第七話 上には上がいるのだよ!
「おい! いきなり何をするんだ!!」
「おおっと動くなよ?」
果物ジュースをぶちまけられた優之介が声を上げて席を立とうとするが、ウザイルが制止させた。気が付けば優之介の背後に二人、斬波の背後に二人、レミリアの背後にウザイルが陣取っていていつでも奇襲を仕掛けられる状態にあった。しかし、優之介と斬波は勿論だがレミリアはそれに怯えるようなことはしなかった。オーガスケルトンとの対戦で得た【恐怖耐性】のスキルは伊達じゃないようだ。
この状況に全く怯えないレミリアに少し苛立ったウザイルはレミリアの顎を掴み、憎たらしく囁いた。
「ほ~ぅ、よく見るとやっぱりいい女だなぁ、この状況でもビビんねぇなんて肝が据わってるじゃねーか」
「ふんっ! 貴方達よりオーガスケルトンの方がよっぽど怖かったわ!!」
レミリアは威勢良くビンタをかまそうとしたがウザイルに右腕を掴まれてしまった。レミリアは抵抗するが、彼女の筋力ではウザイルを引き剥がせないようだ。
「はぁ? スケルトンオーガぁ? じゃあなんだよ、お前ら三人のレベルの合計が六十を超えてるってか!?ますます腹が立つぜ! ルーキーのクセしてよぉ!」
「い、痛いっ!!」
ボスモンスター出現にそんな条件があったのか、ウザイルの台詞からしてパーティメンバーの合計レベルが六十を超えた状態で十階層のボス部屋に潜るとスケルトンオーガが出るらしい。
ウザイルはそう言うとレミリアの右腕を強く握り締めた、痛がるレミリアは目尻に涙を溜めて短く悲鳴を上げる。
「やめろぉ!」―ドゴッ!!
「「あっ!?」」
「―へぶっ!?」
―ガッシャァァーーーン!!
「レミリア大丈夫か!?」
「私は大丈夫です……」
「……」
「…………」
「……おい、お前らちゃんと押さえつけろよ!!」
レミリアの悲鳴を聞いた優之介はとっさの一撃でウザイルの顔面にパンチを一発入れてやった。ウザイルは二メートル程吹っ飛ばされた後、優之介を睨みつけながら立ち上がるが優之介もまたウザイルを睨み返し状況は一触即発になる。
ウザイルが吹っ飛ばされた時の大きな音で一体何事かと思ったのだろう、エマが受付から慌てた様子で走ってきた。そしてエマの後からバロンものしのしと歩いてきた。
「ちょっと何事ですか! 喧嘩なら外でしてください!!」
「ん? なんだユウノスケ、シバ、お前らこいつらと知り合いか?」
「ダンジョンの中で絡まれた、ボス部屋の前でどけってな」
「なんだお前らまたやってたのか? 懲りねぇな……。囮を先行させて自分らは安全な橋を渡る行為をするのはやめろって言わなかったかぁ? ああん!?」
「ひっ、ひぃぃ……」
「おい、何ビビってんだ! あとこれは俺達の問題だ、口を挟むんじゃねぇ!!」
「…………」
「ちっ……。おい、ツラぁ貸せや、外でケリつけてやろうじゃねぇか」
ウザイルがバロンにくってかかるがバロンはびくともしない、それどころかイラついて顔をしかめた。バロンの無言の圧力に押されたウザイルは優之介達に外に出るように促した。
先程からギルド内はウザイルの怒声が響いていたので、他の冒険者がなんだなんだと見物に群がってきたこともあり、優之介、斬波、レミリア、エマ、バロン、黒の狩人達は表に出て決着をつけることにした。
「さて、俺らCクラスパーティ黒の狩人をコケにした覚悟はできてるかルーキー?」
「しないしする必要もない、元々お前達が絡んで来なければこんな事にならなかったんだ!」
「てめぇらが出しゃばった事してっから先輩として教育してやろうってのに、なんだその言い草は? 少し痛めつけないとわからねぇみたいだな……」
ウザイルがポキポキと腕を鳴らしながら数歩前に出て優之介達を挑発してきた。これに対抗し、優之介側陣営は優之介が数歩前に出た。
「冒険者が人の迷惑にならない範囲の中でやりたいようにやって何が悪いんだ! さっきから変な言いがかりをつけて来て……」
「ガキがいっちょまえに何言ってんだ? これは教育が必要だな、レベル三十のウザイル様が直々に相手してやるよ!」
「「はぁ……?」」
ウザイルが自分のレベルを公表すると斬波とレミリアは気の抜けたような声を出して肩から力が抜けてしまった。それもその筈、ウザイルがレベル三十なのに対し優之介は四十、レベルで言えば優之介の方が格上なのだ。
ここで斬波がレミリアに「【解析】魔法で人間を調べちゃいけないのか?」と聞いてみるとレミリア曰く「人間相手にも【解析】魔法を使用して相手のレベルを見る事はできるけど、魔力を相手に触れさせるのですぐにバレて不快感を与えてしまいます。逆に【鑑定】のスキルを持っている人はのぞき放題ですよ」との事。
斬波は「へぇ~」と当たらずも触らずな返事をして、早速黒の狩人のメンバー達を鑑定してみる。鑑定結果にはメンバー個人個人の名前やレベル、服装や装備品等の情報が表示された。
「ウザイルがレベル二十九、他の四人は二十五から二十七と言ったところか……。おーい優之介、お前の目の前にいるウザイルはレベルをサバ読みしてるぞ~実際は二十九だぞ~」
「なっ、てめぇ【鑑定】持ちかよ!」
斬波の言葉を聞いた野次馬達はウザイルに対しクスクス笑いつつも、斬波が【鑑定】スキルを使える事に少し動揺しているようだ。
「へっ、謝るなら今のうちだぜ。土下座して慰謝料とその女を置いていけば許してやるぞ?」
「誰がそんな事するもんか! この腐れチンピラ!!」
「……じゃあ死ねや!!」
ウザイルは啖呵を切ると勢い良く優之介に殴りかかってきた。【身体強化】を込めた高速ストレートパンチが優之介の顔面をめがけて飛ぶが、優之介は難なく躱しウザイルの顔面にカウンターを叩き込む。
優之介は更にその勢いを利用してウザイルの腹に回し蹴りをお見舞いするとウザイルはコマのように回転しながら地面に叩きつけられた。
「がっ……!?お、お前ら何見てんだ! やっちまえ!!」
ウザイルは
「ホブゴブリンウォリアーやオーガスケルトンの方が強かったよ!!」
優之介は得意のカウンターで全て返り討ちにした。反撃の最中、柔道の投げ技を披露すると野次馬達から「おぉ~」と歓声が上がった。
「いっつつ……」
「強えぇ……」
「動きがルーキーじゃねぇ」
優之介の攻撃をまともに受けた黒の狩人の面々はイモムシのように身悶えながら雑魚キャラのようなセリフを吐いていた。実際に雑魚キャラだが。
優之介は地面に横たわる黒の狩人の面々に向かって止めの一言を放った。
「そっちのリーダーのウザイルさんだっけ? そっちだけレベルを公表してたら不公平だと思うから俺のレベルを教えてあげるよ、俺のレベルは四十だ」
「よ、四十……」
「ウザイルよりたけぇじゃねぇかよ……」
「レベルだけじゃねぇ、こいつステータス以上に強いって……」
優之介のレベルを知った黒の狩人の面々は戦意が無くなってしまったようだ。リーダーのウザイルは優之介の蹴りが効いたのか、泡を吹いて気絶してしまっている。
「今回は俺の出番は無しか残念……」
「レベルによるステータスが全てと言うわけではありませんが、レベル六十八のシバさんが相手では返ってこちらがいじめっ子になってしまいます……」
参戦できなかったことに残念そうな顔をする斬波と、それに対して苦笑いで宥めるレミリアの会話を聞いた黒の狩人のメンバーは顔を真っ青にして「す、すいませんでした~!!」と大声で叫びながらウザイルを引きずりながら逃げていった。
「次は俺が相手してやるからな~♪」
斬波が逃げていく黒の狩人達の背中に声を掛けると、彼らの逃げ足が二倍速で速くなってあっという間にいなくなってしまった。これに懲りたらもう絡んでくることはないだろう。
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