第四話 一緒に転移した人達との再会


 アースカイ王城内の一室で優之介と斬波は正座をさせられていた。因みにレミリアも特に意味はないが優之介の隣で正座している。




「まさかとは思ったけど、貴方達がやったのね……」


「君達自由すぎるよね……」


「まぁまぁ元気があっていいじゃないですかぁ~」


「行動力がある事は良いことですよ、自分達でお金を稼いで生活する事は当然のことです」


「私は素直に叶さんの頭脳と技術に感心しました」


「私としてはやりすぎないか心配です……」


「…………」


((何で俺達は正座させられてるんだ……!?))(……?)




 優之介と斬波は何故正座させられているのか理解出来てないので、とぼけ顔で自分達を正座させている相手が話していることをただ黙って聞いていた。




「ちょっと聞いてるの!?」


「……と、言われても俺ら何かやったか?」




 斬波に向かって捲し立てている人物の名は瑠川葵、野郎二人がイェクムオラムに転移させられた時、一緒に巻き込まれた七人の内の一人で抜群のスタイルと艶やかな黒髪ポニーテールが特徴的な女子大生だ。




「いやぁ、手押しポンプとか五右衛門風呂とか作っちゃったでしょ?」


「それが悪いことか?」


「手押しポンプとかお風呂とか生活に役立つ物はいいんだよ、だけどこのまま君達を放置してると銃とか作り出しそうでアブナイ」


「一緒に異世界転移に巻き込まれたとは言え、失礼な物言いだな」


「こっちきて二週間と言う早さで順応して尚且つ、道具を開発して荒稼ぎをする君が驚異に思えたものでね♪」




 葵の隣で気怠そうに斬波が驚異と話しているのは八神理音、ショートヘアでボーイッシュなイメージが特徴の女子大生であるが、顔や体型を一目見れば女性だとわかる。おっぱいのついたイケメンと呼んでもいいが女性らしさが見えるので保留。




「えっとぉ~優之介君だっけ? 戦闘訓練の時以来だよねぇ~覚えてる?」


「あ……美川優里音さんでしたっけ?」


「合ってるよ♪ 優里音でいいからね、元気してた?」


「はい、元気ですよ」




 葵と理音が斬波に釘を刺してる一方で、親しげに優之介に声を掛けているのは美川優里音、ほんわかな雰囲気が漂うまさにお姉さんと言う感じの印象だ。




「冒険者って職業で活躍中らしいじゃない? マリィさんって受付嬢が悔しがってたわよ」


「悔しがってた?」


「『ティユールであんなに活躍するなら王都の依頼を受けてもらえば良かったぁ~!!』って♪ あ、私の事も気軽に春香さんって呼んでいいからね♥」


「ご丁寧にありがとうございます。いやぁ、登録して直ぐに出発したので……」




 マリィの伝言を伝えたのは上品な佇まいでどこか一般人ではない雰囲気を漂わせる九条院春香、亜麻色の髪が綺麗なお嬢様な印象を受ける。優里音曰く「春香さんは大企業の社長令嬢だよぉ」と言うのでマジモンのお嬢様だった。




「佐々木さんも山崎さんも八乙女さんも二週間ぶりですね♪ この正座を解いても良いですか?」


「久しぶりですね夢咲さん、僕は良いと思いますよ」


「お久しぶりです、前より少し肉付きが良くなりましたね細マッチョってやつですか? かっこいいです♪」


「ありがとうございます♪」




 優之介達が乗っていた飛行機の副操縦士をしていた佐々木市之丞と乗務員の山崎直子も元気そうで優之介はホッとした、この二人から発せられる雰囲気に触れると心が落ち着く、これが大人の余裕か。


 葵と理音対斬波で言い合ってる状況と比べて優之介の方は和やかなムードで再会を喜んでいた。




「お久しぶりですね、あまりお話をしてないから印象薄いと思いますけど……」


「いえいえ、芸能界では大活躍ではないですか。こちらの世界は慣れましたか?」


「城の人も一緒に異世界ここに来た皆も優しい人なので安心しました♪」




 少しおどおどした様子で優之介に話しかけたのは八乙女咲良、異世界転移前はモデルやタレントをやっていただけあってスタイルが良くて雰囲気もまさに人気芸能人だ。きっと今頃日本のファンは彼女が行方不明であることに嘆いていることであろう。


 何がともあれ一緒に転移した人達が無事に過ごしている事を確認できた優之介は安堵するのだった。


 そもそも、何故野郎二人は正座させられているのか、時は数時間前にさかのぼる。






―――――――――――――――――――






 王都に到着した野郎二人とソヘル商会御一行はとりあえずウラドの別荘へと足を運び、そこで身なりを整えてから王城に足を運んだ。


 控え室でお茶を飲みながら待機していると、財務大臣を名乗る人物が現れたので軽く挨拶を交わした後、当初の予定通りにガチャポンプの設置場所を下見しながら構造と仕組みを教えてあげていた。


 財務大臣は「魔力を使わずに誰でも簡単に水が出せるのは生活が楽になるぞ!」と大喜びの様子だ、庶民の暮らしを理解してあげられるこの大臣は良い政治家なのだろうと野郎二人は思った。


 下見が終わると控え室に戻って、ガチャポンプの発注数等の細かい商談が始まった。財務大臣は全てをソヘル商会に任せてしまうと商人達のパワーバランスが崩れてしまうことと、ガチャポンプの単価高騰を懸念して、王城お抱えの工房とソヘル商会に並ぶ豪商にもガチャポンプの生産流通させたい考えを前もって示した。もう既に仲の良い他の商会や工房に仕事を流しているウラドからすれば別に問題ないので、彼はこれを快く了承した。ウラド曰く「もう既に黒字経営の我が商会は利益より、流通数を増やして安定した売買ができればそれで良い」らしい、お金を持ってる人は言うことが違うぜ。


 商談がまとまった事で王城から帰ろうとした野郎二人とウラド親子だったが、途中で葵に見つかり何故旅立ったはずの優之介と斬波がここにいるのかを問いただした結果、野郎二人(主に斬波)が好き勝手にこの世界にはないような道具を開発しては儲けている事が葵にバレてしまった。






――――――――――――――――――――






 結果、優之介と斬波は葵に「ちょっとこっち来なさい!」と部屋へ連行された後、正座させられて今に至る、はっきり言って理不尽、とばっちりだ! 因みにウラドは先に帰った、酷い。




「まさか、二週間で帰って来るとは思わなかったわ」


「まぁここには仕事で来たから用事が済めば直ぐに旅に出るさ」


「もうちょっとゆっくりしていけばいいのに……」


「……?」




 葵の言葉が理解できず、斬波は不思議そうな表情をして首をかしげる。葵も葵ではっきりと言い出せずにもじもじしているので見かねた理音が助け舟を出した。




「えっと~叶君でいいかな?」


「斬波でいい」


「じゃああたしの事も理音でいいよ♪ 葵は君とお喋りがしたいのさ、聞けば君と葵は高校時代の同級生だそうじゃん?」


「ちょっと……」


「そうなのか?」


「えっ……」




 理音曰く、斬波と葵は高校時代の同級生らしい、理音の言葉を聞いた優之介は一人でに納得していた。


 飛行機に搭乗していた時からずっと自分と斬波の様子を伺っている人がいた、その人がこの瑠川葵だ。優之介は彼女と面識がなかったので当時は不審に思っていたが、斬波と彼女は高校時代の同級生と言う話なら合点がいく、葵は再会した斬波に声を掛けたかったのだ。




「あっ、だから飛行機に乗ってる時にちらちら俺達の方を見てたんですね?」


「そうなんだよ~♪ しかも聞いてよ優之介君、葵ったらね、そこの斬波君が「わーーー! わーーーー!!何言ってるの理音! やめてよ!!!」」




 理音が何かを言いかけたと思ったら葵が全力で止めに入ったので完全に聞けなかったが、面白そうなおもちゃを見つけたかのようにニヨニヨ笑う理音と顔を真っ赤にしてテンパってる葵を見て、この場にいる斬波以外の全員は何の事情かはだいたい察した。市之丞が「青春に期限はありませんね♪」と呟くと皆同意して頷いてた。




 ―コンコンコン




「アオイさん、どうかされましたか? 大きな叫び声が聞こえたので……」


「あ、ソフィー! な、何でもないのよ!!」


「え、でも……。あ…………」




 このタイミングでドアをノックして誰かが部屋の中に入ってきた。扉の向こうから鈴のような声が聞こえ、葵はその声に向かってソフィーと呼んだ、優之介と斬波の記憶にはこの王城でソフィーと呼ばれる人物は一人しかいない、アースカイ王国第一王女のソフィーリアだ。


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