第八話 依頼完了、そして……

 

 時は夕方、夕日が空を茜色に染めてもうじき日が暮れそうな時間帯に優之介、斬波、レミリアの三人はティユールの街の検問所にいた。




「ん~帰ってきたぁ~~!」


「早く宿に戻って休みたいな」


「あ……私はどうしたら良いのでしょう?」


「宿代くらい出しますから心配しないでください♪」


「あ、ありがとうございます」




 三人が検問所の前でお喋りをしていると、衛兵がやって来てすぐさま検問が始まった。因みに前回検問を受けた時とは別の衛兵が相手だった。




「やぁ君達かい、前回は手に抱えきれない程の素材を抱え込んでやって来たかと思えば、今回はとびっきりの美女を抱え込んで来ちゃってぇ~♪ 話のネタが尽きなくて助かるよ!」


「私はゴブリンの群れに攫われていたところを、ユウノスケ様とシバ様に助けてもらいました。二人共とも愉快で良い人ですよ♪」




 レミリアが衛兵にそう言うと、衛兵はギョッと目を大きく見開きレミリアおまじまじと見てから少し慌てた様子で三人に言った。




「え、お嬢さんが今回の被害者だったのかい!?昼過ぎくらいにホブゴブリンウォリアーが率いる群れに襲われたって商隊が駆け込んで来て、街は今ちょっと騒ぎになっててね、冒険者ギルドも依頼を緊急手配して救助隊を編成してるんだけど、その必要がなくなってしまったなぁ。まぁ、ともかく助かって良かった、うちから先遣をギルドに送るから君達三人は後からギルドに顔を出してくれ。あ、検問は勿論通っていいよ」


「「「ありがとうございます」」」




 検問らしい検問を受けていないが、優之介と斬波とレミリアは衛兵にペコりとお辞儀をしてから検問所を潜り、そのまま冒険者ギルドに向かった。


 冒険者ギルドに到着して中に入ると、ギルドのホールは騒々しい雰囲気に包まれていていた。三人はとりあえず中に入ると、優之介と斬波を見つけたエマが受付カウンターから飛び出して来て真っ先にこちらに向かってきた。エマがこっちに向かってくる際に見せた表情が真剣すぎてちょっと怖い。




「ユウノスケさんシバさん大丈夫でしたか!?」


「エマさんどうしたんですか!?そんなに慌てて」


「さっき衛兵さんが知らせに来てくれたんです! 私もホブゴブリンウォリアーは予想外で……」


「確かに、あの依頼にはゴブリンの群れとしか書いてなかったですからね。ホブゴブリンウォリアーが出てきたときは正直ヒヤッとしましたよ、でもちゃんと討伐出来て良かったです、お陰で良い修行になりました♪」


「へ? 討伐……しちゃったの?」




 優之介がホブゴブリンウォリアーを討伐したことを伝えると、エマは信じられないと言ったような表情をし、それを聞いた冒険者達はざわざわと話し始めた。




「ホブゴブリンウォリアーは危険度Bクラスの魔物だけど、Aに近いレベルで危険な魔物なのよ? 戦闘能力は高いし、ゴブリンの統率力もあって二人で討伐はとてもじゃないけど危険すぎるわ! 本当に二人で討伐したの?」




 エマが優之介の両方を掴み前後に揺さぶりながら聞いてくるので、優之介と斬波は依頼書とゴブリンの耳と魔石をエマに渡すと、エマは顔を青くしてしまった。




「この一際大きい魔石……間違いないわね、それに耳も他のゴブリンより大きい…………」


「それじゃあ依頼完了の手続きお願いします♪」


「わ、わかりました……。あ! 攫われた方って…………」


「私ですが?」


「ソヘル商会の会頭が奥でお待ちなのでご案内します! ユウノスケさんとシバさんもどうぞ!!」




 優之介と斬波とレミリアは落ち着きのないエマの案内で、ギルドマスターの部屋に向かうことになった。面倒そうな顔をする野郎二人だったが、今回の依頼の報酬もそこで支払われるとのことで渋々向かった。






――――――――――――――――――――






―コンコンコン―




「……あぁ、入りな」


「「失礼します」」「邪魔するぞ」




 三人がギルドマスターの部屋に入るとそこにはセドリックと身長がとても低い中年男性がそこにいた。あの中年男性、レミリアの半分も身長低いんじゃないか?




「あ、あ……」




 中年男性はレミリアの姿を見つけるとすぐさま立ち上がり、目に涙をいっぱい溜めてこちらに猛ダッシュしてきた。優之介と斬波はちょっと引いた。




「レ゛ミ゛リ゛ア゛ァァァァーーーーー!!」


「おとうさ……ま゛ッ!?」




―ドゴォッ!?




「「あ……」」




 中年男性の正体は、レミリアがお父様と呼ぼうとしたのだからきっと彼女の父親なのだろう。娘の帰還を涙ながらに喜び、駆け寄るのは良かったが、ダッシュの勢いが強すぎてレミリアの鳩尾におっさんの頭がクリーンヒット! 強烈なタックルがレミリアに見舞われてしまった。美しいレミリアの顔が酷く歪んでいるので相当痛かったのだろう……南無。




「いやぁすまない! 娘が無事に帰ってきてくれた事が嬉しくてつい……」




 頭にたんこぶを作ったレミリアの父親であろうおっさんが、優之介と斬波に頭を下げる。因みにおっさんのたんこぶは、痛みから少しだけ回復したレミリアの拳骨で出来たものだ。


 優之介と斬波は横目でちらっとレミリアを見たが、まだ痛そうにしている。




「私はソヘル商会の会頭を勤めているウラド・ソヘルと言います。この度は娘を助けてくれて本当にありがとうございます、感謝してもしきれません!」


「そんな、頭を上げてください。俺達はたまたま遭遇しただけですから」


「そうそう、修行がてらゴブリン討伐に行っただけだ」


「ユウノスケ君、シバ君、そのことなんだが私から話がある」




 野郎二人とウラドの会話にセドリックが割って入った。




「今回のゴブリン討伐の報酬は当初は銀貨五枚の予定だったが、大銀貨二枚と銀貨四枚に増額させてもらおう。カヤ村の村長からの話しだと、ゴブリンの群れ五体程度だと聞いていたが、蓋を開ければ群れの規模が全然違った。今回はその迷惑料とホブゴブリンウォリアーの魔石の値段も上乗せしよう」


「迷惑だなんてとんでもない、想定外はいつでも起こりうる事ですよ」




 モラクの言っていた事は嘘ではないだろう、ホブゴブリンウォリアーは群れを二分して村を襲わせていたと考えれば腑に落ちる。


 しかし、ゴブリン五体程度と、ホブゴブリンウォリアーが率いる計十三体の群れとでは危険度がかなり異なるので、依頼を用意したギルド側は申し訳無く思っているのだろう。お金はいくらあっても困ることはないので、優之介と斬波はセドリックの報酬上乗せの話を受け入れることにした。




「報酬上乗せの件とは別に、私からも君達に礼を言いたい。ソヘル商会はこの国有数の豪商で、ギルドとしても私個人的にも世話になっている。今回君達がそちらのお嬢さんを助けてくれたお陰で、うちのメンツも潰れずに済んだ。本当にありがとう」


「セドリックさんそんな、頭を上げてくださいよ」


「ユウノスケさんにシバさんだったかね? この礼は必ずする! 私に出来ることなら君達の望むものを用意しよう!!」


「別に礼が欲しくて助けたわけじゃないんだ、そういうのはよしてくれ」




 おっさん二人が頭を下げるので、気難しくなった優之介と斬波は「話が終わったのなら帰るぞ」と言って帰ろうとするが、レミリアがそれを止めた。




「あの……!」


「はい、どうかしましたか?」


「今回は本当にありがとうございました……。あの、また会えますよね? ここでお別れじゃありませんよね?」


「また会えますよ。俺と斬波さんはしばらくこの街に滞在するつもりですからレミリアさんが会おうと思えばいつでも会えますよ♪」


「本当ですか!?」


「「本当です(だ)」」


「じゃあ、お二人の滞在先を教えてください! いつでも遊びに行きますから!!」




 優之介と斬波はレミリアに自分達は安心亭と言う宿に滞在している事を伝え、洞窟内で物色した品物を全て魔法鞄から出すとギルドマスターの部屋から退室し、そのまま冒険者ギルドから出て行った。


 退室する際、後ろを振り返った時にウラドが泣いていたように見えた気がしたけど、野郎二人は見て見ぬふりしてそのまま退室した。




「はぁ~、レミリアさん可愛かったなぁ~~……」


「ソフィーとどっちが可愛かった?」


「どっちも可愛すぎで選べないです! てかこの世界美女率高くないですか!?」


「俺の目から見てもそれは同意だな。さて、宿に帰ったら風呂にして飯食おうぜ」


「う~ラジャー」




 しょーもない会話をしながら優之介と斬波は宿に帰る。明日は薬草集めと自主トレを予定しているが、今日の出来事の手前何がどう転ぶかわからない。


 しかし、そんなハプニングも一興と野郎二人は笑いながら、今日の出来事を振り返っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る