第十四話 斬波のレベルは国内最高らしかった


 優之介はレミリアとレストランで食事デート中に、彼女から斬波のレベルを聞かれたので大まかに教えるとレミリアはその数字に驚いたのか、持っていたフォークを床に落としてしまった。


 優之介は何か変な事を言ったかな? と、周りを見てみるがほかの客やウェイターも皆驚いた様子で優之介を見ていた。




「ユウノスケさん、私の聞き間違いでしょうか? シバさんのレベルは六十を超えていると聞こえたのですが……」


「聞き間違いじゃないよ、どうしたの? そんなに変?」


「ユウノスケさん、王国の近衛兵ですらレベルは四十代、団長副団長はレベル五十代とこの国では広く知られています。何故知られているのか、それはこの国の戦力を示す為です」


「は、はぁ……」


「実際に近衛騎士団はこの国最大の戦力と言っても過言ではないでしょう。そして、その団長と副団長のレベルよりも高いレベルを持つ存在は誰一人としていませんでした」




 何と言う事でしょう、アースカイ王国の最高戦力の近衛騎士団の平均レベルは四十代、団長のディムルと副団長のクラウディアで五十代らしい。その情報は王国が戦力の主張として公表していて、尚且つディムルとクラウディアに及ぶレベルの人間はいないらしい。


 それを優之介が「斬波さんのレベルは確か六十は超えてた」等とあっさり言ってしまった為、この国の最高戦力よりも強い存在がいきなり現れたことでレミリアを始め、優之介の言葉を聞いた人々が皆驚いたのだ。




「あー……そこから先は言わなくていいです、ただ周囲の視線が気になるので今食べてるデザートを食べ終えたら出ませんか?」


「私は大丈夫です、今の話を聞いてもう少し詳しくお話を伺いたいのですが、ここでは目立ってしまいます」




 周囲の視線が気になって居づらくなった優之介とレミリアはデザートをさっさと食べ終え店を後にした。


 街の中心街を二人並んで歩いてるとレミリアが先程の話を掘り返してきた。




「先程の話ですが、口外しないほうがよろしいですよ。シバさんが王国に目を付けられます」


「あ、はい……」


「どうしてシバさんが六十レベル超えの猛者になったのか、お買い物デートをしながらお聞きしてもいいですか?」




 先程のレストランの前例から考えて優之介は少しためらったが、レミリアにがっつり教えてしまった手前断ることが出来ないので、周囲に気を付けながら教える事にした。


 斬波がオーガを倒す前はレベルが七だったこと、オーガを倒した手段はオリジナルの魔法だったこと等をレミリアに教えてあげた。




「敵を無傷で倒す魔法をレベル七で使えたなんて信じがたい話です。その魔法の使用は控えたほうがいいですね」


「あはは、ソウダネ……」


「あら? あれは何でしょう?」




 レミリアからジュノンとほぼ同じセリフを聞いた優之介はどこか遠い目をしながら答えた。レミリアの思考が神なのか、ジュノンの思考が実は人間と変わらないのか、それは神のみぞ知ると言ったところか。


 優之介がそんな事を考えながら歩いていると、自分の隣を歩いていたはずのレミリアがいなくなっていることにふと気がついた。


 優之介はいなくなったレミリアの姿を探す、レミリアはおおよそ三十メートル先の小さな露店で商品を眺めていた。




「まぁ、綺麗なネックレスですね」


「いらっしゃい、見ていってくれよ」


(ついさっきまで真面目な話をしてたのにスイッチの切り替えが早いな……)




 優之介はふぅ……と一息つきながらレミリアの斜め後ろに立ち、彼女が眺めているネックレスをこっそり【鑑定】してみる。すると、意外な掘り出し物の予感がする代物だった。




【幸運のネックレス】


 ミスリルと銀を混ぜて作られたチェーンとブルートパーズがはめ込まれた装飾が施されたネックレス。


 ダンジョンのレアドロップアイテム。


 装着者の運を二倍に増加させる。




「レミリア、そのネックレスが気に入ったの?」


「はい、とても綺麗です♪ ですが……」




 レミリアはネックレスを欲しそうに見ていたがなかなか買う勇気を持てずにいた。理由は言わずもがな、値段だ。


 ネックレスの隣に貼られている値札を見ると金貨五枚と書かれていた。




「金貨五枚……」


「お兄さん、高いと思っちゃいけませんぜ? なにせこれはダンジョンのレアアイテム、このくらいは当然でさぁ」


「……らしいね」


「【鑑定】スキル持ちか【解析】の魔法を使ったね? それかダンジョンに潜り慣れてるとか」


「ご想像に任せるよ、ただ金貨五枚は高すぎないか? 一般人が手を出せる値段じゃないだろ」


「そう言われましてもこっちも商売ですから」


「……金貨二枚なら即決で俺が買うよ」




 優之介は露店の店主に幸運のネックレスを金貨二枚で売るなら買うと言った。しかし、店主もはいそうですかと売るわけにはいかない。




「あらら、困りますよお兄さん、まけても金貨四枚ですぜ」


「じゃあ金貨三枚でどうかな?」


「……金貨三枚でいいでしょ、これ以上はまけられませんぜ」


「買った」




 優之介が値切り交渉をした結果、金貨五枚のネックレスを金貨三枚で買うことが出来た。日本円で二十万円の値切りに成功したのだから結果は上出来と良いだろう。


 優之介は店主に代金を払い幸運のネックレスを受け取ると、レミリアにネックレスをつけてあげた。レミリアは頬を真っ赤に染めて嬉しそうにネックレスを見つめていた。


 その様子を眺めていた優之介は買って良かったと満足し、露店の店主は「お~お~お熱い事で」とぼやいていた。




「本当に、いいのですか……?」


「初デートの記念に♪」


「~~~~っ……///」


「店の前でイチャつくのはやめてくだせぇよ! ったく、こっちは金貨二枚も損してるってのに……」




 露店の店主が嫌そうな顔をするので、二人は露店から退散した。


 この後の優之介とレミリアはずっと腕を組んだままお散歩したり、ベンチで休んだりして過ごし、安心亭に戻ったのは夕方だった。




「おぅおかえり~♪ 仲良く腕組んで帰って来たって事はデートは上手くいったようだな。これから飯なんだ、レミリアも食ってけよ。優之介の奢りでな!」


「はい! ご馳走になります♪」


「え、ちょ斬波さん!?」


「俺のレベルをバラした罰♪」


「何で知ってるんだあああああああああああああ!!」


「あ、カマかけたつもりだったんだけど本当だったのか……」


「あ……いやあああああああああああああああああああ!!」




 優之介が斬波のレベルを教えた事が斬波にバレたことで、この日の斬波とレミリアの食事代は全て優之介の奢りとなってしまった。懐は十分にあるが、全部で金貨二枚分の食事代を払うハメにあった優之介はしばらく節約しようと心に決めたのであった。

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