第十三話 人生初のデートは異世界で

 ガチャポンプの生産、物流の契約交渉が済んだ(正確には見届けた)優之介は街の中心にある広場のベンチ座って空を見上げていた。




「デート、か……人生で初めてかもなぁ…………」




 優之介の口からデートの単語が出ているが、彼は今まさに人生で初めてのデートをするのだ。事の発端は斬波が「優之介、お前はレミリアと一緒にデートでもしてこい」と優之介とレミリアに言った事がきっかけだ。


 斬波の言葉を聞いた二人はお互いに恥ずかしがりながらも合意し、デートをする運びとなった。レミリアよ、昨日の大胆行動からして君が恥じらう事はないだろうに……。


 因みにお相手のレミリアは準備があるため宿泊先へ一度戻っているので、今現在優之介は所謂待ち合わせをしている。




「ユウノスケさぁ~ん♥」


「あ、レミリア!」




 レミリアが優之介を呼びながら小走りで寄ってきた。安心亭で会った時は冒険者風の服装だったが、今回の服装はカジュアルドレスとティアンドルが混ざったような衣装だ。レミリアはスタイルが良いので何を来ても似合うし、衣装の色も白と薄いピンク色で彼女のアプリコットオレンジの髪色と絶妙にマッチしていてとても可愛い。気づけばレミリアは周囲の男共の視線を釘付けになっていた、勿論、優之介も例外ではない。




「その服とても似合ってるね」


「うふふ、ありがとうございます♪ お気に入りの一着なんですよ。今ちょうど良い時間ですし、このまま歩いて予約したレストランに行きましょうか♪」


「あ、はい! あの、わざわざ予約を入れてくれたんですか?」


「わざわざ、ではありません。私がユウノスケさんとゆっくり食事をしながら、たくさんお話したいから予約を取ったのです。さぁ行きましょう♥」




 優之介とレミリアは腕を組んでレストランへ向かった。二人はレストランへ向かう道中もいろいろお話をしたのだが、優之介はお話の内容より、自分の腕にレミリアの胸が当たる現象の方が気になって仕方が無かったので道中の会話の内容は正直殆ど覚えていなかった。






――――――――――――――――――――






「何か高そうなお店だね……」




 レミリアが予約したレストランに到着すると、優之介はレストランの外観に高級感を感じていた。しかし、レミリアは「しっかりエスコートしてくださいね♥」などと言い、お構いなしに店に入ろうとするので優之介はぎこちない返事をして、彼なりに頑張ってレミリアをエスコートしてあげた。


 レストランのウェイターに案内された席は二階のテラス席で、そこから眺める街の景色は素晴らしく風も心地よいので優之介の緊張は少し和らぐことができた。




「なかなか良い席ですね」


「ええ、せっかくですからお願いしてこの席にしてもらいました♪」


「あ、ウェイターさん。こんな素晴らしい席をありがとうございます♪」




 優之介はウェイターにお礼を言って金貨一枚のチップを渡してあげると、ウェイターは勿論の事レミリアまでも驚いていた。チップに金貨は多かったようだ。


 チップに金貨を渡された事にすっかり恐縮してしまったウェイターは二人に礼をしてどこかへ行ってしまったと思ったら、銀でできた二つのグラスと一つのボトルを持って来た。




「こちら、サービスの白ワインでございます」


「まぁ、ありがとうございます」


「あ、ありがとうございます」


「とんでもございません、数ある店から当店をご利用いただけました事、大変光栄に思います」




 ウェイターは流れるような動作でワインを注ぎ、前菜メニューを配膳し終えると「ごゆっくり」と言い残してどこかに行ってしまった。




「ユウノスケさん、乾杯しましょうか」


「うん、そうだね」


「「乾杯♪」」




 優之介とレミリアはカチンとワイングラスを一口飲んでから食事を楽しんだ。


 料理はコース形式で、決まった物がデーブルに運び込まれてきた。肉料理を食べている時にレミリアがふと優之介の食事風景に興味を持った。




「ユウノスケさんはテーブルマナーも身につけているのですね」


「斬波さんにみっちりしごかれました……」


「うふふ、ユウノスケさんとシバさんは仲が良いのですね♪ ご兄弟、ではありませんよね?」


「うん、俺と斬波さんは兄弟じゃない、でも斬波さんの事は本当の兄弟のように思っているんだ」




 優之介はソフィーリアに話した時と同じように自分と斬波の生い立ちをレミリアに教えると、ワインを一口飲んでふぅと一息つく。優之介自身いろんな思い出話が記憶に残っているが、この話をする時は特にその当時の光景が鮮明に脳裏に浮かぶ。いつ何時だってこの話を話せば寂しくも温かい気持ちになるのだ。


 レミリアは目頭を熱くしながら優之介の話を聞いていた。




「ユウノスケさんとシバさんは幼少期の頃からずっと支えあって生きてきたのですね……。私がいかに幸せ者かしみじみ思います」


「やめてよレミリア、それじゃあまるで俺達が不幸みたいじゃないか。確かに過去は辛い毎日だったけど、人間それでも前を向いて生きていかなきゃいけない。斬波さんは『死ぬときに”生きてて良かった”と思えるように楽しいこと、辛いこと、苦しいこと、誰かが死んで悲しいときはとことん悲しむ、全部身体全体で受け止めろ』って言ってるくらいなんだ、だから、俺も何事にも全力で取り込もうとしてるし、そのおかげで今は楽しい毎日さ」




 優之介の言葉にレミリアは一瞬目を見開くと呆然とした表情でこう言った




「お二人共その若さで随分と達観しているのですね……」


「それだけこれまでに経験した人生が濃かっただけだよ。さ、今は食事を楽しもう♪ ここのお店の料理はとても美味しいよ」


「そうですわね、私としたことが失礼しました」




 この後の食事では純粋に料理の味を楽しみ、会話の内容もウラドの親バカぶりや、優之介と斬波が川で水浴び中モンスターに襲われて冷や汗をかいたこと、斬波がオーガを無傷で討伐してギルドに持ち込んだら騒ぎになったこと等、穏やか? なものだった。




「まぁ、マスターセドリックから傷がなしのオーガが入ったと飛脚便が届いたので、この度はティユールの街に来たのですがまさかシバさんが討伐したなんて……。シバさんのレベルはいくつなのですか?」




 レミリアから斬波のレベルを聞かれた優之介は正直に答えようとしたが、ステータスは個人情報なので本人の同意なしに教えることは紳士ではない。優之介は少し言葉を濁してレベルくらいならと答えることにした。




「正確にはわからないけど、斬波さんのレベルは確か六十は超えてたかな……」


「え……」




―カラン……




 斬波のレベルを聞いたレミリアは何やら驚いた様子で手に持っていたフォークを落としてしまった。


 あれ? 何か変な事言ったかな?

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