこにはクラウディアが紅茶を持って立っていた。
「クラウか……」
「何か考え事か?」
「まぁな、そっちは?」
「君と話がしたい、いいかな?」
「あぁ、構わないぞ」
――――――――――――――――――――
「……葵?」
輪を作って談笑している中、葵だけがぼーっとした表情で一点を見つめていることに気がついた理音は彼女に声を掛けてみた。
「えっ、どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ、ぼけーっとしちゃってさ」
「ううん、何でもない」
葵は何事もないと言うが、あからさまに様子が変だったので理音は葵が見ていた方向を一度見てみるとそこにはベランダで二人楽しそうに話をしている斬波とクラウディアの姿があった。
それを見た理音は葵がの様子がおかしかった理由を何となく察した。
「葵、ここで挑まなかったら一生後悔するよ」
「何の事よ……」
「それは自分が一番よく知ってるでしょ、今日は私が上手くやっとくから葵はやる事わかってるよね?」
「…………」
「ふぁ~私もう眠くなっちゃった、ソフィーも佐々木さん達ももう眠いでしょ? 今日はお開きにして早く寝ましょ~~」
理音は吹っ切れたように上手いことを言っては夜のお茶会を解散させ、他の面々を部屋から半ば強引に退室させた。斬波も連なって部屋を出ようとしたが理音がそれを全力で止め、この部屋に残るように指示した。
「君はまだ紅茶を一杯も飲んでないでしょ! 二杯以上飲むまで部屋から出ちゃダメだからね!!」
「そんなルール知らん」
「知らなくて当然、今あたしが設けたんだから。タマキさんの紅茶は美味しいんだから飲まなきゃ損損♪ それじゃ、お休み~♪♪」
「理音……」
「葵、ガ・ン・バ♪」
こうして部屋には斬波と葵、そして食器を片付けているタマキの三人が残った。
夜はまだ更けっていないが誰の話し声が聞こえるわけでもなく、ただカチャカチャと食器がぶつかる音だけが響くこの部屋の空気はまるで深夜二時頃の様な静けさで包まれていた。
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