第七話 社長令嬢? をお持ち帰りしました


「あ……、あぁ…………」


「斬波さん、いたよ! 女の子だ!!」


「見りゃわかるっての」




 ホブゴブリンウォリアーとゴブリンの討伐を終えた優之介と斬波は、洞窟の中から助けを求める女性の声が聞こえたので、洞窟の中に入り奥に進んだ。洞窟と言っても実際は洞穴程度の深さで十メートル程進むと行き止まりに到着し、その空間はドーム状のちょっとした広間になっていた。


 優之介と斬波がそこにたどり着くと、広間の中心部で一人の女性が地面に座り込んでいたので、優之介は女性に近づいて声をかけた。




「大丈夫ですか? 俺の名前は優之介って言います、お怪我はありませんか?」


「大丈夫です、怪我はありません。あの、ご……ゴブリンは…………?」


「俺と優之介で全滅させた」


「え!?群れの中にはホブゴブリンウォリアーもいたと思うのですが……」


「斬波さんと俺で倒しましたよ」




 優之介がホブゴブリンウォリアーを討伐したことを彼女に伝えると、彼女は安心したのだろうか、優之介の胸に飛び込んで泣き出してしまった。


 優之介は急に抱きつかれたので、どうしたら良いのかわからずあたふたしていたが、とりあえず彼女の背中をきゅっと抱きしめ、頭を撫でてあやすことにした。


 斬波が周囲を物色しながら「役得役得~♪」と、茶々を入れるが全力でスルーした。


 女性は十分くらい泣いた後、ようやく落ち着きを取り戻して優之介と斬波に自己紹介をした。




「ぐすっ……、ええとユウノスケ様と…………」


「斬波だ」


「失礼しました。ユウノスケ様にシバ様、私はソヘル商会会頭、ウラド・ソヘルの娘、レミリア・ソヘルと申します。この度は助けてくださって本当にありがとうございます」


(俺は名乗ってないから失礼でも何でもないんだけどな……)




 レミリアはそう言うと優之介と斬波に深々と頭を下げて礼をする。少し小っ恥ずかしくなった優之介と斬波が頭を上げるように言うと、レミリアはゆっくりと頭を上げてくれた。




(商会の会頭の娘って事は言わば社長令嬢かな? お嬢様とだけあって凄い美人だなぁ……)




 衣服は汚れて所々破けているが、穏やかで整った顔立ち、スタイルは出るところは出て締まるところは締まっていて抜群、上品なアプリコットオレンジ色で、ハーフアップに結ばれたセミロングボブの髪型と、ベーゼルとブラウンの中間のような落ち着きのある色の瞳は、どこかただならぬ者の雰囲気を感じさせていた。




「事情は後だ、そこら辺を物色して使えそうなものを回収したから、とりあえずここから出よう。優之介、レミリアさんに毛布を被せてやれ」




 おそらくゴブリン達が盗んだであろう盗品が洞窟内に散乱していたので、斬波はそれらの中で使えそうなものを物色し魔法鞄の中に収納した後、優之介とレミリアにそう提案し、二人はこれに同意した。


 優之介はレミリアに、野営用として街で買った毛布をレミリアに被せ、一緒に洞窟から出るよう促した。




「さ、ここから出ましょう。レミリアさん、歩けますか?」


「そんな、私の事はレミリアと……あっ!」


「おっと!」




 レミリアは歩き出すが、石につまづき転びそうになるところを優之介が受け止める。短時間で優之介の胸を二回借りたレミリアの頬は赤く染まっていた。




「大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です……///」


「そうですか、でもゆっくり行きましょうか♪」


「はい……///」


(あー……このやり取りをソフィーに見せつけてやりてぇ……)




 優之介はレミリアの肩を抱き寄せ、レミリアは優之介に寄り添いながら、そして斬波は背後でイチャついてる二人に気だるさを感じながらカヤ村に戻った。






――――――――――――――――――――






 三人、正確には野郎二人だが、ゴブリン討伐の報告をするために再びモラクの家を訪ねていた。


 モラクは快く出迎えてくれたが衣服がボロボロのレミリアを見て驚いた様子で、優之介と斬波が事情を説明すると、モラクは自分の妻にレミリアの世話をさせるように指示をした。




「いやぁ驚きました、まさかゴブリン共が人攫いまでしていたなんて……」


「珍しいことなんですか?」


「ゴブリンが人間の女を攫う事は珍しくありません、ただ村の女達には村から出ないよう言い聞かせて、女達はそれを守っていましたから……」


「レミリアさんはソヘル商会の会頭の娘って言ってましたから、この村の人間じゃなければ道理かと思いますよ」


「そうですな、あぁ依頼書を出してもらってもよろしいですか? 依頼完了のサインをしますので」




 斬波が魔法鞄から、依頼書とゴブリンの耳と魔石を取り出しテーブルの上に置くと、モラクが耳と魔石を確認して依頼書にサインしてくれた。


 村に現れるゴブリンが五~七体だと言っていたモラクだが、実際には倍近くの十三体いた事に少し驚いていた。




「いやはや十体以上いたとは、それにホブゴブリンまで……。冒険者ギルドに依頼して正解でしたな、こちら依頼書です」




 斬波がモラクからゴブリンの耳と魔石、サイン済みの依頼書を受け取ると魔法鞄に再び収納すると同時に、着替えを済ませたレミリアとモラクの妻がお茶を持って部屋に戻ってきた。因みに、着替えは捨てる予定だったモラク妻のお古だそうで、この際ありがたく頂戴した。




「改めて本当にありがとうございました、貴方方は私の命の恩人です。村長さんたちも何とお礼を言ったら良いか……」




 優之介、斬波、レミリア、モラク夫妻がテーブルを囲んでお茶を嗜んでいると、レミリアが少し穏やかな声でそう言いながら静かに頭を下げた。




「そんな、俺達は偶然鉢合わせただけですから、とにかく頭を上げてください!」


「私共も大したことは出来ていないですよ、お嬢さん、どうかお顔を上げてください」


「はい……」


「あの、もし良かったらでいいので、レミリアさんがああなってしまった経緯を聞いてもいいですか?」


「……あれは今朝の事です」




 レミリアは自分があの洞窟にいた経緯を話し始めた。


 レミリア曰く、最初は彼女と彼女の父、そして護衛四人でティユールの街へ目指している途中、一度野営を挟んだ朝に、あのホブゴブリンウォリアーとゴブリンの群れに出くわしてしまったらしい。


 護衛四人は彼女と彼女の父を逃がすために、必死に抵抗したがホブゴブリンウォリアーに重傷を負わされ、更に馬車を破壊され積荷を奪われ、彼女も攫われてしまったとの事。


 そして、ゴブリン達は戦利品をあの洞窟に集めていて、レミリアも戦利品として洞窟の中に拉致されていた……。と、言う経緯だそうだ。




「ユウノスケ様とシバ様がゴブリン討伐にいらしてなかったら、私は今頃人として生きていく心を壊されていたことでしょう。ですが、私は今こうして奇跡的に無事でいられているのです! 下を向いていられませんわ!!」




 レミリアはそう言ってお茶をぐいっと飲み干し、力強く立ち上がった。今までなよなよしかったレミリアが急に元気になったものだから優之介と斬波はぽかんとした表情のまま固まってしまった。




「あらら、お茶の効能が効いたようですね♪ ささ、ここは私達が片付けますから、ユウノスケさんとシバさんはそちらのお嬢さんをティユールの街まで保護してあげてくださいな」


「あ、はい! ごちそうさまでした!!」


「……ごちそうさまでした」




 野郎二人とレミリアはモラク夫妻と別れを告げてカヤ村を後にした。


 少し予想外な出来事もあったが、何がともあれ、これで初依頼を達成できた優之介と斬波は、依頼に行く時よりも無駄に足取りを軽くティユールの街へ戻るのであった。




「あのお茶、薬草茶なんだろうな♪ 身体が軽くて調子が良くなってきたぞ!」


「俺もかなりリラックできましたよ♪ 今度は薬草集めに出かけましょうかね?」


「そんじゃあ明日は自主トレと薬草集めだな!!」


「ラジャー!」


「……ふふふ♪」


「ん? レミリアさん何かありましたか?」


「何でもありません♪」(何だかあのお二人を見てると愉快な気持ちになってしまいます♪)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る