第八話 指名依頼より皆さん繁盛してるようで何よりです


「あいつらに目ぇつけられるとはお前らも災難だったなぁ」




 黒の狩人を追い払った後、野次馬が解散していく中バロンが声を掛けてきた。




「本当に迷惑な奴らだった……」


「いきなり絡んで来ましたもんね」


「言うことやること滅茶苦茶だったな」


「黒の狩人の奴らはちゃんとCランクの実力は持ってるが人間性が問題でなぁ~、新人いびりが趣味なチンピラみたいな部分があんだよ……」


「「「…………流石にダンジョン内で絡みに来るのはないわ」」」




 何とも言えぬ空気の中バロンが個室と優之介には水浴び場を用意してくれたので、三人はバロンのお言葉に甘えることにした。


 優之介が水浴びと着替えを終えてから約十五分後にウラドがギルドにやって来て、先程の出来事などどこ吹く風と言わんばかりの様子で、今回の依頼内容の事を話し始めた。






――――――――――――――――――――






「いやぁご無沙汰だね、ガチャポンプの時以来かな?」


「そうですね、お久しぶりです?」


「久しい……のか?」


「ユウノスケさんシバさん、そこは堂々と久しいと言えばいいじゃないですか……」


「いやぁレミリアをほぼ毎日見てるから久しぶりって感じがしないんだ……」


「ところで俺達に指名依頼とのことだが、どんな依頼なんだ?」


「それはだね……」




 ウラドは優之介と斬波に持って来た依頼の内容を長々と話したが、要約するとこうだ。


 先日、ウラドの元にソヘル商会で扱ってるガチャポンプを是非アースカイ王城、王都に設置したいと王国から大口の取引案件が舞い込んだらしい。


 商会としては二つ返事で了承したいのだが、王国側からガチャポンプの構造や仕組みを一緒に教えて欲しいと言われていて、流通担当のウラドは正直ガチャポンプの構造までは理解しきれておらず、生産担当のガリアスは空気が合わないと王都に行きたがらないので、この世界ではガチャポンプの生みの親である優之介と斬波には護衛として商会と同行してもらい、最終的には王国相手にガチャポンプの商品説明をして欲しいとのことだった。




「なるほど、そんな案件が舞い込んでくるならガチャポンプの売上と名前は凄まじい勢いで広まってるんだろうな」


「それはもう素晴らしい勢いで私達だけでは捌ききれない。なので他の商会や工房に仕事を横流しするくらいです」


「約束を守ってくれているようで嬉しいよ」


「商売は信頼関係が重要ですから」


「全くだな、それで依頼の方だがお受けしようと思う。ちょうど後一泊で安心亭で滞在する期間が終わるしな、優之介も問題ないだろう? 旅は王都に逆戻りだけどよ」


「俺は大丈夫ですよ、またティユールに戻るか別の方に向かうだけですから」


「それでは話は決まったようだね」




 優之介と斬波はウラドからの指名依頼を受けることにした。野郎二人にとっては王都から旅立ったって一週間と少しでまた王都に戻る事になってしまうが、またそこから始めれば良いだけのこと。


 この後、野郎二人はウラドと仕事内容の打ち合わせをして安心亭に帰った。レミリアはウラドと一緒に宿泊先に帰ると言うので彼女ともここでお別れした。






――――――――――――――――――――






 優之介と斬波が部屋から出て行った後、レミリアはウラドと紅茶を交えて話をしていた。




「しかし、お前が冒険者になるって言い出した時は本当に驚いたよ」


「そうでしょうか? お母様も昔は冒険者だったと聞いてますけれど?」


「はぁ、血は争えないと言う事だな……。それにしてもいくら助けてもらったとは言え、あの二人についていくことはないんだぞ、どうしてそこまで近づこうとするんだい?」


「それはですね……」






――――――――――――――――――――






「そっかぁ、もうそんなに日が経っちゃったか……。二人共もっと居ればいいのに」


「ありがとうコネリー、でも明日の早朝から護衛の依頼で王都に行かないといけないんだ」


「むぅ~……」


「あらあらだめよコネリー、ユウノスケさんとシバさんにも事情があるのだから邪魔してはだめよ。でも寂しくなるわね~、貴方達ならいつでも歓迎だからまた泊まりに来てくださいね、宿代はタダでいいから♪」




 優之介と斬波は安心亭でコネリーと一緒に夕食を食べている最中だった。


 会食中にコネリーの母であるシャンリーが次に来た時には宿代をタダにしてくれると言った。理由はあのガチャポンプをプレゼントしたのもあるが、他にも安心亭にプレゼントしたものが関係している。




「いやぁ、まさか貴族や豪商でもないのに日常的にお風呂に入れる日が来るなんて夢みたいだよ! 本当にありがとう!!」


「はっはっはっ、優之介がレミリアとデートしてる間にガリアスと共同で作ったかいがあったってもんだ」




 実は優之介がレミリアとデートしていた日、斬波はこっそりとガリアスと結託して安心亭に大きな五右衛門風呂を作ったのだった。斬波が勝手に五右衛門風呂を設置していたので最初は怒っていたラコネス一家だったが、これがお風呂である事とこれをプレゼントする事を伝えると、ラコネス一家は大喜びで斬波に感謝したそうだ。


 結果、安心亭にはガチャポンプと五右衛門風呂を目当てにお客さんが殺到し、宿代を倍にしても常に満室、五右衛門風呂に入りたい人は入浴料を取って大儲け、大変景気がよろしくなっていた。


 因みに五右衛門風呂は男女で一つずつ、二据え設置して環境も整えたお陰で安心亭に足を運ぶお客さんの数は増えるわ増えるわ、従業員を雇っても利益増し増し嬉しい状況にラコネス一家は斬波に頭が上がらなくなっていた。




「今は落ち着いてるけど急に忙しくなっちゃって大変だよぉ~でも嬉しいよぉ~~」


「本当になんとお礼を言ったら良いか……」


「斬波さん、俺がいない時に何コンサルティングしてるんですか……」


「いやぁ、自由に他人のお店を改造できるのは楽しいなぁ~♪」


「儲かる改造なら大歓迎だけど、今度はちゃんと前もって連絡してよね!」


「あいよ~」




 優之介と斬波は食事は軽めに済ませてこの日は早めに寝た。


 明日は早朝からウラドの護衛任務だ、約二週間ぶりの王都に向けての準備は万端だ。



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