第二話 優之介は気まずい
「ユウノスケ君、もし君さえ良ければレミリアを貰ってはくれないか?」
ウラドのその一言が賑やかだった野営での夕食の雰囲気が一気に静まり返った。ソヘル商会の護衛達はあんぐり口を開けたまま優之介とレミリアの方を振り向いた。レミリアはすっかり意識してしまったようで顔を真っ赤にして縮こまっている。
「ちょ、ちょっと待ってください! いくらなんでも急すぎます!!」
「そ、そうですよ! ユウノスケさんにもユウノスケさんの事情がありますでしょう!?」
「ユウノスケ君のいないところで私に『彼は私を助けてくれた王子様、願わくば添い遂げたいけれど彼は冒険者として旅する身、ならば私も冒険者になって彼について行きたい』と言ったのはどの口かな?」
「えっ……!?」
「~~~~っ……///」
優之介はレミリアが自分のことをそんな風に想っていてくれた事に内心驚いた。ホブゴブリンウォリアーからレミリアを助けた事で彼女から感謝されることはあるだろうが惚れるに至るのだろうか?
まだ少し疑問に思った優之介はレミリアにストレートに聞いてみた。
「ねぇレミリア、何時からそんな風に?」
「最初に助けられた時は正直助かったとしか思っていませんでした。しかし、恐怖に怯える私に優しく接しれくれるユウノスケさんを見て次第に興味を持つようになって、それからここ数日毎日のようにお会いしていくうちに、ユウノスケさんの紳士的で優しいお人柄に惚れてしまいました……///」
「あ、ありがとう……///」(聞いてるこっちが恥ずかしいわ!)
レミリアは優之介の隣で優之介の事を好きになった経緯をいやんいやんしながら話し、しかと聞いた優之介は照れくさそうにお礼を言った。一緒に聞いていた護衛達四人は全員顔を両手で覆って恥ずかしそうにしている、見て聞いてる方も恥ずかしくなっちゃうよね。
ウラドはニコニコしながらレミリアの話を聞いて頷き、斬波はやっぱりなと言いたげな涼しい表情をしたままシチューを掻き込んでふーっと一息ついて場の空気がまとまらない状況になっている。
「それで、君の答えはどうかなユウノスケ君?」
優之介の返事を聞こうとするウラドの言葉にまたその場はシーン……と静まり返った。レミリアも顔の色がすっかり戻って真剣な眼差しで優之介を見つめている中、優之介が出した答えは……。
「せっかくの申し出ですが、遠慮します」
「「「「「「…………」」」」」」
レミリアみたいな美女を嫁に貰える、しかも本人と親公認だなんて男としてこれ以上に嬉しい事はないだろう。しかし、優之介はこの提案にNOと返事をしたのだ。
「ユウノスケさん、私の……何がいけないのですか!?」
「ちょ、レミリア!?」
「ユウノスケの坊ちゃんがうちのお嬢を泣かせやがった!!」
まさかのノー返事にショックを受けたレミリアは泣きながら優之介に抱きつき、自分の何がいけなかったのか必死で聞いてきた。護衛達も自分達のお嬢様を泣かせたとして少しご立腹の様子だ。
「落ち着きなさい! ユウノスケ君に非はないよ、こちらから一方的にレミリアとの縁談話を持ちかけているのだからね。でも、どうして受け入れられないのか理由を聞いてもいいかな? この国は一夫多妻制だ、例え君にはもう既に妻がいたとしても妻から許可を貰えば問題ないはずだ。他の理由があるとすれば年齢かな?」
「俺は十八歳です、恋人関係に発展してこれからも良き人間関係を築き上げるならまだしも結婚は早すぎます」
「君はレミリアと同じ十八歳なのか、なら問題ないな。それに男は十八歳くらいで結婚するものだぞ、レミリアが少し行き遅れているくらいだよ」
「俺は冒険者です、収入は不安定ですし明日死ぬかも知れない命です、そのような立場でレミリアを貰うことはできません。それに、俺と斬波さんはもっと色んなところに旅をしたいんです」
「先程も申したように覚悟は出来ています! どこだってユウノスケさんと一緒に居たいんです!!」
「…………」
「断る理由はなくなったようだね」
優之介が遠慮する理由をウラド親子は論破した。論破した上でウラドが再び優之介にあの提案をしようとしたところで、斬波が待ったをかけた。
「待った」
「む、どうしたのかね?」
「優之介、お前……いや、俺達の本当の理由をまだ言ってないだろ」
「「「「「「本当の理由」」」」」」
「シバ君、本当の理由とはなんだね!?」
「シバさん!!」
「今から言うことは公にすることは場合によっては首が飛ぶから心して聞けよ?」
「「「「「「…………」」」」」(ゴクリ)
「俺と優之介はな……」
斬波は自分と優之介がソフィーリアの名代であることをソヘル商会御一行に教え、証拠のブローチを見せた。異世界から来た異世界人であることは言っていない。
ソフィーリアの名代である以上、彼女の許可なしに勝手はできない事、そしてソフィーリア本人が優之介に対してアプローチを仕掛けている真っ最中である事も彼らに告げた。優之介はソフィーリアとレミリアからアプローチの挟み撃ちを受けて板挟み状態にあるのだ。
「まさか、お二人がそんなお方だったとは……大変失礼致しました!!」
「よしてくださいよ、今まで通りで頼みます」
「ユウノスケさんとシバさんが王女殿下の名代、しかもユウノスケさんは殿下からアプローチを受けていたなんて……。整った顔立ちとスベスベな肌、声色をしていれば確かにと思いましたけどまさか殿下まで……でも私は負けませんよ!!」
「まぁ名代は言い過ぎたけれど、俺達に何かあれば王女が後ろ盾になるのは間違いない。まっとうな商取引をしてきて良かったと思うだろう?」
((((((コクコクコク))))))
「というわけでこれからもよろしく♪」
会話の途中で斬波が自分達と王女の関係を明かしたことで、野郎二人に対するソヘル商会御一行の態度が少しよそよそしくなってしまったが、この後はみんなで和気あいあいと食事を楽しんだ。
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