第五話 痴話喧嘩から修羅場へ……


「ユウノスケ……様?」


「あ……」




 日本から一緒にイェクムオラムに転移したメンバー+レミリアでやいのやいの話している最中、葵が大声を出したので部屋の外側で偶然にもそれを聞いたソフィーリアは何事かと部屋に入ってきた。


 ソフィーリアが部屋に入った瞬間、彼女は優之介と目が合って固まってしまった。二週間程前に別れを惜しみながらも旅立つ優之介の背中を見送ったのはまだ記憶に新しい、その優之介が今目の前にいる。この事実を把握した瞬間、ソフィーリアは目尻に涙を浮かべて優之介に駆け寄り、抱きついた。




「ユウノスケ様! 私の為に帰って来てくださったのですね!?この二週間、私は貴方がいなくて寂しかったです。もうどこにも行かないでください!!」


「ちょ、ソフィーさん!?お気持ちは嬉しいのですが私もここには仕事で来ていますから……」




 皆が見てる前でソフィーリアに抱きつかれて恥ずかしい思いをしている優之介は、とりあえず一旦離れてもらうようにソフィーリアに言うが彼女は聞く耳を持たず、優之介から一切離れようとしない。仕方がないので両方を優しく掴んで引き剥がそうとするがソフィーリアは「嫌!!」と言って離れない。




「殿下、その言葉を聞いた私はちょっと傷つきます」


「そうだぞソフィー、私とタマキがいながら寂しかったはないだろう……」




 王女としての振る舞いを忘れているソフィーリアに呆れながらタマキとクラウディアも入室してきた。タマキとクラウディアは優之介に抱きついてるソフィーリアはスルーして優之介と斬波に声を掛ける。




「ユウノスケ様、シバ様、お久しぶりでございます。二週間程ぶりですがお二人共体つきが良くなりましたね、レベルも上がったことでしょう」


「久しぶりだな二人共、元気そうで何よりだ♪」


「お久しぶりです、タマキさん、クラウディアさん、そちらもお元気そうで」


「久しぶり、と言ってもまだ仕事中だから直ぐに行かなきゃならないんだがな」


「そう寂しい事を言ってくれるなシバ殿、また君の話を聞かせてほしい♪」


「”殿”はいらねぇよ、普通に斬波でいい」


「ならばシバ、私の事もクラウと呼んでくれ♥」


「…………叶君、クラウと仲良さそうじゃない」


(((葵から殺気が漏れてる……!?)))




 仲良さそうに会話しているクラウディアと斬波以外のこの場にいる全員がふと突然悪寒を感じた。悪寒を感じた方向に顔を向けると、斬波とクラウディアが会話している様子を間近で見ている葵から、僅かな黒いオーラが発せられているではないか。




(おや、アオイ様が冷ややかな視線でシバ様を睨みつけていますね)




 それに気づいたタマキは場の空気を重くしないようにふいっと話題を振って葵の気をそらした。




「殿下、ユウノスケ様成分は十分に補給できたでしょうからそろそろ離してあげてはいかがですか? ユウノスケ様とお連れ様も困っているようですし」


「お連れ様?」


「ソヘル商会ご令嬢のレミリア・ソヘル様でいらっしゃいますね? 私は王女殿下専属メイドのタマキと申します、本日はとても素晴らしい品物をありがとうございます。他のメイド達が『水汲みが楽なって助かった』と感謝しておりました」


「あっ、いえいえ……。発明したのはユウノスケさんとシバさんですから私達は何もしていませんよ」




 レミリアが発明したのは優之介と斬波だと説明すると、ソフィーリアとクラウディアは「ほほう」と感心し、タマキは「あぁ、それで本日はこちらにいらした……と言うより帰ってきたのですね」と納得していた。




「はい、最初はユウノスケさんとシバさんの事はお伺いしています。二週間くらいご一緒してますけど、二人共強くて優しくて頼もしいです♪」


「レミリアよしてくれよ、照れるじゃないか……///」


「何を言ってるんですか、初めて会った時もそうでしたけど今でもとっても頼もしいではありませんか♥」




 今度はレミリアが優之介の左腕に優しく抱きついた、優之介の左腕は彼女の胸の中にすっぽり埋まってしまった。


 優之介は「よしてくれよ」と言うが嫌がる素振りは見せず、レミリアのなすがままになっている。その様子を見てニヤニヤが止まらない日本人達、理音と優里音から「ひゅ~ひゅ~♪」とはやし立てられる始末。


 優之介とレミリアのやり取りを見てソフィーリアに衝撃が走った、一目惚れとは言え意中の男性が目の前で他の女性と仲睦まじくしている様子を見て機嫌が悪くならない筈がない。




「ゆ、ユウノスケ様……、そちらの女性とはどのような関係ですの?」




 わなわなと震え、怒りを表すソフィーリアに優之介はビクッと背筋を伸ばしたがレミリアは優之介の腕を離し、姿勢を正すと優雅に自己紹介をした。




「初めまして王女殿下、ソヘル商会会頭ウラドソヘルが娘、レミリア・ソヘルと申します。以前は父と共に商会を運営していましたが今はユウノスケさんとシバさんと一緒に冒険者をさせてもらっています」


「一緒に冒険者をしていればユウノスケ様に抱きつくようなことがありまして?」




 ソフィーリアは笑顔でレミリアに質問するが、笑顔が怖い。斬波は予想通りと思わんばかりにため息を吐き、その様子を見たクラウディアと葵は斬波に詰め寄る。


 斬波が二人に経緯を説明すると、二人も「はぁ……」とため息を吐く、しかしタマキと他の日本人達は修羅場の予感を感じているのだろうか面白そうにソフィーリアと優之介とレミリアのやり取りをニヤニヤしながら眺めていた。




「ユウノスケさんとは将来結婚を考えていまして……///」


「なっ……!?」


「「「「「「「おぉ~っ!!」」」」」」」


「私のユウノスケに対する想いは父も理解してくれていて、父からも縁談話をユウノスケさんに持ちかけ、後押ししてくれています♪」


「ななななな……」


「ご両親公認ですか、それは心強いですね」


「母からまだですが手紙でお知らせしました、父がユウノスケさんに是非私を貰ってくれというものですから恥ずかしくなってしまいました……///」




 レミリアが爆弾発言を連発するせいでソフィーリアはショックのあまり固まってしまった。優之介は優之介で何も言い出せず、キリキリと胃が痛くなるばかり。十八歳でこんな思いはしたくないものだ。




「レミリア様、失礼ですがユウノスケ様と殿下の関係はご存知でしょうか?」


「はい、お伺いしています。ですが私は諦めません、彼は私を助けてくれた王子様ですから!」


「レミリア、聞いてるこっちが恥ずかしいからこれ以上はやめてよ……」


「殿下、大方予想していましたけれどこれは強敵ですね。対外的に見てもレミリア様は容姿端麗で内面も良好、身分も平民で結婚に対する自由度は王侯貴族より高くしかも親公認と縁談ときました」


「た、たタマキ……!?いいえ、私にはユウノスケ様と数度お茶会を通して親交を深めていますわ! 私だってまだ負けてませんわ!!」




 ソフィーリアは苦し紛れの抵抗するがレミリアが更なる追撃を仕掛ける。周りの皆は喜劇が始まった始まったと言わんばかりにそわそわしだした、理音に至っては「負けるな王女様! 頑張れ!!」と更にはやし立てている、いいキャラしてるなホントに!




「私は毎日ユウノスケさんとシバさんと一緒に鍛錬をしたりダンジョンに潜ったり、二人っきりで食事デートをしたり……」


「二人っきり!?ちょっとシバ様! 貴方がいながら何故ユウノスケ様と彼女を二人っきりにさせたのですか!?」


「ん? 俺が行ってこいって言ったんだ、優之介にもいろいろ経験させないといけないと思ったのでな」


「ぐぬぬ……」


「デートの際にユウノスケさんからプレゼントして貰った幸運のネックレスは宝物で、肌に離さず身につけています♥」


「う、羨ましい……! でも、私が先にユウノスケ様とキスをしました! これには勝てないでしょう!!」




 王女と商会令嬢の痴話喧嘩が変な方向に進んで行く、二人の間に立たされている優之介は好奇の視線にさらされ顔を真っ赤にして俯くことしか出来ない。


 流石に止めたほうが良いと判断した斬波とクラウディアと葵が三人に歩み寄ろうとするが……。




「場所はどこにされたのでしょうか?」


「……へ?」


「キスをされた場所はどこかとお伺いしています」


「の、喉ですわ!!」


「「「FOO~!!」」」

「こらそこ! はやし立てないの!!」


「私は頬にしました、お互い唇にはしてないようですね……、この際ですからユウノスケさん?」


「え? 何……へぶっ!?」




 レミリアがいきなり優之介の頬を両手でしっかりホールドして自分と目が合う構図を作り出した。次にレミリアはとんでもない事を言い出した。




「今ここで貴方の唇を……」




 レミリアはすっと目を細め優之介の唇に自分の唇を近づけたのだ。

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