第五話 動く強い骨との戦い方その二、〇〇をかけてみる


 優之介、斬波、レミリアの三人は、ダンジョンの十階層で今回のボスモンスターであるオーガスケルトンと対峙していたが、レミリアが恐怖状態でまともに戦えないので優之介と斬波の二人でオーガスケルトンと戦っていた。


 しかし、戦闘が始まって直ぐに事もあろう事かなんと、斬波がレミリアの背後から彼女の胸を意図的に揉むと言う痴漢行為に走ったのだ。




「きゃぁぁぁぁああああああ!!」


―バシィーーーン!!


「へぶっ!?」


「い、いきなり……いきなり何をするんですか!!」




 いきなり背後から胸を揉まれたレミリアは顔を真っ赤にさせて、自分の胸を揉んだ斬波の頬を思いっきり平手打ちした。浅黒い肌色なのでわかりにくいが、斬波の頬にはくっきり手形が残っていた。


 しかし、斬波は悪びれる様子もなく平謝りをして自分の行いを説明した。




「あぁ、すまんすまん。緊張とかで身体の震えが止まらない時は、全身(特に上半身)の力を抜いて、いい姿勢をして、深呼吸をして、腹横筋に力を入れると震えが治まるのを思い出してな、咄嗟に出来そうなシチュエーションが俺がレミリアに破廉恥な事をして思いっきりビンタされた方が良いだろうと思ってやったことなんだ、すまんな」


「全く、二人共紳士的な方だと思ってたのに……。あ、でも震えが止まりました! 今なら行けます!!」




 斬波の変t……紳士的な計らいのお陰でレミリアの震えが止まり、彼女の目にやる気が満ち溢れるようになっていた。


 しかし、レミリアよりスケルトンオーガの方がレベルやステータスが高いので、まともに戦ったらレミリアはひとたまりもない事実は変わらない。斬波はそのことをレミリアに釘刺して、レミリアに指示を出した。




「行けそうなのは構わないんだが、レミリアは中距離から石を投げつけて牽制するぐらいにしろよ」


「その方が良さそうですね、ユウノスケさんも苦戦してるようですし……」




 斬波とレミリアはスケルトンオーガを相手に一人で戦ってる優之介に目を配る。レミリアには優之介が苦戦しているように見えるらしいが、斬波にはそうは見えなかった。




「苦戦なぁ、確かに苦戦はしてるようだがすぐには殺られんだろう」


「何でそう言い切れるんですか?」


「きちんと相手を見切って攻撃を受け流しながらカウンターを入れてるからだよ。でもまぁあのスケルトンオーガは相当硬のだろうな、決定打を与えられてないな……」


「おぉい! そこで分析してる余裕あるなら手伝ってよ!!めっちゃキツいんですから!!」


「ユウノスケさん、今行きます!」




 斬波の余裕のある声が聞こえてちょっと腹が立ったのか、優之介は斬波とレミリアに応援を頼んだ。レミリアは元気よく返事をして応援に向かい、斬波もゆっくりと考え事をしながら応援に向かった。




(う~む、あの骨は相当硬い。優之介も頑張っているが効果は今ひとつ、俺の”この腕”でも殴っても複数回殴らないと破損できない……)




 スケルトンオーガに優之介は機動力で翻弄し、レミリアは投石や鞭で牽制し、そうやってできた隙に斬波が黒くなった腕と足で叩き込んでいたがスケルトンオーガの骨はなかなか砕けなかった。




(持久戦になったらこっちが不利になる。さてどうしたものか……)


「斬波さん、骨って溶かせませんでしたっけ!?」


「―!?」




 斬波は考え事に集中しすぎて聞こえていなかったが、優之介は唐突に何かを言い出したようだ。骨を砕けないなら溶かすのはどうか? そんな内容の提案だ。


 骨を溶かす、その言葉を聞いた斬波の頭の中は直様どのようにすれば骨が溶けるのか、答えを導き出すために回転した。




「骨は酸に溶ける、骨を炭酸ジュースに長時間漬け込むと骨は溶ける、酢でも溶ける、なら塩酸が有効か? 硝酸や硫酸も選択肢として有りだ、いや骨はリン酸カルシウムだから……」




 斬波はぶつぶつと何かを言いながらイメージに集中して手に魔力を溜めている。魔力はやがて液体の球となり、その球はだんだん大きくなっていく。




「「斬波さん!!」」


「お前ら離れろ! 今から濃硝酸をぶちまけるぞ!!」




 斬波の掛け声と共に優之介とレミリアはその場から離脱した。斬波は直径一メートル程の濃硝酸の球をオーガスケルトンに放とうとするが。




「HOOOOOOO!!」


「なっ!?」




 オーガスケルトンは骨身の危険を感じたのだろうか、今までまばらだったターゲットを斬波一人に絞って大斧を素早く振ってきた。斬波は魔法を打ち出す体勢に入ってる為ガードする事ができない。


 斬波はこのままやられてしまうのかと思われたその瞬間……。




―ガキィィィッ!!


「ぐぅっ……!」


「ううっ……!!」


「―!?」




 優之介がスケルトンオーガの一振りを全力で受け止めた。しかしオーガスケルトンはそれでも尚、斬波を妨害しようとそのまま大斧を強引に振り抜こうとする。


 だがこちらも全力で阻止すべく優之介の背後からレミリアが加勢し二人掛りで止めに入った。二人掛りでは強引に振り抜けなかったようで、スケルトンオーガはその場で硬直してしまった。




「ありがとう、二人共……。ぬぅおおおおお!!」


―バッシャーン!!




 ……。


 …………。


 ………………。




「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOH!!」


「HEEEEEEEEEEEEEEEEEY!?」


「NOOOOOOOO……」




 斬波が魔力で作った濃硝酸を骨身全体に浴びたスケルトンオーガは、断末魔とも呼べる奇妙な叫び声をあげながら、足元から粉状になって崩れていった。


 そして、スケルトンオーガが立っていた場所には一本のハルバードと宝箱が出現していた。




「……やったのか?」


「斬波さんそれフラグ」


「ですがドロップ品が出現してますよ!?私達やったんですよ!!」




 オーガスケルトンを倒すことに成功した優之介、レミリア、斬波は三人で抱き合った後、開放感から三人ともその場でへたりこんでしまった。




「「「はぁぁ~~……」」」


「ホブゴブリンより厄介だったぁ~」


「の、割には濃硝酸であっけなかったがな」


「スケルトンは物理よりも魔法耐性の方が上なので魔法では倒しにくはずなんですけど……」




 レミリアがスケルトンの特徴を述べて疑問に思うが、斬波がやったことは魔法であって魔法ではない、魔法で作った液体を用いて物理的に骨を溶かしただけなのだ。


 斬波はそのことをレミリアに伝えると、レミリアは「酸をかけたんですか!?でも骨はあんなに早く溶けませんよ?」とますます今回の現象について疑問に思っていたが、野郎二人に「後で教えてやるから……」となだめられたので今は頭の隅にそっと置いておいた。


 暫く休憩した後、三人はドロップ品の品定めをした今回スケルトンオーガが落としたドロップ品は次のようなものだった。




【豪腕のブレスレット】


 ダンジョンのドロップ品、装備者に攻撃力三割、耐久力一割の上昇効果を与える。




【オーガの魔石】


 オーガの魔石、素材、鉱石としても魔力を溜める器としても使える。




【山崩】


 スケルトンオーガからのレアドロップ品、外見はハルバード等のポールウェポン。


 上段から振り下ろせば山が崩れたとの伝説が残されている。


 質量の篭った重撃と切れ味を活かした斬撃の両方の戦い方が可能。


 持ち主次第によっては名前を変えて成長する。




 三人で話し合った結果、豪腕のブレスレットはレミリア、魔石はとりあえず斬波が保管、山崩は斬波が日常装備品として扱うことになった。




「ほらよ、俺の剣はお前にやるわ」


「斬波さん……」


「あ、あの……私なんかに良いのですか? こんなに素晴らしいものを…………」




 レミリアはドロップ品受け取りを遠慮しようとしたが野郎二人がそれを断固拒否したため、豪腕のブレスレットは強制的にレミリアのものとなった。


 それでもレミリアは遠慮がちな態度をとったので優之介が彼女の左腕にブレスレットを通してあげた。




「はい♪ これはレミリアが頑張ったご褒美だから受け取って」


「~~はい、ありがとうございます♪」


「次は左の薬指に指輪をはめてくださいね……♥」


「え? 指輪?」


「い、いえ何でもありませんよ!」


(この世界でも婚姻の印に指輪なんだな)




 斬波は優之介とレミリアのやり取りを見て(ソフィーリアと喧嘩になるなよ……)と密かに願うのであった。


 

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