第四話 動く強い骨との戦い方その一、物理で殴ってみる


「カタ……カタカタカタカタ…………」




 ボスモンスターと思わしき魔物の見た目はまんまスケルトンだが、身長は三メートル近くあり、骨の一本一本が人の物よりも太く頑丈そうで、頭蓋骨には大きな二本の角が生えていた。手には重厚感のある装飾が施され、猛々しいオーラを放つ大斧が握られていた。




「【解析アナライズ】……オーガスケルトン、レベル五十!?そんな……勝てるわけがない…………」




 レミリアが【解析】魔法でモンスターを調べた結果、今回のエリアボスはレベル五十のスケルトンオーガらしい。自分よりレベルが高いモンスターを相手にレミリアは顔を真っ青にして怯えてしまった。


 優之介はそんなレミリアを落ち着かせる為に彼女の肩をそっと抱き寄せ、耳元でそっと囁いた。




「大丈夫だよ、俺がついてる」


「ユウノスケさん……!!」


「いいかいレミリア、諦めたらそこで試合終了なんだよ。俺達はまだ生きてる、生き伸びる為に頭と体を全力で使うんだ、最後の最後まで諦めちゃダメだよ」




 優之介がどこかの漫画で出た名言を加えつつレミリアを励ますと、斬波も優之介に便乗してレミリアに声を掛ける。




「優之介の言うとおりだ、最初から諦めるな。確かにあの骨は優之介とレミリアよりレベルが高いけど俺よりは低い、勝機は十分ある。そして忘れたか? 今お前の目の前にいる男はレベル三でオーガを無傷で倒したんだぞ、これくらいどうと言うことはない」


「シバさん……!!」


「あれチートじゃん……」




 斬波が格好いいことを言ってレミリアを元気付けつつ自分のボルテージを上げようとしたが、優之介が水を差すようにツッコミを入れたせいで台無しになってしまった。




「水を差すなよ……。優之介、ポジションチェンジだ、俺が前に出る」


「了解!!」


「私も戦います! お二人のサポートをします!!」


「震えてる状態で言われても心強くないぞ、震えが収まるまでそこで待機だ」




 レミリアが自分も戦うと志願するが、斬波に身体の震えを指摘され止められてしまった。こうして会話をしている間にもスケルトンオーガはズシン、ズシンと足音を鳴らして近づいてくる。


 悠々と近づいてくるスケルトンオーガに表情は無いが、震えが止まらないでいるレミリアにとっては自分を嘲笑っているかのように見えたのか、震えが激しさを増す。




「おっと、てめぇの遊び相手は……いや、てめぇは俺の実験台だ。これ以上は近づくんじゃねぇ!」


―ドゴォォ!!


「―!?!?」


「すごい…………」


「レミリア立てる!?もう少し距離を取ろう!」


「は、はい!!」




 斬波がオーガスケルトンを殴り飛ばした隙に、優之介とレミリアはオーガスケルトンから距離を取って斬波を見守る。




「見たか、これが【魔力纏】と【魔力変化】のスキルと【身体強化】の魔法の合わせ技!!」


「シバさんの腕が黒い金属に……!?」


「何したんですか!?」




 優之介とレミリアはオーガスケルトンを殴り飛ばした斬波の腕を見て驚愕した。何故なら斬波の右腕全体が炭でコーティングされたかのように真っ黒になっていて、尚且つ鈍い光沢を放っているからだ。


 自分のイメージ通りの結果が出たことに満足したのか、誰からも頼まれていないのに斬波が勝手に今自分がやってみせたことを説明しだした。




「【魔力纏】で身体全体に魔力を纏うことで耐久性を上げ、【魔力変化】で右腕に纏った魔力だけをウルツァイト窒化ホウ素に変化させてみたんだけど、これは凄いな。腕の関節は違和感なく自由に動かせてこの強度、これで俺のスキルを使えば魔力を強力な武器にも、鎧にもなれることがわかったな。更に【身体強化】魔法で腕力を上げたらより破壊力が増すことも容易に可能、これは使えるな!」


「「ウルツァイト窒化ホウ素って何? (ですか)……」」


「地球上で最も硬いと言われている物質だ、覚えておけ。因みにダイヤモンドは地球上で三番目に硬い物質なので間違えるなよ。それよりオーガスケルトンが起き上がるぞ」


「カタ……カタカタカタカタ…………」


「GOOOOOOOOOOOOOOOH!!」




 斬波の先制攻撃に面食らったのかオーガスケルトンが不自然にゆっくり起き上がる。斬波の姿を確認したオーガスケルトンは敵意を完全に斬波に向けて咆哮を上げた。




「なかなかリアルな咆哮だがどうやって出したんだぁ? ま、そんな事はどうでもいいか。今回は一酸化炭素で毒殺は無理そうなんで……」


「OOOOOOOOOOOOOOOH!!」


「まぁ、骨が相手だったら物理で砕くに限るよなぁ!!」


―ガァァァン!!




 斬波が叫ぶと同時に斬波の拳とスケルトンオーガの大斧が衝突し、部屋の隅までその音を響かせた。斬波とスケルトンオーガは拳と大斧の鍔迫り合いになるが、斬波は片腕なのに対し、スケルトンオーガは両手で上から押さえつけているので状況は斬波が不利だ。




「筋肉が無いのにそのパワーは反則だろ……ッ!!」


「HOOOO!」


「優之介!」


「―ッ! セイヤッ!!」


「―OOH!?!?」


「なっ!?」




 優之介は斬波とスケルトンオーガが鍔迫り合いで硬直してるところを狙い、スケルトンオーガを斬りつけるがスケルトンオーガの骨身に大したダメージは与えられなかった。




「斬れない!?」


「当たり前だ! 骨の主成分はハイドロキシアパタイトだぞ!?石だ石! 斬ろうと思って斬れるもんじゃねぇ、砕くんだよ! ―のあっ!?」




 斬波は右腕で大斧を受け止めつつ、左腕もスキルで真っ黒にしてスケルトンオーガを砕こうとしたが、その前にスケルトンオーガに蹴り飛ばされてしまった。




「GOOOOOO!!」


「斬波さん!!」




 優之介の攻撃が失敗し、間が空いたところをオーガスケルトンが斬波を蹴り飛ばしたので野郎二人のファーストアタックは失敗に終わってしまった。


 蹴り飛ばされた斬波は五メートル程飛ばされ、レミリアのすぐ側まで転がった後、腰をさすりながらよっこいせと立ち上がる。




「いっつつ……なかなかやるな、魔法とスキルを重ね掛けしてなかったら危なかったな」


「シバさん大丈夫ですか!?」


「あぁ大丈夫だ。ん? あ、そうだ……」


「……はい?」




 斬波は立ち上がると何かを思い出したかのように行動を始めた。スケルトンオーガの意識が自分に向いてないことを確認する、スケルトンオーガは次のターゲットを優之介に定め、大斧を振り回していた。


 優之介はオーガスケルトンに対して鞘にしまった状態の剣で殴って応戦してるが効果は今ひとつのようだ。


 斬波は優之介とオーガスケルトンを見て一度戦場から離脱できたことを確認したら、おもむろにレミリアの背後に回り込んで……。




「―ほれ♪」―もにゅん♥




 背後から、思いっきり彼女の胸を揉んだのだ。


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